「株式会社の設立を検討しているけれど、本当に自分に向いているのかな?」
「具体的にはどんな流れになるんだろう?」
こんな疑問をお持ちではありませんか?
年間で設立される株式会社は約8.8万社。
実に多くの人が会社設立を行っています。
しかし、実際に行うとなると何を考慮すればいいのかわからないですよね。
そのためこの記事では、株式会社の設立を検討している人に向けて、知っておくべき基礎知識を網羅的に解説します。
この記事でわかることは以下の通りです。
この記事でわかること |
● 株式会社設立の流れ |
基礎事項であるこれらの項目についてきちんと学んでおくことで、失敗なく株式会社の設立を行うことができます。
さらに、株式会社の設立を簡単に進めるための方法もお伝えしますので、「自分で設立に取り組んでみたけれど難しくてうまくいかなかった…」という事態も避けることができますよ。
株式会社の設立をスムーズに進めるため、この記事を役立てていただけますと幸いです。
目次
1.株式会社の設立とは?
株式会社の設立を検討する上で最初に正しく理解しておきたいのが、そもそも株式会社を設立するというのはどういうことなのか、ということです。
会社の設立とは |
● 株式会社や合同会社などの「法人」を作るために法務局へ登記すること |
会社を設立するということは、「こういう会社を作ります」ということを国に申請し、誰でも見られる状態にすることを指します。
それによって、個人事業主としてビジネスを行う場合よりも信頼を得やすくなり、規模の大きな取引につながったり、資金調達を実施しやすくなったりするというメリットがあります。
個人事業主として事業を行う場合と、株式会社を設立して事業を行う場合の主な違いは以下の通りです。
1-1.個人事業主との違い
個人事業主との大きな違いは「スムーズな事業拡大を実行しやすいかどうか」です。
株式会社を設立したほうが融資を受けやすかったり、負債などが生じた際のリスクを個人で負うリスクを下げられたりするというメリットがあります。
詳しい比較は以下の表の通りです。
◆株式会社を設立する場合と個人事業主としてビジネスを行う場合の比較
比較項目 |
株式会社を設立する場合 |
個人事業主の場合 |
設立費用 |
21~25万円程度かかる |
不要 |
資本金 |
必要(1円~) |
不要 |
開業・設立手続き |
法務局への登記が必要で手続きは煩雑 |
税務署へ開業届を提出するだけ |
節税のしやすさ |
経費の範囲が広く節税しやすい |
節税しにくい |
赤字の場合の課税 |
最低7万円の法人税がかかる |
不要 |
信用度 |
高い |
低い。法人でないと取引してもらえない場合もある |
融資などの資金調達 |
しやすい |
しにくい |
社会保険の加入義務 |
あり |
従業員5人未満ならなし(任意) |
責任の範囲 |
有限(負債などの責任を個人で取る必要がない) |
無限(事業の責任は全て個人が取ることになる) |
株式会社を設立するほうが手間や初期費用はかかりますが、個人事業主の場合は、取引先の信頼を得られず契約をしてもらえなかったり、人材が集まりにくいというデメリットがあります。
そのため、人材や資金をしっかりと調達してビジネスの規模を拡大させたいと考えている場合は、株式会社を設立したほうが良いでしょう。
また、会社の形態には株式会社だけでなく合同会社という形態もあります。
それぞれの違いは以下の通りです。
1-2.合同会社との違い
合同会社との大きな違いはその出資形態です。
以下のように、株式会社の場合は株式を発行し、それを株主に購入してもらうことで資金を調達します。
そのため自己資金以上のお金を集めることができるというメリットがありますが、その分株主の影響力も大きくなるという特徴があります。
株式会社と合同会社の違い |
● 株式会社 ● 合同会社 |
上記のように、株式会社の場合は会社の所有者はあくまでも出資者(株主)となるため、経営者だからといって株主の意見を無視して事業を行うことはできません。
利益も株の持分に応じて分配されます。
しかし合同会社の場合は、会社に出資をしている社員が会社の所有者でありその経営も実行するため、意思決定をスムーズに行うことができます。
