「決算賞与とはどんなもの? 通常の賞与との違いは?」
「決算賞与を出すと、会社としては節税になると聞いたけれどどういうこと?」
そんな疑問を感じている経営者の方も多いことでしょう。
決算賞与とは、「企業がその年度の業績に応じて支給する、臨時の賞与」です。
「臨時賞与」「特別賞与」「年度末手当」などと呼ばれることもあります。
通常の賞与は、基本的には夏と冬の2回決まって支給する会社が多いものですよね。
それに対して決算賞与は、決算の際に業績がよければ支給しますが、悪ければ支給しません。
さらには、一切支給しない会社も多くあります。
というのも決算賞与については、支給する・しないの判断から支給する対象、支給額まで、企業側の裁量で決定することができるからです。
この記事では、そんな不確定要素の多い決算賞与に関して、さまざまな視点から深掘りしていきます。
まず最初に、
◎決算賞与と通常の賞与との違い
◎決算賞与を出す場合・出さない場合
◎決算賞与の支給時期
◎決算賞与の支給対象
◎決算賞与の支給額
といった基礎知識から解説します。
さらに、
◎決算賞与から引かれる税金と社会保険料
◎企業が決算賞与を出すメリット・デメリット
◎企業が決算賞与を出す際の注意点
についてもくわしく説明しますので、最後まで読めば決算賞与について知っておくべきことがすべてわかるはずです。
この記事で、あなたが決算賞与を深く理解できるよう願っています。
1. 決算賞与とは
ひと言で説明すれば、「企業がその年度の業績に応じて支給する、臨時の賞与」です。
業績がよく、売上が上がった際に、その利益を賞与という形で従業員に還元するものだと考えてください。
企業によっては、「臨時賞与」「特別賞与」「年度末手当」などと呼んでいる場合もあります。
ではそれは、通常の賞与とはどう違うのでしょうか?
いつ、いくらくらい支給するものなのでしょう?
ここからは、「決算賞与とはどんなものか」について、さまざまな視点から説明していきましょう。
1-1. 「決算賞与」と通常の賞与の違い
では、決算賞与と通常の賞与とは何が異なるのでしょうか?
その違いは、主に以下の点です。
決算賞与 |
通常の賞与 |
|
支給の義務 |
なし |
なし |
支給時期 |
基本的には決算後 |
夏・冬に支給する企業が多い |
支給対象 |
従業員 |
従業員 |
支給額 |
業績によって異なる |
「基本給の〇か月分」または能力に応じて支給する |
簡単に言えば、
◎決算賞与:業績がよければ決算後に支給することがあるか、支給しないケースも多い
◎通常の賞与:多くの企業では毎年夏と冬に支給する
という違いがあります。
通常の賞与は、経営がよほど悪化しない限り、毎年決まった時期に支給されるので、多くの従業員は家計に含んで予定を立てているでしょう。
たとえばローンを組んで大きな買い物をする場合に、ボーナス払いを組み入れたり、帰省や旅行などをボーナス時期にあわせて計画したりしますよね。
一方で、決算賞与は支給されるかどうかわからないものですので、従業員側は上記のように事前に家計に組み入れて計画を立てることはできません。
あくまで「臨時ボーナス」だと考えるといいでしょう。
1-2. 決算賞与を出す場合・出さない場合
では、決算賞与は具体的にはどのような場合に支給するのでしょうか?
それは前述したように、「その年の業績がよかった場合」です。
事業で利益が上がった分を、貢献した従業員にも還元しようというのが主な目的です。
ですが、企業側には決算賞与を支給する義務はありません。
業績がよくても、会社が「支給しよう」と決めなければ支給しなくても構いません。
そのため、決算賞与を一切出さないという企業も多くあります。
また、「前年は出したけれど今年は出さない」ということも考えられるのです。
1-3. 決算賞与の支給時期
決算賞与は、基本的には決算が確定して「利益がいくら出たか」が明らかになったところで、「支給するかしないか」「いくら支給するか」を決めるものです。
そのため、支給時期は決算後になります。
厳密には、法人税法施行令にもとづいて、「事業年度終了の日の翌日から一月以内」に支払うこととなっています。
たとえば3月決算であれば4月末日まで、12月決算であれば1月末日までには支払わなければなりません。
というのも、その期間に支給すれば、決算賞与を税務上の損金として計上することができ、会社としては節税になるのです。
この仕組みについては、「3-1. 節税になる」も参照してみてください。
1-4. 決算賞与の支給対象
次に、決算賞与は誰に対して支給するものなのでしょうか?
