
「急な資金が必要になったが、どうすれば資金調達できるだろう?」
「資金調達法はいろいろあるけれど、わが社に合った方法はどれだろうか」
日ごろからそんな疑問を抱いている経営者の方も多いのではないでしょうか。
企業が資金調達するには、大きくわけて3つの方法があります。
- 資産を現金化する=アセットファイナンス
- 負債を増やす=デットファイナンス
- 資本を増やす=エクイティファイナンス
アセットファイナンスはスピーディな資金調達が可能、デットファイナンスは「レバレッジ効果」が期待でき、エクイティファイナンスは返済の必要がないなどそれぞれにメリットがあります。
もちろんデメリットもあるので、経営者は自社に適した方法、また調達可能な方法を模索しなければなりません。
そこでこの記事では、3つの資金調達方法と、それぞれに含まれる具体的な方法について特徴とメリット・デメリットを解説していきます。
- 資金調達とは何か
- アセットファイナンス、デットファイナンス、エクイティファイナンスそれぞれの特徴とメリット・デメリット
それをふまえて、さらに次のような具体的な方法について掘り下げていきます。
- アセットファイナンスに含まれる5つの資金調達法とメリット・デメリット
- デットファイナンスに含まれる3つの資金調達法とメリット・デメリット
- エクイティファイナンスに含まれる9つの資金調達法とメリット・デメリット
- その他の資金調達法とメリット・デメリット
- 資金調達の注意点
最後まで読めば、あなたの会社に最適な資金調達法が見つかるはずです。この記事で、あなたが無事に必要な資金を調達できるよう願っています。
目次
1. 資金調達とは
資金調達を目指すには、まず「資金調達とは何か」をよく知る必要があります。
この章では、資金調達の基本知識を身に着けておきましょう。
1-1. 「資金調達」の意味
「資金調達」という言葉は、ひと言でいえば「企業が事業のために必要な資金を調達すること」という意味で使われます。
主に、企業の外部からお金を集めることを指しますが、その方法は、銀行から融資を受ける、株式を発行する、資産を現金化するなどさまざまです。
また、資金調達の目的も多様で、運転資金、設備投資、事業拡大、新規開業などのために必要とされます。
資金調達がうまくいかなければ、事業の成長機会を逃し、場合によっては運営に支障が生じてしまいますので、経営者は資金調達法に精通しておく必要があるでしょう。
1-2. 資金調達は大きく3つにわけられる
一般的に資金調達法は、以下の3つに大別することができます。
- 資産を現金化する=アセットファイナンス
- 負債を増やす=デットファイナンス
- 資本を増やす=エクイティファイナンス
それぞれの方法について簡潔に説明しましょう。
1-2-1. 資産を現金化する=アセットファイナンス
1つ目は、「資産を現金化する=アセットファイナンス(Asset finance)」です。
企業が保有している資産のうち、売却可能なものを現金に変えることで、「資産の流動化」とも言われます。
具体的な方法としては、次のような方法があげられます。
- 資産の売却
- ファクタリング
- 在庫処分
- セール&リースバック
- 権利の売却
この方法のメリットは、緊急に資金が必要な場合にも対応可能だということです。
株式発行や銀行融資は、実際に資金が手元に入るまでに日数が必要です。
が、手持ちの資産を売却するのであれば、場合によっては即日で現金が得られます。
一方で、売却によって資産価値が目減りしてしまうリスクもあります。
本来は2,000万円で売れるはずの在庫商品を、急ぎで資金調達するために1,000万円で在庫処分すれば、とりあえず必要な資金は調達できても、手持ちの資産としては1,000万円目減りしてしまうわけです。
そんなアセットファイナンスについては、「2. アセットファイナンスの方法とメリット・デメリット」でくわしく説明しますので、そちらも読んでください。
1-2-2. 負債を増やす=デットファイナンス
2つ目は、「負債を増やす=デットファイナンス(Debt finance)」で、「Debt」とは文字通り「負債」を意味します。
負債を増やすことで資金調達する、というとわかりづらいですが、要は融資です。