利益配分も、出資額に基づくことなく自由に決めることが可能です。
ただし合同会社は2006年の会社法によって新たに作られた会社形態であり、まだそこまで数が多くないため、信用度が低いと見られてしまう場合もあります。
そのため、BtoBのビジネスを行うなど「対外的な信用度が高いほうが良い」という場合は、合同会社よりも株式会社を選ぶと良いでしょう。
合同会社の設立に興味がある人はこちらの記事をご覧ください。
→ 合同会社設立の基礎知識まとめ!費用や手順、メリットを詳しく解説
2.株式会社を設立する流れ
株式会社は、大きなビジネスを行っていく上では有効な会社形態ではありますが、個人事業主や合同会社よりも設立に手間がかかるという側面もあります。
会社を設立するというのはあくまでも手続きとして必要なものであり、事業としての本質ではないため、あまり手間はかけたくないものですよね。
しかし、正しい流れを知らずに株式会社を設立しようとすると、順番を間違えて余計な手間がかかってしまったり、無駄な費用が増えてしまうという状況になってしまうかもしれません。
そのためこの章では、小規模な会社を設立する際に一般的な方法である「現金出資による発起設立」(=株式の全てを発起人が現金で引き受ける設立方法)の場合の設立の流れをお伝えしていきます。
全体のステップは下記の5つに分かれます。
大体1ヶ月半くらいの時間がかかりますので、設立したい日が決まっている場合は逆算して早めに作業を開始すると良いでしょう。
株式会社設立の流れと所要期間の目安 |
|
それでは詳しく見ていきましょう。
STEP1:会社設立準備
まずは会社の設立に向けて、基本事項である会社名(商号)や資本金額、本店所在地などを検討します。
決めておくべき主な項目は下記の通りです。
株式会社設立に向けて決めておくべきこと |
● 発起人 ● 会社名(商号) ● 資本金額 ● 持ち株比率 ● 役員構成 ● 決算期 ● 本店所在地 |
まずは自分ひとりで会社を設立するというような場合は、こういった項目は全て自分の考えで決めることができますが、複数人で創業するような場合は、全員で方針を決める必要があります。
特に持ち株比率や役員構成などは、適当に決めてしまうと後で役員間でのトラブルに発展する場合もありますので、納得がいくまで話し合うようにすると良いでしょう。
また、事前に準備しておくものとしては「会社の印鑑」があります。
作成には時間がかかりますので、商号が決まったらすぐに発注しておきましょう。
印鑑にはいくつか種類がありますが、代表的なものは以下の3つです。
準備しておくべき印鑑の種類 |
● 実印(代表者印・丸印) ● 銀行印 ● 角印 |
設立の手続きで必要なものは実印のみですが、いずれにせよその後必要となるものですので、このタイミングで3種類とも作成しておくと良いでしょう。
STEP2:定款の作成・認証
どのような内容の会社を作るか決めて印鑑の発注も済ませたら、次は「定款の作成・認証」というステップに進みます。
定款とは会社の活動の規則を記したもののことで、株式会社を設立する際にはその定款をもって「公証人の認証」という手続きを踏む必要があります。
● 定款とは ● 定款認証とは |
上記の「公証人の認証手続き」は、本店所在地のある都道府県内の公証役場で行う必要があります。
例えば東京都渋谷区を本店とする会社の場合、定款の認証をしてもらうのは東京都の公証役場であれば渋谷区でも千代田区でも構いません。
しかし、神奈川県や千葉県など別の都道府県の公証役場で実施すると無効になってしまうので注意しましょう。
定款の作成・認証の流れは下記の通りです。
定款の作成・認証の流れ |
● 定款を作成する ● 定款認証の手続きを行う |
詳しくは以下のようになります。
①定款を作成する
定款のひな形(Wordファイル)を日本公証人連合会のホームページからダウンロードし、PDFの見本に沿って必要事項を埋めていきます。
会社の規模別に4種類のひな形が準備されているため、自社の規模に合うものを選ぶようにしましょう。出典:日本公証人連合会 定款等記載例(Examples of Articles of Incorporation etc)
