まとまった資金を生前贈与できる「相続時精算課税制度」を、できるだけ有効活用したいと考えていませんか?
相続時精算課税制度は、生前贈与が一定の額まで非課税になる制度です。ただし、相続時に相続税が発生する可能性があることを十分に理解しておかなければなりません。
そこでこの記事では、相続時精算課税制度の仕組みをわかりやすく説明し、贈与税と相続税に関するさまざまな注意点を解説していきます。
この記事でわかること
- 相続時精算課税制度とはどんな制度なのか?
- 相続時精算課税制度が贈与税と相続税に与える影響
- 相続時精算課税制度のメリット・デメリット
この記事を最後までお読みいただけると、相続時精算課税制度がどのようなシーンで役立つかを理解していただけます。
相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度は、生前贈与によって若い世代へ速やかに財産を移転し、経済を活性化させる目的で設けられた制度です。
相続時精算課税制度の利用で、受贈者は贈与財産の2,500万円までなら贈与税を納めずとも、財産を受け取ることができます。ただし、贈与者が死亡した場合に、贈与財産と相続財産の価額の合計に対して、相続税が課せられる仕組みです。
贈与財産が2,500万円を超えた場合については、超過分に対して20%の贈与税が課せられます。この贈与税については、相続税申告をする際に相続税額から控除されます。
昨今の高齢化社会においては、次世代の経済活動を活性化させるために積極的に活用すべき制度です。しかし、贈与税を免除できても相続税が増える可能性があるため、慎重に活用しなければならないのです。
贈与者・受贈者となる適用条件
相続時精算課税制度は、相続を念頭に置いた関係性となる、高齢になった父母(祖父母)と成人した子ども(孫)の間で主に利用されています。
具体的な適用条件は、以下の通りです。
年齢における適用条件
●【贈与者】贈与を行った年の1月1日時点で、60歳以上の父母、もしくは祖父母
●【受贈者】贈与を受けた年の1月1日時点で、20歳以上の贈与者の子ども、もしくは孫
これらの条件に当てはまらない場合でも、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」が適用された場合、子どもや孫などの直系卑属以外も受贈者となれます。
適用に必要な書類・手続き
相続時精算課税制度を適用する場合、贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日の申告期限で手続きを済ませる必要があります。
まずは、以下の書類を準備しましょう。
相続時精算課税制度の提出書類
●相続時精算課税選択届出書
●贈与税の申告書(第1表・第2表を記入
相続時精算課税制度の添付書類
●受講者の戸籍謄本、または戸籍抄本
●受贈者の住所がわかる戸籍の附票など
●贈与者の住民票、または戸籍の附表
各種書類は国税庁の公式サイトからダウンロードし、自分で作成可能です。
「書類作成にかかる時間や手間を省略したい」「誤りなく正確に記入したい」という場合には、税理士などの専門家に依頼すれば安心です。
相続時精算課税制度と併用できない制度について
相続時精算課税制度は、一度届出書を提出すると撤回することができません。
また、暦年贈与や小規模宅地等の特例と併用できないことから、「本当に相続時精算課税を選択すべきか」を慎重に考える必要があります。
暦年贈与とは
暦年贈与とは、相続時精算課税を選択しない場合に適用される本来の課税方式です。
暦年贈与では、年間110万円を超える贈与を行った場合、超過した価額に対して贈与税が課税されます。
相続時精算課税制度を活用する場合、同じ受贈者に対して暦年贈与を併用できないため注意してください。
例えば、すでに相続時精算課税の届出書を提出した受贈者は、暦年贈与へ切り替えられないため、年間110万円までの贈与税の非課税枠を利用できないということです。
ただし、父から相続時精算課税、母から暦年贈与といったように、贈与者がそれぞれ異なる場合であれば問題なく利用可能です。
小規模宅地等とは
小規模宅地等とは、不動産に関する相続税の特例のことです。