融資金は、帳簿上の勘定科目では「負債」にあたる「借入金」として仕分けられますので、このような表現をしているわけです。
融資には主に、以下の方法があります。
- 金融機関からの融資
- 公的融資
- 社債
デットファイナンスの最大の利点は、「レバレッジ効果」が期待できることでしょう。
つまり、融資を受けることにより、融資額以上の利益を手に入れることが可能なわけです。
たとえば、いま事業を拡大すれば大きな利益が見込めるにもかかわらず、手元に資金が足りないとします。
そこで、2,000万円の融資を受けて事業拡大し、その結果、5,000万円の利益が上がった ─── これがレバレッジ効果です。
ただ、もちろん融資金は返済しなければなりませんし、その際には利息もかかります。
そもそも経営状態が悪い企業であれば、融資自体を受けられないかもしれません。
このデットファイナンスについても、「3. デットファイナンスの方法とメリット・デメリット」でさらに深掘りしていきますので、そちらも参照してください。
1-2-3. 資本を増やす=エクイティファイナンス
3つ目は、「資本を増やす=エクイティファイナンス(Equity finance)」です。
「equity」とは、「株主資本」「株式」のことで、つまりエクイティファイナンスとは、新しく株式を発行することで増資する資金調達法だと言えます。
その具体的な方法には、以下のようなものがあります。
- 公募増資(時価発行増資)
- 株主割当増資
- 第三者割当増資
- IPO
- 転換社債型新株予約権付社債(CB)
- ベンチャーキャピタル(VC)
- エンジェル投資家
- クラウドファンディング
- M&A
エクイティファイナンスには、調達した資金を返済する必要がない、という大きなメリットがあります。
また、もし事業が不振に陥って、発行した株式の株価が下落したとしても、企業側はその損失分に対して金銭的に補償する義務もありません。
たとえば信用度が低く業績の悪い企業でも発行することはできますし、集めた資金は企業がどのように使っても自由です。
一方で、株主に配当金を支払わなければいけないのはデメリットといえるでしょう。
持ち株比率によっては、経営権を奪われるリスクもあります。
これらエクイティファイナンスの具体的な資金調達方法については、「4. エクイティファイナンスの方法とメリット・デメリット」でくわしく説明します。
2. アセットファイナンスの方法とメリット・デメリット
資産を現金化するアセットファイナンスの方法です。
方法 |
概要 |
メリット |
デメリット |
資産の売却 |
事業の運営に支障がない資産を売却する |
・不要な資産を維持するコストもカットできる |
・すぐに売却できず、資金調達まで時間がかかる可能性がある ・希望額よりも安価でしか売れない恐れがある |
ファクタリング |
売掛債権を売却して現金化する |
・入金まで時間がかかる売掛債権を、今すぐ現金化できる ・信用度が低い企業でも、取引先の信用度が高ければファクタリングが可能 |
・売掛金から手数料が引かれて目減りする ・売掛債権を売却したことを取引先に知られることがある |
不要在庫の処分 |
過剰在庫や不要在庫を引き取り業者に売却する |
・即時に現金化できる ・保管コストも削減できる |
・古い商品だとなかなか売れない、または安くしか売れない |
セール&リースバック |
必要な資産を売却し、その後はリースして使い続ける |
・売却先が決まればすぐに資金調達が可能 ・売却後もその資産を利用し続けられるため、事業に影響しない |
・リース料が発生する |
権利の売却 |
特許権や著作権、商標権、営業権などの権利を売却する |
・権利の内容によっては高額で売却できる |
・こちらから譲渡先を探す場合は、なかなか見つからなかったり時間がかかる可能性がある |
2-1. 資産の売却
アセットファイナンスでまず最初に考えられるのは、「資産の売却」です。
事業の運営に支障がない資産を現金化します。
たとえば、利用者の少ない社宅などの不動産、使用していない設備機器、営業車両、有価証券などが考えられるでしょう。
【メリット】