一番右側の【補足説明付き】と記載されたPDFファイルに詳しい解説が記載されているため、この資料を参照しながら作成すると、迷わずに進めていくことができます。
定款作成の際に気を付けたい点は、「事業目的」の欄にその後実際に行う事業を正しく記載しておくということです。
なぜかというと、会計のルールでは「定款の事業目的に記載されている事業から生じた利益のみ」を本業の儲けとみなし「営業利益」として処理することになります。
一方で、定款の事業目的に記載されていない内容の収入は、全て「営業外収益」という項目になります。
利益の項目が違うだけなのですが、実はこの項目は金融機関などから融資を受ける際に非常に重視される部分となります。
いくら全体の利益が大きくても、本業の儲け(営業利益)が少ない場合は融資の審査に通りにくくなってしまうのです。
そのため、事業目的の項目には実際に行う予定の事業を全て記入するようにしましょう。
その他何かわからない箇所がある場合は、認証手続きを行う前に公証役場の担当者に確認すると良いでしょう。
②定款認証の手続きを行う
定款を作成できたら認証の手続きに進みます。
ここではいきなり本番の認証に進むのではなく、以下のように内容の事前確認依頼から始めます。
これは、定款の内容が間違っていて認証のやり直しになってしまうリスクを避けるために必要なステップとなります。
定款認証の手順 |
● 会社の本店を管轄する公証役場を確認する |
まずは上記のように公証役場へ電話などで連絡し、内容の事前確認をしてもらいたい旨を伝えましょう。
全国の公証役場の一覧は、以下の日本公証人連合会のホームページで確認することができます。
→日本公証人連合会 公証役場一覧
自分の会社の本店所在地の都道府県のリストの中から、最寄りの公証役場を選ぶと良いでしょう。
その後、FAXやメールなどで定款を送ると公証役場のほうで確認してくれます。
そこで問題がなければ本番の認証へと進みます。
認証を行う場所や日時については担当者に確認しましょう。
以前は公証役場へ出向いて行う必要がある手続きでしたが、近年では電子定款の場合はテレビ電話による認証制度も利用できるようになっています。
STEP3:資本金の払込
定款認証が済んだら、次は資本金の払込を行います。
この段階では会社の口座はまだ作れないため、発起人の個人口座に振り込むことになります。
具体的な手順は以下の通りです。
資本金払込の手順 |
● 自分の個人口座などに、資本金と同額のお金を振り込む |
このステップでの注意点は、「口座残高」ではなく「振込額」が資本金とみなされるという点です。
これを間違えると、この後の登記手続きの際に受理してもらえなくなってしまうため注意しましょう。
STEP4:登記書類の作成
資本金の払込ができたら、次は法務局への登記手続きに必要な書類を準備していきます。
登記に必要な書類は下記の通りです。
登記に必要な書類 |
● 登記申請書 |
上記書類のひな形や書き方は、以下の法務局のホームページで確認することが可能です。
→法務局 商業・法人登記の申請書様式「第1 株式会社」1 設立
上記の四角い赤枠で囲った「記載例(PDF)」という文字をクリックすると、登記に必要な書類一覧やそれぞれの書類に関する解説が記載されたPDFを閲覧することができます。
こちらを参考にしながら、自身の会社に合わせて必要事項を記入していきます。
STEP5:会社設立登記申請
登記書類を揃えることができたら、いよいよ法務局への登記申請を行います。
登記申請は資本金を払い込んだ後、2週間以内に実施する必要があるため注意してください。
登記申請の手順は下記の通りです。
登記申請の手順 |
● 管轄の法務局へ、登記申請書や添付書類を提出(窓口への持ち込み、郵送、オンライン申請などの方法がある) |
管轄の法務局がどこなのかは、自身の会社の都道府県の法務局のホームページ等で確認しましょう。
例えば東京都の場合は以下のページで確認可能です。
→東京法務局 不動産登記/商業・法人登記の管轄区域一覧
