相続財産が未分割の状態で、小規模宅地等の特例を使うには

小規模宅地等の特例は、土地の相続税評価額が最大80%減額できる制度ですが、相続財産が未分割の状態では適用できません。
そのため相続税の申告期限までに遺産分割が完了している必要がありますが、もし申告期限までに遺産分割が間に合わなかったとしても、後日特例を適用できます。
そこで本記事では、未分割の状態で小規模宅地等の特例を適用する際の流れと、注意点についてご説明します。

小規模宅地等の特例を適用するためには遺産分割が必須条件

小規模宅地等の特例は、4種類の制度が存在します。

小規模宅地等の特例の対象宅地等の種類

  • 特定居住用宅地等
  • 特定事業用宅地等
  • 特定同族会社事業用宅地等
  • 貸付事業用宅地等
特定居住用特定事業用特定同族会社事業用貸付事業用
減額割合80%80%80%50%
限度面積330㎡400㎡400㎡200㎡
対象物件・居住用・事業用 (貸付業以外) ・同族法人の事業用 (貸付業以外) ・貸付事業用
特例適用対象者・配偶者 ・同居していた親族 ・持ち家のない親族 ・事業承継者・対象同族法人の役員・事業承継者

適用する制度ごとに要件はありますが、すべての小規模宅地等の特例に共通しているのが、遺産分割協議が完了していなければ特例は適用できないという点です。
そのため相続人が、どの物件を取得するかを早期に決めることが、特例適用には必要です。

未分割財産に対して小規模宅地等の特例を適用する方法

小規模宅地等の特例は、未分割の状態では適用できませんが、相続税の申告書と一緒に所定の書類を提出すれば、遺産分割完了後に特例が適用可能になります。

相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する

相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらなかった場合でも、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、その後遺産分割が完了すれば、小規模宅地等の特例は適用できます。

「申告期限後3年以内の分割見込書」は、相続税の申告書を一緒に提出し、申告期限から3年以内に遺産分割が完了した時点で、改めて相続税の申告手続きを行います。
注意点として、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しても、当初相続税の申告書を提出する時点においては、小規模宅地等の特例は適用できません。
そのため一度、小規模宅地等の特例を適用しない状態で相続税額を算出し、税務署に相続税を納めることになります。

申告期限後3年以内し遺産分割完了後4か月以内に「更正の請求書」を提出する

「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出後、申告期限から3年以内に遺産分割協議が完了すれば、小規模宅地等の特例は適用できます。
小規模宅地等の特例適用により、当初納めた相続税が減少する(還付)相続人は、遺産分割協議が完了してから、4か月以内に「更正の請求書」を提出しなければなりません。

更正の請求書とは、税務署に申告書の内容の変更を求める書類で、請求が認められれば、先に納めた相続税が還付されます。
相続税の申告書は、相続人が連名で申告しますが、更正の請求書は相続人ごとに請求書を作成し、提出しなければなりません。

一方遺産分割協議に伴い、当初申告よりも多く相続税を納める相続人は、「更正の請求書」ではなく「修正申告書」を提出します。
なお修正申告書を提出する相続人が複数人いる場合には、相続税の申告書と同様、連名で申告書を提出できます。

更正の請求書で提出する書類と還付時期

遺産分割協議が完了し、小規模宅地等の特例が適用する際には、「更正の請求書」とそれに伴う書類を添付し、税務署に提出します。

更正の請求書で必要になる書類

  • 更正の請求書
  • 遺産分割協議書の写し
  • 印鑑証明書
    ※更正の請求内容によっては、上記以外にも必要となる書類があります。

更正の請求書の提出期限は、遺産分割が完了してから4か月以内です。
また税務署は、1~2か月以内に更正の請求書の内容を確認し、相続人に通知を行います。
更正の請求書の内容が認められれば、通知書が到達して1か月以内に相続税が還付されます。

未分割で小規模宅地等の特例を適用する際によくある質問

未分割の状態で小規模宅地等の特例を適用する際に、よくある質問にお答えします。

相続税の申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しなかった場合

小規模宅地等の特例適用するためには、相続税の申告を提出する際に、特例適用の意思表示をしなければなりません。
小規模宅地等の特例は、遺産分割が完了していないと適用できませんが、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すれば、遺産分割完了後に特例を適用できます。
しかし未分割の状態で、相続税の申告書を提出する際には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しなければ、小規模宅地等の特例は適用できません。
ただ税務署が「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しなかったことについて、やむを得ない事情があると認めた場合には、例外として特例適用が認められる可能性があります。
なお、やむを得ない事情の判断は、相続税の申告書を提出する税務署が個別に判断します。

申告期限後3年以内に相続財産の分割ができなかった場合

申告期限3年を経過する時点で遺産分割協議が完了していなくても、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署から承認された場合には、小規模宅地等の特例は適用できます。
「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」は、申告期限後3年を経過する日の翌日から、2か月を経過する日までに提出しなければなりません。
また承認申請書は、税務署が未分割であることにやむを得ない事情があると、判断した場合に承認されます。

やむを得ない事情に該当する主なケース

  • 相続についての裁判が提起されている
  • 相続についての和解、調停、審判等の申立てが行われている
  • 申告期限の翌日から3年を経過する日において、相続人に行方不明または生死不明がおり、その者に係る財産管理人が選任されていない

承認申請書を提出する際には、やむを得ない事情を証明する書類の提出が必要で、和解や調停の申し立てに関する書類を添付することになります。
なお相続人間で話し合っているだけでは、やむを得ない事情には該当しませんので、ご注意ください。

未分割財産に小規模宅地等の特例を適用する際のまとめ

未分割財産に小規模宅地等の特例を適用する際は、以下の事項に注意してください。

未分割の状態で小規模宅地等の特例を適用する際のポイント

  • 未分割の状態では小規模宅地等の特例は適用不可
  • 相続税の申告書と一緒に分割見込書を提出
  • 遺産分割完了後、4か月以内に更正の請求書を提出
  • 3年以内に遺産分割が終わらない場合には、2か月以内に承認申請書を提出する

小規模宅地等の特例は節税効果が高い特例ですので、適用できない場合には余分に相続税を支払うことになります。
また小規模宅地等の特例は、所定の書類を揃えて提出する必要がありますので、確実に特例を適用するためには、一度税理士にご相談することをオススメします。