資産売却で資金が調達できるだけでなく、不要な資産を維持するためのコストもカットできます。
たとえば利用していない不動産の管理費や固定資産税、設備機器や車両の定期検査やメンテナンス費などが必要なくなるわけです。
【デメリット】
資産の種類によっては、すぐに売却できず、資金調達まで時間がかかる可能性があります。
売却できても、希望額よりも安くしか売れなければ、必要な資金に足りないことも考えられるでしょう。
2-2. ファクタリング
「ファクタリング」とは、売掛債権を売却して現金化する資金調達法です。
数か月先に回収する予定の売掛債権を、専門のファクタリング業者に買い取ってもらうことで、早期に現金を手にすることができます。
【メリット】
数か月先、1年先まで待たなければ入金されない売掛債権を、今すぐに現金化できるのがメリットです。
ファクタリングに際しては審査もありますが、審査されるのは債券を売却したい企業側ではなく、売掛先である取引企業です。
そのため、信用度が低い企業でも、取引先の信用度が高ければファクタリングが可能です。
【デメリット】
売掛債権を額面通りで引き取ってもらえるわけではなく、そこからファクタリング手数料が引かれます。
本来受け取れるはずの売掛金額が、目減りしてしまうわけです。
また、ファクタリングの方法によっては、売掛債権を売却したことを取引先に知られてしまうため、取引先からの信用度が下がる恐れもあります。
2-3. 不要在庫の処分
倉庫に眠ったままの商品を売却する、「不要在庫の処分」も有効な方法です。
過剰在庫や不要在庫をまとめて買い取る買取業者もありますので、利用するといいでしょう。
【メリット】
買い取ってくれる業者があれば、即時に現金化できるため、急な資金調達が必要な場合には適しています。
保管のためにかかっていたコストも削減できて、一石二鳥です。
【デメリット】
古い商品だと商品価値が下がっているため、なかなか売れないか、売れてもかなり安くなってしまうことを覚悟しておかなければなりません。
2-4. セール&リースバック
売却できる不要な資産がない場合は、「セール&リースバック」という方法もあります。
これは、必要な資産を売却し、その後はリースして使い続けるというものです。
たとえば、事務所を不動産会社に売って、賃貸料を払って使用するといったケースが考えられます。
ほかにも車両や設備機器などが、リースバックできるでしょう。
【メリット】
売却先が決まれば、すぐに資金調達が可能です。
また、売却後も利用し続けられるため、事業に影響しません。
【デメリット】
それまでは必要なかったリース料が発生することになります。
長期的に見ると、売却で得た資金よりも、支払うリース料のほうが多額になる可能性もあるでしょう。
2-5. 権利の売却
事業に関して、知的財産権や営業権などを持っている場合は、「権利の売却」を検討してもいいでしょう。たとえば、特許権、著作権、商標権などです。
または、売却をせずに使用料をとる方法もあります。
【メリット】
内容によっては高額で売却できるため、多額の資金調達ができる可能性があります。
特に、自社で商品化や収益化をする予定がない、またはできない権利は不要な財産なので、有効に使用してくれる企業に譲渡するといいでしょう。
【デメリット】
「買いたい」という企業側からの申し出があればよいですが、こちらから譲渡先を探す場合は、なかなか見つからなかったり、時間がかかる可能性があります。
3. デットファイナンスの方法とメリット・デメリット
次に、負債を増やすデットファイナンスについてもくわしく見ていきましょう。
方法 |
概要 |
メリット |
デメリット |
金融機関からの融資 |
銀行や信用金庫、ノンバンクなどから資金を借り入れる |
・種類も数も多く利用しやすい ・事業に対してのアドバイスも得られる |
・融資に審査がある ・審査のハードルが低いところは金利が高い |
公的融資 |
政府系金融機関や地方自治体で資金を借り入れる |
・民間の金融機関より低金利 ・多様な資金ニーズにこたえるさまざまな融資制度がある |
・融資申し込みに必要な準備や書類が多く、審査日数もかかる ・審査のハードルも比較的厳しい |
社債 |
投資家や個人向けに会社の債券=社債を発行する |