基本的には「従業員」です。
正社員はもちろん対象になります。
企業によっては、アルバイトやパートにも支給するところもありますが、多くはないでしょう。
支給対象の範囲は、企業側が自由に決めることができます。
ちなみに、従業員以外に「役員」にも決算賞与を支給する企業もあります。
ですが、役員に支給された決算賞与は税務上の「損金」には参入できない、つまり節税にならないので注意が必要です。
1-5. 決算賞与の支給額
決算賞与の支給額は、ケースによってまちまちです。
それは、以下のようなさまざまな要素によって左右されるからです。
◎その期の利益がどの程度上がったか
◎従業員数は何人か
◎利益を事業資金に回す必要があるかどうか
決算賞与を「従業員への利益還元」と考えると、当期の利益分を従業員で頭割りするのが原則だとも考えられますが、実際には役職や貢献度によって支給額に差をつける企業もあります。
また、事業拡大のための設備投資や人員補充が必要だったり、新事業を展開したりする場合には、利益をそのための事業資金として使い、決算賞与は少なくなるかもしれません。
傾向としては、通常の賞与よりも少なめの場合が多いようですが、中には多額の支給をして社員のモチベーション向上をねらう企業もあります。
2. 決算賞与から引く税金・社会保険料
決算賞与は「給与」の一種です。
そのため、通常の給与と同様に、税金や社会保険料を引いて支給します。
概算では、賞与の手取り額はおよそ「8掛け」で求められます。
【決算賞与の手取り概算額】 |
つまり、賞与が5万円なら従業員の手取りは約4万円、10万円なら約8万円だと考えればいいでしょう。
では何をどれくらい引けばいいのでしょうか?
ひとつずつみていきましょう。
2-1. 決算賞与にかかる税金
決算賞与にかかる税金は「所得税」です。
賞与にかかる所得税の計算方法は、以下の通りです。
【賞与にかかる所得税】 <通常の場合> <前月の給与の金額の10倍を超える賞与を支払う場合> <前月に給与の支払がない場合> ※「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」、「月額表」は令和3年分のものです。 |
以上の計算式にしたがって、所得税額を求めてください。
2-2. 決算賞与から引かれる社会保険料
次に、決算賞与から引かれる社会保険料は、
◎健康保険料
◎厚生年金保険料
◎雇用保険料
の3種です。
それぞれの計算方法は以下の通りです。
【賞与から引かれる社会保険料】 ①健康保険料 ②厚生年金保険料 ③雇用保険料 |
以上の①②③の合計が、賞与から差し引かれる社会保険料です。
2-3. 決算賞与の手取り額計算式
以上を踏まえて、決算賞与の手取り額を算出してみましょう。
【決算賞与の手取り額】 |
ただ、「2-1. 決算賞与にかかる税金」「2-2. 決算賞与から引かれる社会保険料」を計算するのは面倒ですよね。
「正確な額ではなくていいので、概算だけ知りたい」という場合は、冒頭で紹介した概算額の計算式、
決算賞与(額面)✖ 0.8 = 決算賞与の手取り概算額
を利用してください。
3. 企業が決算賞与を出すメリット
さて、決算賞与は「利益が上がった際に、それを従業員に還元するもの」と説明しましたよね。
従業員にとっては、予想外の臨時収入になるわけで、もらってうれしいはずです。
ですが、決算賞与を出す企業側には、どんなメリットがあるのでしょうか?