登記申請書を提出した日が会社の設立日となりますので、設立日にこだわりがある場合はその日に間に合うよう、余裕をもって設立に必要な書類を揃えるようにしていきましょう。
3.株式会社の設立にかかる費用
株式会社設立の流れを詳しく解説してきましたが、次はこれらを行う際にどのくらいの費用がかかるのかという点も気になるのではないでしょうか。
会社設立後は事業運営のためにも資金が必要となりますので、設立にどのくらいのコストがかかるのかあらかじめ見積もっておくことは非常に重要なことです。
株式会社の設立にかかる費用は最低でも21~25万円程度で、定款の作成方法(紙か電子データか)によって以下のように金額が変動します。
上記のように、公証人に定款を認証してもらう手続きに5.2万円(紙の定款の場合は+4万円)、その次の法務局への設立登記の手続きの際に登録免許税として最低でも15万円が必要となります(資本金の額によっては15万円を超えることもあります)。
そして、手続きに必要な公的書類の取得や印鑑の作成などにかかる関連費用として、1~2万円程度がかかります。
さらにそれ以外に資本金を準備する必要がありますので、それらを全て資金計画に組み入れておきましょう。
株式会社を設立する費用の詳細や、費用を賢く節約する方法については以下の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
→会社設立の費用はいくら?株式会社と合同会社それぞれのケースを解説
4.株式会社設立のメリットとは
株式会社を設立するときの流れと費用について詳しく解説してきましたので、設立のイメージをしっかり持つことができたのではないでしょうか。
「意外と手間や費用がかかるな…」と不安になった人もいるかもしれませんが、それでも多くの人が株式会社を設立しているのは、それだけのメリットがあるからです。
手間や費用の負担を理由に株式会社の設立を諦めてしまうのはもったいないので、ここであらためて株式会社設立のメリットをきちんと理解しておきましょう。
株式会社設立のメリットは以下の5つです。
株式会社設立のメリット |
● 信用度が高くなる |
詳しくみていきましょう。
4-1.信用度が高くなる
我が国では様々な法人形態がありますが、その中でも最も認知されており信用度も高いのが株式会社です。
CMなどでよく見かける大手の会社はほとんどが株式会社ですので、ブランドイメージが良いと感じる人も多いでしょう。
イメージだけでなく実際にも、株式会社を設立して運営していくためには費用がかかったり、守るべき法律上のルールも多かったりするため、それらをきちんとクリアして運営し続けているという点で信頼されやすくなります。
そのため、優秀な人材の獲得を行ったり大手企業と取引をしたりする上では、個人事業主や合同会社よりも有利になるといえるでしょう。
4-2.幅広い資金調達方法がある
株式会社は、銀行などの金融機関から融資を受けたりする場合の信用度が高いため、合同会社などの他の会社形態より審査に通りやすく有利だとされています。
さらに、そもそも株式会社とは株式を発行することで出資を得るという仕組みになっているため、多くの投資家から多額の資金を調達できる可能性があります。
将来的な株式の売却益を目的とする、ベンチャーキャピタルや投資ファンドなどからの投資を受けられると、数千万~億単位の資金を得ることもできるでしょう。
このように幅広く多額の資金を得られる可能性があるというのも、株式会社を設立するメリットとなります。
4-3.上場できる
株式会社は、上場することで信用度をさらに高めたり、株式の売却益で利益を得たりすることができます。
上場とは |
● 株式会社が、自社の発行する株式を証券取引所(市場)で自由に売買できるようにすること |
上場の審査基準は非常に厳しいため、上場を目指すためには数年かけて社内の経営体制や業務フローなどを改善する必要があります。
時間や手間がかかり大変なことですが、逆に考えるとそういった厳しい審査をクリアして上場できた株式会社は、社会的な信用がその分高まることになります。
また、創業者などが上場前から保有していた株式の価値が上場後に大きく値上がりすると、その株式を売却することによって大きな利益を得ることができます。