・金利は自由に設定できるため、銀行融資よりも低金利で資金調達することが可能 ・毎月の返済なく、償還期限までは利子を支払うだけでよい ・経営権を奪われる恐れがない |
・償還日にはまとめて返済する必要がある ・発行手続きや発行後の事務手続きなどが煩雑 |
3-1. 金融機関からの融資
デットファイナンスの代表的な方法は、「金融機関からの融資」です。
銀行や信用金庫、ノンバンクなど、多種多様な民間の金融機関があり、1か所で資金調達できなくても多くの選択肢があるため、利用しやすい方法と言えるでしょう。
ただ、基本的には融資審査があり、融資の可否や融資額、金利などは審査結果によって決定されます。
この審査は、都市銀行がもっとも厳しく、次いで地方銀行や信用金庫、ノンバンクはもっともハードルが低くなっています。
【メリット】
前述したように、金融機関は銀行からノンバンクまで多数あるため、利用しやすいのが特徴です。
特に銀行や信用金庫とは取引先金融機関として長く付き合うことで、融資だけでなく事業に対してのアドバイスなども得られます。
【デメリット】
融資には審査があるため、かならず借入ができるとは限りません。
審査に落ちてしまえば、資金調達できなくなってしまいます。
ノンバンクは比較的審査のハードルが低く借りやすいですが、銀行ほど多額の融資は難しく、金利は高いのが難点です。
3-2. 公的融資
民間の金融機関に対して、公的機関からの「公的融資」もあります。
融資を受けられるのは、次の2通りです。
- 政府系金融機関:日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行など
- 地方自治体の制度融資
【メリット】
公的融資は、日本の中堅企業や小規模事業者などを支援し、経済発展に寄与する目的があるため、民間の金融機関より低金利なのがメリットです。
また、女性やシニアの経営者向けの融資、設備投資やIT化の資金に特化した融資、自然災害の被害を受けた企業への融資など、企業の多様な資金ニーズにこたえるさまざまな融資制度が設けられています。
【デメリット】
公的機関であるため、民間に比べて融資申し込みに際して必要な準備や書類が多く、審査日数もかかります。
また、審査のハードルも比較的厳しくなっています。
3-3. 社債
「社債」は、企業が発行する債券です。
投資家や個人に債券を購入してもらうことで資金調達ができます。
企業側はその見返りとして、投資家に利子を支払い、決められた期限になれば資金を償還(=返還)する仕組みです。
【メリット】
社債の金利は、企業が自由に設定することができます。
そのため、銀行融資よりも低金利で資金調達することが可能です。
また、一般的な融資のように毎月の返済が必要なく、償還期限までは利子を支払うだけでよいのもメリットでしょう。
株式と違って経営に参加する権利がないため、経営権を奪われる恐れもありません。
【デメリット】
毎月の返済は必要ありませんが、償還日になればまとめて返済をしなければなりません。
そのために、償還日に向けて積み立てをしておく必要があります。
また、社債を発行するための手続きや、発行後の事務手続きなどが煩雑なのもデメリットです。
4. エクイティファイナンスの方法とメリット・デメリット
では、資本を増やすエクイティファイナンスについて、その具体的な方法とメリット・デメリットを見ていきましょう。
方法 |
概要 |
メリット |
デメリット |
公募増資 |
上場している企業が、新たな株式を発行 |
・株主が増え、より多くの資金が調達できる |
・利益が上がれば株主に配当金を支払わなければならない ・株式発行数が増え、1株当たりの価値が下がる |
株主割当増資 |
既存の株主に対してのみ新株を発行する |
・比較的スピーディに資金調達できる |
・既存の株主が対象なので、追加で多額の投資が得にくい |
第三者割当増資 |
特定の第三者に新株の権利を割り当てる |
・早期に多額の資金調達が可能 ・新たに株主となる企業から、経営面や技術面で支援も得られる |
・経営権が制限される恐れがある ・既存の株主の持ち株比率が下がる |
新規公開株 |
未上場の企業が上場して株式を発行する |