要件を満たすことで、被相続人(亡くなった人)が保有・貸出していた土地(居住用・事業用)を相続する際、評価額を80%減額して相続税を算出できる制度です。
資産的価値の高い宅地などを相続する際、節税効果は絶大となります。そのため、相続時精算課税と小規模宅地等、どちらを利用するかは慎重に決めましょう。
相続時精算課税制度による贈与税・相続税の計算方法
生前贈与に相続時精算課税を選んだ場合、贈与税だけではなく相続税にも影響が出ることもあります。
受贈者の節税目的で本制度を利用したつもりなのに、最終的に相続税で大きな負担がかかるケースもあるため、必ずしも有利に働く制度ではないことを理解しておきましょう。
贈与税と相続税にどのような影響があるのかを、具体的な計算方法を例に挙げながら解説していきます。
①贈与税の計算方法
生前贈与に相続時精算課税を選んだとしても、控除限度の2,500万円を超えた場合には受贈者に贈与税が課せられます。
1年目:贈与者から受贈者への800万円を贈与
●課税対象の贈与税0円= 贈与額800万円 – 特別控除額800万円(残り1700万円)
●受贈者は、相続時精算課税選択届出書、添付書類、贈与税申告書などを提出
2年目:贈与者から受贈者への1,300万円を贈与
●課税対象の贈与税0円= 贈与額1,300万円 – 特別控除額1,300万円(残り400万円)
●受贈者は、贈与税申告書を提出
3年目:贈与者から受贈者への900万円を贈与
●課税対象の贈与税500万円= 贈与額900万円 – 特別控除額400万円(残り0万円)
●控除上限を超過した500万円に対して贈与税が課される
●受贈者は、贈与税申告書を提出
最終的な贈与税
●贈与税額100万円 = 500万円 × 20%(贈与税率)
このケースでは、3年目(3回目)の贈与で控除上限に達したため、オーバーした500万円に対して贈与税率20%(一律)が課せられます。
では、上記の例の場合、相続税にどう影響するのかを次項で説明していきます。
②相続税の計算方法
「①贈与税計算方法」では、相続時精算課税を選択し、控除上限2,500万円の枠を全て利用し、さらに超過分の贈与税が100万円課せられています。
贈与者である父親が亡くなった場合、子に行っていた生前贈与が相続税にどのように影響するのかを大まかにまとめました。
遺産・贈与総額を求める
●遺産・贈与総額1億1,500万円 = 遺産総額9,000万円 + 贈与財産総額 2,500万円(相続開始前3年以内の贈与財産が対象)
課税遺産総額を求める
●課税遺産総額7,800万円 =遺産・贈与総額1億2,000万円 – 基礎控除4,200万円(母・子で相続人2人の場合)
法定相続分に応ずる取得金額の求め方
●法定相続分に応ずる取得金額3,650万円 = 課税遺産総額7,800万円 × 1/2(子の法定相続分
子の正味相続税の求め方
●子の正味相続税730万円 = 法定相続分に応ずる取得金額3,650万円 × 20%(相続税率)
相続税総額の求め方
●相続税総額1,460万円 = 730万円(子の正味相続税) + 730万円(妻の正味相続税)
実際に納めるべき相続税額の求め方
●実際に納める相続税額630万円 = 相続税総額1,800万円 × 1/2(子の法定相続分)- 贈与税額100万円
受贈者は、遺産総額と相続開始前3年以内における相続時精算課税制度の贈与総額と合算し、相続税の計算を行う必要があります。
最終的に、過去に納税してある贈与税額100万円を控除した上で、実際に納める相続税額を求める流れとなります。
相続時精算課税制度を利用するメリット
子どもや孫に生前贈与する際、相続時精算課税制度、暦年贈与、小規模宅地等のどれを選択すべきか悩む人は多いです。
その中でも、相続時精算課税制度を選ぶメリットを3つ解説していきます。
子ども、孫に早期に財産贈与ができる
受贈者となる子どもや孫がまとまった資金を必要としている時、相続時精算課税制度なら必要としているタイミングでまとまった財産贈与ができます。
相続時精算課税制度には、若い世代の消費を拡大させる目的がありますが、家族の将来的な生計における課題を解決できる手段にもなるのです。
暦年課税より税率がはるかに低い