それは、主に以下の2つがあげられます。
3-1. 節税になる
まず第一のメリットは「節税」です。
というのも、決算賞与を出すと、その分を税務上では「損金」として計上することができるからです。
「損金」を増やせば「法人税」を減らすことができるのです。
くわしく説明しましょう。
「法人税」は、企業が事業で得た「所得」に対して課税されます。
この「所得」とは、単純に「利益」を指すものではありません。
正確な説明は長くなるのでここでは割愛しますが、おおよそのところは「所得=収益-損金」と考えればいいでしょう。
つまり、税務上の「損金」を増やせば「所得」が減るので、それにかかる「法人税」も少なくなる、という仕組みです。
そのため企業側としては、「今期は利益が出たけれど、その分税金も多くかかってしまう」「税金で支払うよりは、その分を従業員に還元したほうがいい」という考え方ができるわけです。
ただし、決算賞与を「損金」として計上するには、法人税法施行令第72条の3にもとづいて、以下の条件が課されています。
① その事業年度の終了日までに、賞与の支給額を、同時期に支給を受ける従業員すべてに対してそれぞれに通知していること |
端的に言えば、決算賞与で節税したい場合には、年度内に従業員すべてに対して「〇〇円支給します」と個別に通知をして、実際にその金額を年度末から1か月以内に支払わなければならないのです
これらをすべて満たすことで、はじめて損金計上できますので、注意してください。
3-2. 従業員のモチベーションが上がる
もうひとつのメリットは、「従業員のモチベーションを上げること」です。
前述したように、決算賞与は会社の収益が上がった際に支給するものです。
つまり、「決算賞与が出る」=「業績が上がった」ことであり、その貢献に対する褒賞的な意味合いも強いのです。
従業員としては、自分のがんばりがお金という形になって会社から認められるわけで、「次はもっとがんばろう!」という意欲をかきたてる効果があるわけです。
また、「がんばればそれに報いてくれる会社なのだ」というメッセージにもなり、従業員の愛社精神、会社への忠誠心も高まるでしょう。
ひいては離職率を下げる効果まで期待できるかもしれません。
4. 企業が決算賞与を出すデメリット
一方で、決算賞与にはデメリットもあります。
それは主に以下の2点です。
4-1. 内部留保が減る
まず第一に、企業の「内部留保」=社内に蓄積された利益分が減ってしまいます。
決算賞与を出すと節税にはなりますが、かわりに多くの従業員に賞与を支払うため、企業の持っている資金、つまり手元の現金は減ってしまいますよね。
その結果、キャッシュフローが悪化し、資金がショートしてしまうリスクが考えられます。
最悪の場合は、収益は出ているのに現金が足りずに倒産する、いわゆる「黒字倒産」に陥りかねません。
それを避けるには、決算賞与の金額を決める際にはキャッシュフローと資金繰りを精査して、資金不足にならないよう注意することが重要です。
4-2. 出ない場合に従業員のモチベーションが下がる
また、一度決算賞与を出すと、次に出せなくなってしまった際に、従業員のモチベーションが下がってしまう恐れもあります。
特に何期か支給が続けば、従業員の中でそれが常態化してしまい、通常の賞与と同様に「当たり前にもらえるもの」になってしまいかねません。
そうなると、「モチベーションUP」というメリットを失い、むしろもらえないことに不満を覚えるようになる可能性もあるのです。
これを回避するには、決算賞与を漫然と支給するのではなく、「今期はこれだけ利益が上がったから、〇〇円還元する」と、支給基準を明確化する必要があります。
たとえば、
「〇千万円以上増益したら、増益分のうち〇%を社員全員で分配する」
「売上目標〇億円を達成したら、一律〇万円支給する」
などです。
この基準が周知されていれば、もし決算賞与が出なくても納得できるでしょうし、「次は目標を達成しよう」とモチベーションを保つことができるはずです。
5. 企業が決算賞与を出す際の注意点
このように、企業側にとってメリットとデメリットの両面がある決算賞与ですが、いざ支給する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。
というのも、決算賞与を出す大きな目的のひとつが「節税」であるため、税務調査で特に厳密にチェックされる可能性が高いからです。
そこで法的に、また税務上で問題がないように、以下の3つのポイントをおさえておきましょう。
5-1. 支給の通知は書面でする
「3-1. 節税になる」で説明しましたが、決算賞与で節税するには以下の3つの条件を満たす必要があります。
① その事業年度の終了日までに、賞与の支給額を、同時期に支給を受ける従業員すべてに対してそれぞれに通知していること |
これを満たしていないのに損金計上すると、最悪の場合、罰金を科せられる恐れもあるので注意が必要です。