・不特定多数の投資家から資金調達できる ・企業の信用度や知名度が上がる |
・上場には審査がある ・準備に年単位の期間と資金が必要 ・同業他社や投資ファンドなどから買収のターゲットにされる恐れがある |
転換社債型新株予約権付社債 |
株式に転換できる社債を発行する |
・普通社債より低コストで発行できる ・株式に転換された分は、社債として償還しなくてよい |
・社債を株式に転換されると株式数が増え、1株当たりの価値が下がるリスクがある |
ベンチャーキャピタル |
ベンチャーキャピタルから出資を受ける |
・VCの豊富な経験と知見で経営サポートを得られる ・他企業と業務提携や技術提供などもとりもってもらえる |
・投資先の企業選びには厳しい審査がある ・利益が上がらなければ、経営に過度に干渉されたり、株式買い取りを要求される恐れもある |
エンジェル投資家 |
個人投資家から出資を請ける |
・個人なので厳しい審査もなく、スピーディな資金調達が可能 ・事業上有益な他企業や人脈を紹介してもらえる |
・個人なので資金力は小さい ・経営に過度に干渉される恐れがある |
クラウドファンディング |
事業計画をインターネット上に公開して、賛同する人から出資してもらう |
・インターネットを通じて広く資金を募ることができる ・金融機関には相手にされない事業でも、共感は得られれば資金が集まる |
・まったく資金が集まらないというケースも多い ・公開した事業計画を、別の企業に先に実現されるリスクがある |
M&A |
他企業に吸収や合併してもらう |
・多額の資金を調達できる ・一部事業だけを切り離して譲渡することもでき、経営の改善も見込める |
・買い手がつかない可能性もある ・買い手が見つかっても、売却が完了するまで時間がかかる |
4-1. 公募増資(時価発行増資)
まずもっともポピュラーな方法のひとつが、公募増資です。すでに上場している企業が、新たな株式を発行することで資金調達します。
公募増資の株価は、発行当時の株価=時価、もしくはそれに近い価格に設定されるので、「時価発行増資」と呼ばれることもあります。
この方法のメリット・デメリットは以下の通りです。
【メリット】
新たに株式を発行することにより、新しい株主が増え、より多くの資金が調達できるようになります。
【デメリット】
エクイティファイナンスのメリットは返済が不要ということですが、そのかわり、利益が上がれば株主に配当金を支払わなければなりません。
また、株式発行数が増えることで、1株当たりの価値が下がる恐れもあります。
4-2. 株主割当増資
公募増資が広く新しい株主を求めるのに対して、既存の株主に対してのみ新株を発行するのが「株主割当増資」です。それぞれの株主が保有する株式の割合に応じて、新株取得の権利が割り当てられ、希望する株主がそれを購入します。
【メリット】
いくつかある株式発行の方法の中では、比較的スピーディに資金調達に至ることが可能です。
【デメリット】
既存の株主を対象としているため、追加で多額の投資をしようという投資家は現れにくいでしょう。
そのため、一気に多額の資金調達にはつながらない恐れがあります。
4-3. 第三者割当増資
また、既存の株主か新規の投資家かにかかわらず、特定の第三者に向けて新株の権利を割り当てる「第三者割当増資」という方法もあります。
提携企業や取引金融機関、ベンチャーキャピタルなどが対象になります。
【メリット】
株式を引き受けてくれる相手が決まっているので、比較的早期に多額の資金調達が可能です。
また、新たに株主となる企業から、経営面や技術面でのサポートも期待できます。
【デメリット】
株主が増えるため、経営者の経営権が制限されてしまう可能性があります。
最悪は、経営権を奪われる恐れもあるため、持ち株比率には注意が必要です。
既存の株主の持ち株比率も下がるため、株主との調整も必要でしょう。
4-4. 新規公開株(IPO)
上場企業が株式発行する公募増資に対して、未上場の企業が上場し、株式を投資家に売り出す資金調達法を「新規公開株」といいます。
「Initial(初期の) Public(公開の) Offering(募集)」を略して「IPO」と呼ばれます。
新規で公開される株式は、人気を集めることが多いため、多額の資金調達も可能な方法です。