信用度が上がるという面でも、金銭的な利益を得られる可能性があるという点でも、上場できるということは大きなメリットのひとつだといえるでしょう。
4-4.経費として計上できる項目が多く節税しやすい
株式会社などの法人格は、個人事業主の場合よりも経費として計上できる項目が多く節税しやすいという特徴があります。
節税に役立つ経費としては、具体的には以下のようなものがあります。
節税に役立つ経費 |
● 役員報酬や賞与、退職金 |
個人事業主の場合は、上記のような費用は経費として認められなかったり、認められても全額ではなく一部になったりしてしまうことがあります。
しかし法人ならこれらの項目も経費として経理処理することができるため、法人税を節税する上で有利になります。
4-5.責任が有限になる
会社を運営していく上では、もし事業に失敗したらどうしようという不安をもつこともあると思います。
そんな時、個人事業ではなく株式会社として事業を行っていると、責任の範囲が限定的になる(有限責任)というメリットがあります。
これと対照的な概念が「無限責任」で、有限責任と無限責任の意味は以下の通りです。
有限責任・無限責任とは |
● 有限責任 ● 無限責任 |
例として、会社を設立する際に自己資金で300万円を出資しており、その後会社が500万円の債務を残して倒産してしまった場合を考えてみましょう。
有限責任である株式会社の場合、最初に出資した300万円はお金を貸してくれた人や金融機関への返済にあてられるため自分の元には返ってきませんが、それ以上の返済(残りの200万円)は不要となります。
しかし、個人事業主など無限責任の場合は事業がうまくいかなくなり失敗してしまったら、その時の借金は個人が全額支払わなければなりません。
ただし、株式会社であっても中小企業の場合は金融機関からの借り入れの際に代表取締役個人の保証を求められていることが多く、実質は無限責任を負っているという場合もあります。融資を受ける際には条件に注意しましょう。
5.株式会社設立のデメリットとは
株式会社を設立することによるメリットを詳しく解説しましたので、株式会社を設立するとビジネスの幅が広がるということをご理解いただけたのではないかと思います。
しかし、だからといってすぐに設立の手続きを始めてはいけません。
株式会社を設立することにはデメリットもあります。
それをきちんと認識しないまま設立を行ってしまうと、「こんなはずじゃなかった…」と後悔することになってしまうかもしれません。
メリットだけではなく以下のデメリットもしっかりと理解した上で、自分は株式会社を設立すべきなのかどうか正しく判断していきましょう。
株式会社設立のデメリット |
● 赤字でも最低7万円の法人住民税がかかる |
詳しくは以下の通りです。
5-1.赤字でも最低7万円の法人住民税がかかる
会社を作ると、例え赤字であっても法人住民税を納めなければなりません。
法人住民税の額は、事業所の規模に応じて変動します。
例えば東京23区に事務所がある会社の場合、従業員数と資本金等の金額に応じて以下のように金額が算出されます。
(年額、単位:円)
出典:東京都主税局「都民税均等割の税率表」
例えば資本金等が1,000万円以下で従業員が50人以下の場合は、上記表の通り納めるべき法人住民税は最低金額である7万円となります。
一方で個人事業主の場合は、赤字であれば所得税と住民税を支払わなくて良いということになります。
このように、株式会社の場合は個人事業主と違って、経営が黒字であろうと赤字であろうと法人住民税を支払う義務が発生しますので、この点はしっかり覚えておくと良いでしょう。
5-2.社会保険料などのコストが高くなる
株式会社を設立すると、規模に関わらず社会保険に加入する義務が発生するため、その分コストがかかることになります。
社会保険とは |
● 社会保険とは健康保険や厚生年金保険などのことで、従業員の給与の金額に応じて算定される |
社会保険料は、基準となる給与額が高額になればその分保険料も高くなるという仕組みになっているため、従業員が増えれば増えるほど負担も重くなります。