そこでまず、①の「通知」は口頭やメールではなく、かならず各人宛の書面で行ってください。
税務調査で、「本当に全員に通知したか」を証明するように求められた際に、エビデンスとして提出できるからです。
その際には、書面配布の記録もとっておくとより安心でしょう。
5-2. 決算前に支給する
次に、②の「事業年度の終了日翌日から1か月以内に支払」うという要件ですが、できれば1か月を待たずに、決算前に支給してください。
というのも、「その事業年度」における「損金」とは、本来ならその年度中に生じた支払いを計上するものだからです。
つまり、決算賞与を「損金」にするためには、決算日より前に支払っているべきなのです。
それを、前掲の法人税法施行令によって「決算翌日から1か月以内」までに支払えば、前年度の損金として計上できると定めているわけです。
反対に、上記の①②③にひとつでも外れていれば、「決算翌日から1か月以内」に支払っても損金計上が認められません。
たとえば、
✖ 決算賞与の通知をしたが、支払いができなかった従業員がいる場合
→ 通知をした時点では会社に在籍していたが、支給までの間に退職するなどして籍がなくなり、支給されなかった人が出てしまうケースが考えられます。
この場合、税務上は全員分の決算賞与がその期の損金と認められなくなってしまいます。
✖ 決算賞与の通知と実際の支給額が異なる場合
→ 決算前の通知で支給額を明示したが、実際に決算したところ利益額が予想と異なったので、支給額を変更した、といった場合もあるでしょう。
もしひとりでも、事前の通知と異なる額を支給した場合は、「損金」の額が変わってしまいます。
そのため、当期の損金とは認められません。
などです。
このようなイレギュラーを避けるには、決算賞与はその期のうちに、つまり決算前に支給しておくほうが安全なのです。
5-3. 支給は銀行振り込みにする
また、②の「その事業年度の終了日翌日から1か月以内に支払っていること」を証明できるように、支給はかならず銀行振り込みにしましょう。
税務調査で確認された際に、振込記録があれば、振込日時と金額が容易に確認できます。
もしどうしても現金手渡しなどにする必要がある場合は、かならず全員から領収書をもらってください。
6. よくある質問
ここまで、決算賞与とは何か、支払う企業側と受け取る従業員側が知っておきたい事柄を網羅してきました。
ですが、それ以外にもさらに「知りたいこと」「疑問に感じること」はあるでしょう。
そこで、最後に「よくある質問」にいくつか答えておきましょう。
6-1. 「決算賞与のみ支給」でもいいか
求人広告の「賞与」欄を見ていると、中には夏・冬のボーナスについての記載がなく、「決算賞与」のみを記載している企業があります。
これはどういうことでしょうか?
労働基準法的に問題はないのでしょうか?
答えは「夏・冬のボーナスはなく、決算賞与のみ支給する」ということで、法的にも問題ありません。
というのも、前述したように、賞与を出すか出さないかは企業の裁量に任されているからです。
会社側が「出さない」と決めれば、支給を強制する法律はありません。
特に「決算賞与のみ」を明示している企業の場合は、「業績がよければ賞与を出す」、つまり、業績が悪ければ賞与はないと考えられます。
6-2. 支給する人としない人がいてもいいか
決算賞与は「業績がよかった際の臨時ボーナス」ですが、会社側としては、貢献度によって支給する人と支給しない人を分けたいと考える場合もあるでしょう。
それは違法ではないでしょうか?
その答えは、「就業規則や雇用契約書などに決算賞与に関する規定がなければ、一部の人にのみ支給しても違法ではない」です。
また、人によって支給額に差をつけることも可能です。
たとえば、「正社員にのみ支給して、パートやアルバイトには支給しない」でも、「事業に特に貢献した人にのみ支給する」でも問題はありませんし、「Aさんには10万円、Bさんには5万円」としてもいいのです。
ただし、就業規則や雇用契約書などに、「決算賞与は全員に支給する」などの旨が記載されていれば、かならず全員に支給する必要があります。
支給を決める前に、上記の書面を確認してみてください。
7. まとめ
いかがでしたか?
決算賞与とはどんなものか、よく理解できたことと思います。
ではあらためて、記事の要点をまとめてみましょう。
◎決算賞与とは「企業がその年度の業績に応じて支給する、臨時の賞与」
◎通常の賞与との違いは、
・決算賞与:業績がよければ決算後に支給することがあるか、支給しないケースも多い
・通常の賞与:多くの企業では毎年夏と冬に支給する
◎企業が決算賞与を出すメリットは、
・節税になる
・従業員のモチベーションが上がる
◎企業が決算賞与を出すデメリットは、
・内部留保が減る
・出ない場合に従業員のモチベーションが下がる
以上を踏まえて、あなたが決算賞与を適切に支給できることを願っています。
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