【メリット】
上場すれば、株式が広く公開されるため、不特定多数の投資家から資金調達できるようになります。
特に、新規公開株は公開直後は株価が上がりやすく、人気も高いため、一気に大きな資金調達ができる可能性があるでしょう。
また、上場によって企業の信用度や知名度が上がるのも利点です。
【デメリット】
上場には審査があり、それに通らなければそもそも株式公開できません。
また、上場の準備には年単位の期間と資金が必要です。
さらに、株式が公開されたことにより、同業他社や投資ファンドなどから買収のターゲットにされる恐れもあります。
4-5. 転換社債型新株予約権付社債(CB)
「転換社債型新株予約権付社債(CB=Convertible Bond)」とは、一定の条件のもとで、その企業の株式に転換する権利がついている社債です。
社債として保有している間は毎年利子を受け取ることができますが、株価が高くなったときに株式に転換して利益を得ることもできます。
【メリット】
普通社債での資金調達よりも、低コストで発行できます。
社債は、決められた満期日になれば償還(返済)しなければなりませんが、社債を保有している人が株式に転換すれば、その分社債としての償還金の支払いが減るという利点もあります。
【デメリット】
株価が上がって社債を株式に転換されてしまうと、株式数が増え、1株当たりの価値が下がってしまうリスクがあります。
そのため、新株予約権がついている社債は、投資家から敬遠される傾向があるのです。
4-6. ベンチャーキャピタル(VC)
「ベンチャーキャピタル(venture capital)」は、未上場のベンチャー企業やスタートアップ企業のうち、今後の大きな成長が期待できるものに投資をする投資ファンドです。
上場後により大きなキャピタルゲインを得るために、投資だけでなく経営支援も積極的に行って、その企業の企業価値をより高めるようなサポートをしてくれます。
【メリット】
VCは多数の企業を経営支援しているため、その豊富な経験と知見をもとに、有益なサポートを得られるでしょう。
同じVCが投資している他企業との間をとりもってもらい、業務提携や技術提供なども期待できます。
【デメリット】
一方でVCは、投資によって利益を得ることを目的としています。
慈善事業ではないため、投資先の企業選びは厳しく、審査に通らなければ資金提供されません。
投資を受けることができても、期待される利益をその企業が上げられなければ、経営に過度に干渉されたり、株式買い取りを要求される恐れもあります。
4-7. エンジェル投資家
スタートアップ企業などに対して、資金提供をする個人投資家を「エンジェル投資家」と呼びます。
VC同様、自身が有望だと見込んだ企業に対して投資し、株式や社債を受け取るのが一般的です。
企業側がエンジェル投資家に出会う方法としては、
・エンジェル投資家とのマッチングサイト
・起業家や投資家のセミナー、イベント
などがありますが、中にはエンジェル投資家を装って詐欺行為を行う者もいるため、注意が必要です。
【メリット】
VCなどに比べて個人の裁量で動けるため、厳しい審査などもなく、合意ができればスピーディな資金調達が可能です。
また、多くのエンジェル投資家は豊富な人脈を持っているため、事業上で有益な企業や人を紹介してもらえることもあります。
【デメリット】
逆に個人であることのデメリットとして、資金力の小ささがあります。
株式公開やVCに比べると、調達できる資金額は少ないでしょう。
関係を深めすぎると、経営に過度に干渉される恐れもあります。
4-8. クラウドファンディング
近年急増しているのが、「クラウドファンディング」による資金調達です。
企業側が資金を必要としている事業計画をインターネット上に公開して、それに賛同する人から出資してもらうという方法です。
公開時に目標額を設定し、それを達成できれば事業を立ち上げ、出資者には何らかの返礼品やサービスを提供するというのが一般的です。
【メリット】
インターネットを通じて広く資金を募ることができるのがメリットです。
出資を求める相手は、銀行やプロの投資家ではなく一般の人なので、金融機関などでは相手にされなかった事業でも、共感さえ得られれば十分な資金が集まる可能性を秘めています。