例えばもともと個人事業主としてビジネスを行っていた人が法人成りをするというケースの場合は、それまで支払っていた国民健康保険と国民年金よりも支払う金額が高くなるため、この点も会社を設立する上でのデメリットのひとつだといえるでしょう。
ただし社会保険に加入すると会社の福利厚生が充実するため、採用市場における競争力が高まるという捉え方もできます。
また事業主本人にとっても、個人事業主として国民年金保険だけに加入している場合よりも老後の年金が増えるというメリットがあります。
とはいえ毎月かかる固定費が高くなると事業運営の上で負担となることは確かですので、この点は覚えておく必要があるでしょう。
5-3.設立に費用がかかる
株式会社は、設立するだけでも21~25万円程度の費用がかかります。
しかし株式会社とは別の会社形態である合同会社の場合、この設立費用は7~11万円程度で済みます。
さらに個人事業主として事業を行う場合なら設立の費用はかかりません。
設立費用の比較 |
● 株式会社:21~25万円 |
「ビジネスをこれから始めよう」という時期は資金に余裕がないものです。
そのため、最初にまとまったお金が必要になるという点も株式会社設立のデメリットのひとつとなるでしょう。
5-4.税理士費用などがかかる
事業を運営していくためには、日々の経理や決算事務処理等を正しく実施していく必要があります。
特に法人の場合は個人事業の場合よりもルールが多く計算も複雑になるため、どうしても税理士などの専門家に依頼をする必要が生じます。
そうすると個人事業のときには自分で何とかこなせていた経理処理も、自分では実施できなくなってしまうため、税理士事務所などとの顧問契約を結ぶことになります。
税理士の顧問料は、会社の売上規模にもよりますが最低でも毎月3~4万円はかかりますので、利益が出ていないステージでは負担となってしまうことも考えられるでしょう。
こういった点も株式会社を設立する際に考慮しておくべきポイントになります。
6.株式会社を設立すべき人
株式会社設立のメリットとデメリットをお伝えしてきましたが、実際に自分が設立すべきかどうか判断するのは難しいですよね。
そこでこの章では、株式会社を設立すべき人の条件を解説します。
株式会社を設立すべき人は、以下のような人です。
株式会社を設立すべき人 |
● 多額の資金調達をして積極的に事業拡大をしていきたい人 |
詳しく解説していきます。
6-1.多額の資金調達をして積極的に事業拡大をしていきたい人
積極的に事業拡大をするために潤沢に資金を調達していきたいという人には、株式会社の設立がおすすめです。
株式会社には以下の特徴があり、多額の資金調達が可能となるためです。
株式会社が資金調達しやすい理由 |
● 上場することで多数の投資家からの資金を募ることができる |
上場すると、会社の知名度や信用度が上がるためさらに株価も上がりやすくなり、調達できる金額も大きくなるというメリットがあります。
しかし、現在上場できるのは株式会社のみとなっています。
そのため、事業拡大のために多額の資金調達をしたいと考えている場合は、株式会社を設立すべきだといえるでしょう。
6-2.優秀な人材を獲得したい人
事業内容として優秀な人材を獲得する必要があるという場合にも、株式会社の設立がおすすめです。
なぜかというと、株式会社は以下のように「社会的な認知度が高い」「求職者にとってイメージが良い」などの理由があり、採用市場での競争力が高まるためです。
株式会社が人材獲得しやすい理由 |
● 社会的な認知度が高く安心感を持たれやすい |
個人事業主でも人材を採用することはできますが、不安定だというイメージもあるため、同じ条件ならば個人事業主よりも株式会社を選ぶ人のほうが多いでしょう。
特に今は採用難ですので、他社よりも優秀な人材を獲得することでビジネスを成長させていきたいという場合は、株式会社を設立すると良いでしょう。
6-3.BtoBビジネスを主軸に行いたい人
主たる事業の性質が、BtoB向けのビジネスである場合も株式会社の設立がおすすめです。
その理由は以下の通りです。
BtoBビジネスを行う上で株式会社のほうが良い理由 |