相続時精算課税制度は、贈与財産が合計2,500万円を超過した分に対し、一律20%の税率となります。
暦年贈与を利用した場合、贈与税額に応じて最低30%〜最高55%の税率となるため、相続時精算課税制度の方がはるかに税率が低くなります。
例えば、1年間で3,000万円の暦年贈与を行った場合、税率は45%になります。相続時精算課税制度を利用した場合は一律20%の税率となるため、数百万円以上の差が生まれるということです。
将来値上がりする財産の贈与で相続税を節税できる
賃貸マンションや収益物件を生前贈与した場合、相続発生時にも贈与時の時価が適用されます。
つまり、相続時精算課税制度で物件を子どもや孫に贈与した後、相続発生時に時価が高騰した場合、相続財産の評価額が実質下がることから相続税の節税となるのです。
相続時精算課税制度を利用するデメリット
相続時精算課税制度は一度適用されると撤回できないため、暦年課税や小規模宅地等と併用できないのはデメリットとなります。
また、本制度を使っても必ずしも節税になるわけではなく、相続税の負担が本来よりも大きくなる可能性もあります。
他にも、相続時精算課税制度を利用する前に知っておくべきデメリットがあるため、十分に理解しておきましょう。
不動産の生前贈与でコストが発生する
不動産を子どもや孫へ生前贈与した場合、不動産を相続させた場合よりも多くのコストが発生します。
具体的に、不動産の生前贈与と相続で発生する贈与税、相続税以外のコストは以下の通りです。
不動産を生前贈与した場合のコスト
●登録免許税:固定資産税評価額の2.0%
●不動産取得税:固定資産税評価額の3.0%(時限装置による軽減あり)
不動産を相続した場合のコスト
●登録免許税:固定資産税評価額の0.4%
●不動産取得税:なし
このように、登録免許税と不動産取得税においてコストに大きな差が生まれてしまうのです。多くの不動産を生前贈与する場合には、受贈者の負担も大きくなってしまうことを十分に理解しておきましょう。
書類作成と申告の手間がかかる
相続時精算課税制度を選択した場合、受贈者は届出書や申告書などの必要書類を作成し、提出しなければなりません。
また、控除上限を超過した贈与税については、贈与者が死亡するまで毎回申告する必要があります。
もし申告漏れがあった場合、税務調査を経て贈与税額の更生や課税処分に繋がります。受贈者は、贈与があった翌年2月1日〜3月15日までに必ず申告・納税をしましょう。
収益物件が値下がりで相続税が増える
賃貸マンションや収益物件などの贈与財産の時価が相続時に下がっていた場合、実質的に相続税が増えたことになってしまいます。
時価は贈与時に評価されたものが固定されるため、将来的に値下がりが予想される物件の生前贈与はよく考えてから行う必要があるでしょう。
まとめ
相続時精算課税制度は、贈与者となる父母(祖父母)から、受贈者となる子ども(孫)へ、早期に資産を贈与できる制度です。
本制度を利用すれば、2,500万円までの生前贈与に対する贈与税が免除され、超過分に対しては一律20%の贈与税が課せられます。
ただし、メリットもあればデメリットもあるため、利用すべきかどうかを慎重に検討する必要があるでしょう。
相続時精算課税制度のメリット
●子ども、孫に早期に財産贈与ができる
●贈与税が2,500万円まで免除される
●暦年課税より税率がはるかに低い
●将来値上がりする財産の贈与で相続税を節税できる
相続時精算課税制度のデメリット
●一度適用されると撤回できない
●暦年課税、小規模宅地等とは併用できない
●不動産の生前贈与でコストが発生する
●書類作成と申告の手間がかかる
●収益物件が値下がりで相続税が増える
相続時精算課税制度を利用しようと考えている人は、「生前贈与すべきなのか?それとも相続にすべきなのか?」と悩むことがあるでしょう。
そんな時は、本制度の仕組みを熟知した税理士を頼ることで、効果を最大化できます。
税金の専門家である税理士は、何をいつ贈与すべきか、相続時にどのような影響が出るかなどを細かくアドバイスしてくれる他、時間と手間のかかる書類の準備や各種手続きも手厚くサポートしてくれます。
家族にとってベストな選択をしたい方は、まずは税理士に無料相談してみてはいかがでしょうか。