【デメリット】
一方で、一般からの興味を惹きつけることができなければ、まったく資金が集まらないというケースも多くあります。
また、事業計画をインターネット上に公開するため、資金力がある別の企業にアイディアを奪われて、先に実現されてしまうリスクもあるでしょう。
4-9. M&A
「M&A(Mergers and Acquisitions)」、つまり吸収や合併という方法もあります。
2つ以上の企業をひとつに統合したり、他企業の傘下に入ったりすることですが、広義では業務提携などもこれに含まれます。
・事業を継承する後継者がいない
・新規事業に参入したい
・経営の再建が必要
といった場合に行われることが多いものです。
【メリット】
企業そのものを売却するため、大きな資金を調達できるのがメリットです。
また、一部事業だけを切り離して譲渡することもできるので、経営の改善も見込めます。
【デメリット】
最大のデメリットは、そもそも買い手がつかない恐れがあることです。
資金調達に困ってM&Aを検討する企業は、信用度や価値が低い可能性もあるため、買い手側に何らかのメリットを提供できなければ難しいでしょう。
うまく買い手が見つかっても、実際に売却が完了するまで時間がかかるのも難点です。
5. その他の資金調達方法
以上、3タイプの資金調達法とはまた別の方法もあります。
それは、「補助金や助成金を受ける」ことです。
国や地方自治体だけでなく、民間の企業や団体からも、他主張な補助金・助成金が提供されています。
【メリット】
返済の必要がなく、融資や出資などほかの資金調達を利用していても受けられます。
提供元も種類も多いため、企業ごとに適した補助金・助成金が見つかるでしょう。
【デメリット】
つねに募集されているわけではなく、募集期間が短いものもあるので、アンテナを張って探さなければなりません。
また、中には審査が厳しいものや、支給までに時間がかかるものもあります。
6. 資金調達の注意点
以上のように、資金調達にはさまざまな方法があることがわかりました。
が、一方で気をつけなければならないこともあります。
最後にそんな注意点を挙げておきましょう。
6-1. 経営権を奪われないようにする
エクイティファイナンスで外部から投資を受ける際には、経営権を奪われるリスクがあることを覚えておきましょう。
ベンチャーキャピタルや特定の投資家は、事業経営の支援をしてくれる頼もしい存在にもなりますが、資金面を含めて頼りすぎると、経営に過剰に干渉され、経営者が目指す企業運営ができなくなる恐れがあります。
それを回避するために、投資家の持ち株比率が高くなりすぎないように気をつけてください。
6-2. Twitterでの資金調達提案は詐欺も多い
近年話題になっているものに、インターネット上での資金調達に関わる詐欺があります。
Twitterなどで「融資します」「無担保融資」などと呼びかける投稿が多数見つかりますが、これらの中には詐欺も多いのです。
たとえば、「先に保証金を入れてくれれば、あとで多額の融資金を振り込む」と申し出て、融資希望者が保証金を振り込むと、その後は音信不通になる、といったケースがあるようです。
エンジェル投資家を装う者もいるため、注意してください。
7. まとめ
いかがでしたか?
資金調達法について、それぞれの特徴とメリット・デメリットが理解できたかと思います。
では最後にもう一度、記事の内容をまとめてみましょう。
◎資本を増やす=エクイティファイナンスの方法
・公募増資(時価発行増資)
・株主割当増資
・第三者割当増資
・IPO
・転換社債型新株予約権付社債(CB)
・ベンチャーキャピタル(VC)
・エンジェル投資家
・クラウドファンディング
・M&A
◎負債を増やす=デットファイナンスの方法
・金融機関からの融資
・公的融資
・社債
◎資産を現金化する=アセットファイナンスの方法
・資産の売却
・ファクタリング
・不要在庫の処分
・セール&リースバック
・権利の売却
これらの中から、本記事を読んでくださっている方々が無事に資金調達できることを願っています。
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