● 法人相手の取引では「個人事業主や合同会社では信用できない」と思われて契約してもらえない可能性があるため |
全ての法人がこのような考えを持っているわけではありませんが、大手企業などの場合は、例え実力があったとしても個人事業主との取引はハードルが高いという場合が多いです。
また、コンペなどで他社と競ったとき、同じ条件ならば「合同会社よりも株式会社のほうが安心」といった理由で株式会社のほうが選ばれやすくなるかもしれません。
そのため、信用度が重要になるBtoBビジネスを主軸に行う予定であれば、株式会社を設立したほうがその後の事業拡大をスムーズに行っていくことができるでしょう。
逆に、カフェやサロンなど一般消費者向けのビジネスしか行わないという場合は必ずしも株式会社である必然性はありません。
顧客がサービスを利用するときに「運営元が株式会社か、合同会社か、個人事業主か」ということをあまり気にしないためです。
6-4.年間の利益が800万円以上になる個人事業主
既に個人事業主としてビジネスを行っており、年間の課税所得が800万円以上の人も、株式会社などの法人の設立を検討し始めるのがおすすめです。
なぜかというと、そのほうが納めるべき税金が減るというメリットがあるためです。
個人事業主の場合、所得税の計算をする際は課税所得が多ければ多いほど納めるべき所得税が高額になるという仕組み(超過累進課税)が適用されます。
所得が高い人の場合にかかる最大税率は45%にもなります。
しかし株式会社などの法人を設立すると、個人事業主よりも最大の税率が低い「法人税率」の仕組みが適用されます。
その場合の税率は最大でも23.2%であるため、利益をたくさん得られる見込みがある場合は個人としてビジネスを続けるのではなく、法人を設立したほうが納税額が減り有利となるのです。
どのくらいの利益を得られるようになったら法人の設立を検討したらいいのかというと、目安としては売上から経費を引いた金額が800万円くらいになったタイミングだといわれています。
税負担が減るという面だけでなく、法人化すると家族を役員にして給与を支払うなど節税方法も広がるため、その分手元で自由に使えるお金が増えるというメリットがあります。
ただし事業の内容によって経費にしやすい項目が異なっていたり、人によって控除の金額にも差があったりするため、全ての人が800万円というラインで法人の設立を検討すべきとは限りません。
法人化することによって逆にかかる費用もあるため、自分の場合は課税所得がいくらを超えたら法人を設立したほうがメリットがあるのか知りたいという場合は、税理士などの専門家に個別相談すると良いでしょう。
また、この目的で法人を設立する場合は、株式会社ではなく合同会社などでも構いません。
自分に合った会社形態を選び、有利に事業を進めていきましょう。
7.株式会社の設立を簡単に行う方法
株式会社を設立すべき条件にあてはまるかどうかご確認いただけたことで、株式会社を設立するかどうか意思決定ができたのではないでしょうか。
そこでこの章では、実際に設立を行おうという気持ちになった方に向けて、株式会社の設立を簡単に行う方法をお伝えします。
国の手続きはどうしても煩雑だったり、素人にはわからない用語なども多かったりして、困ってしまうことも多いものですが、そんな問題につまづくことなくスムーズに株式会社を設立を行えるようにしていきましょう。
株式会社の設立を簡単に行う方法は以下の通りです。
株式会社の設立を簡単に行う方法 |
● 「法人設立ワンストップサービス」を利用 |
詳しくみていきましょう。
7-1.「法人設立ワンストップサービス」を利用
以前は会社を設立する際には、役所へ実際に出向いて書類を提出したり申請を進めたりする必要がありました。
しかし2020年1月に開始された「法人設立ワンストップサービス」を活用すると、それらの業務を簡略化することができます。
法人設立ワンストップサービスとは |
● 定款認証や法人設立の登記申請などの会社設立のために必要な手続きを、オンラインでまとめて行うことができる |
引用:国税庁 法人設立ワンストップサービスの対象が全ての手続に拡大されました
会社を設立した後には、税務署や年金事務所などへも各種届出を行う必要がありますが、それらの手続きも一括で実施することができます。
会社の規模等によって必要な手続きの種類は異なりますが、「法人設立ワンストップサービス」のトップページから進むことができる「法人設立関連手続かんたん問診」(以下の画像の赤枠で囲った部分)を利用して簡単な問診に答えていけば、自分に必要な手続きがわかるようになっているため安心です。
申請の流れは以下のようになります。
法人設立ワンストップサービス 申請の流れ |
|
自分で設立手続きを進めることで、専門家などに代行依頼をする費用を抑えたいと考えている人の場合は、こういったサービスを利用することで効率よく手続きを進めると良いでしょう。
7-2.専門家へ依頼
「そうは言っても自分で手続きをするのは手間がかかる…」「間違えて手戻りが発生するくらいなら詳しい人にお願いしたい」
そんな人におすすめなのが、司法書士や税理士などの専門家へ会社設立の手続きを代行依頼することです。費用の目安は10万円程度です。
専門家へ依頼することによるメリットは以下の通りです。
専門家へ依頼することによるメリット |
● 本業と関係のない作業に割く時間を節約できる |
公的な手続きは専門用語も多くわかりにくいものです。
もともと知識がない場合は、設立の流れや必要なもの等を理解するために一通りしっかりと勉強しなければなりません。
そうすると、本業とは違うことに自分の労力を割かなければならないため、事業の進捗がその分遅れることになってしまいます。
しかし、どうしても正しく書類作成等が行えなかったり手続きを間違えたりすることもあります。
そうなると手戻りが発生してしまったり、やり直しとなり余計な経費がかさんでしまったりするということも考えられます。
特に、各種書類は役所の窓口で内容を確認してもらうことができますが、役所の担当者はあくまでも「手続きとして問題ないか」という観点で確認するため、「税金の節約のためにはこのほうが良い」「今後の会社運営の方針をこうする場合はこのほうが良い」などの実態に即したアドバイスはしてくれません。
「設立作業に手間をとられてビジネスチャンスを逃してしまった」
「自己判断で間違った登録をしてしまったせいで、登記内容の変更や取引先への説明などに余計な労力とコストがかかってしまった」
という事態に陥るのを防ぐためにも、会社設立に詳しくない場合は最初から専門家に依頼すると良いでしょう。
「税務面などで有利になるアドバイスが欲しい」
「プロに依頼することで失敗のない会社設立を行いたい」
という場合は、手数料0円で専門家に依頼することができる「税理士顧問パック」がおすすめです。
これは、会社設立後の税理士顧問契約を前提とすることで、以下のメリットを受けられるというサービスです。
税理士顧問パックとは |
● 代行手数料0円で専門家へ会社設立の手続きを依頼できる |
その後の税理士顧問契約が必要にはなりますが、会社設立後はいずれにしても税理面で専門家のサポートを受けることは必要となります。
そのため、せっかくなら最初からこういったサービスを利用したほうが、その後の事業運営もスムーズに進めることができるでしょう。
8.まとめ
株式会社の設立について網羅的に解説してきました。
この記事でお伝えしたことは以下の通りです。
株式会社設立の流れと所要期間の目安 |
|
株式会社の設立にかかる費用の目安 |
● 最低でも21~25万円程度 |
株式会社設立のメリット・デメリット |
● 株式会社設立のメリット ● 株式会社設立のデメリット |
株式会社を設立すべき人 |
● 多額の資金調達をして積極的に事業拡大をしていきたい人 |
さらに、株式会社の設立を行う際に簡単に進めるための方法として、以下の2つを紹介しました。
株式会社の設立を簡単に行う方法 |
● 「法人設立ワンストップサービス」を利用 |
これらの項目について知ったことで株式会社の設立についての理解が深まり、自分が設立すべきかどうか納得した上で効率よく設立を行える状態になったのではないでしょうか。
理想の事業を展開していくため、自分に合った会社の設立を実現させていきましょう。