法定相続人を確定させるための戸籍謄本の見方や集め方を解説

相続の手続きでまず最初に行うことは、法定相続人を調査し、誰が法定相続人であるかを確定させることです。
法定相続人を確定させることは、遺産分割協議、金融機関などの相続手続き、相続税の計算など、あらゆる手続きの出発点となります。
法定相続人の確定は、被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本と、各相続人の現在の戸籍謄本を確認して行います。
戸籍謄本の見方や集め方を知れば、専門家でなくても法定相続人を確定させることは可能です。

法定相続人とは

法定相続人とは、民法で相続人であると定められた、被相続人(亡くなった人)の一定の親族のことです。

法定相続人の範囲

法定相続人になるのは、まず被相続人の配偶者と子です。

配偶者は相続開始のときに婚姻していた方に限られますので、前の配偶者や内縁の相手は含まれません。
これに対し、子は現在の配偶者との間に生まれた子に限らず、前の配偶者との子や婚外で生まれて認知した子、養子縁組した子も含まれます。

もし子が1人もいなければ、次は被相続人の直系尊属、その人物もいなければ被相続人の兄弟姉妹が法定相続人となります。
直系尊属とは基本的には被相続人の父母ですが、両親とも亡くなって祖父や祖母がいるケースでは、祖父や祖母が法定相続人になります。

まとめると、配偶者はどのようなケースでも必ず相続人となり、それ以外は、子→直系尊属→兄弟姉妹の順で変わるということです。
ただし、このとおりにならない場合もあります。

代襲相続とは

代襲相続とは、法定相続人としての地位を子が受け継ぐことをいいます。
代襲相続が発生するのは、法定相続人が被相続人の子か兄弟姉妹のときで、その人物が

  • 被相続人が亡くなる以前に死亡している
  • 相続欠格や廃除によって相続人でなくなっている

という場合です。
たとえば、被相続人の子が被相続人よりも先に亡くなり孫がいれば、孫が法定相続人になります。

法定相続人

相続放棄をした場合は、代襲相続は発生しません。

法定相続人の調べ方

法定相続人を確定させるには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本と、それによって判明した各相続人の現在の戸籍謄本を収集する必要があります。

なぜ法定相続人の確定に戸籍謄本が必要なのか

法定相続人にあたる人物は、生前の被相続人の周囲にいた親族だけとは限りません。
前の配偶者との間に子どもがいて何十年も離れて暮らしているケースや、親が離婚して何十年も会っていない兄弟がいたりするケースも考えられます。
わたしたちの法律上の親族関係を記録しているのは、役所が管理する戸籍です。

そのため法定相続人を確定させるには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本から、その親族関係をすべて明らかにし、かつ除籍した子などの現状を確認するために各相続人の現在の戸籍謄本を確認する必要があるのです。

出生から死亡までの戸籍謄本を集める方法

新しい戸籍ができるしくみ

まずはどうやって戸籍が作られるかを簡単に説明します。
人は生まれると、出生届によって父母の戸籍に入ります。
その後、結婚すると配偶者との新しい戸籍が作られます。
これを戸籍の「編成」といいます。

「編成」には、ほかにも離婚して新しい戸籍を作るケースなどがあります。
これに対し、「転籍」といって別の市町村から本籍を移すことで新しい戸籍を作ることもできます。
新しい戸籍が作られた後、前の戸籍からは「除籍」されます。

戸籍謄本を集める具体的な手順

まず被相続人の死亡時の戸籍謄本を取得します。
さっそく、死亡時の戸籍謄本のサンプルを見てみましょう。

戸籍謄本

これは、被相続人鈴木A男さんの戸籍謄本のサンプルです。

手に入れたら、その戸籍謄本の被相続人の身分事項の欄に記載された「従前戸籍」(=1つ前の戸籍)を見ます。
サンプルの赤い枠で囲んだ部分です。
これがA男さんの1つ前の戸籍の情報になります。

次はこの戸籍の交付を、戸籍の所在地を管轄する「××区」に請求します。
これを、被相続人の出生時の戸籍まで繰り返します。
人によってはすぐに収集が終わるケースもあれば、あちこちの役所に戸籍謄本を請求しなければならないこともあります。

改正原戸籍が必要になることも

法定相続人の調査は、基本的に「従前戸籍」の取得の繰り返しです。
ただし、サンプルのように「戸籍事項」が「戸籍改製」となっている場合は注意が必要です。(青色の枠参照)

戸籍謄本

これは戸籍の「改製」が行われていることを意味します。(サンプルの改製日は、実在する団体とは関係ありません。)

戸籍の改製とは、この戸籍をコンピュータで処理できるようになったことを表すもので、この戸籍には紙の古い戸籍の原本があることを意味しています。

古い戸籍のことを「改製原戸籍」といいます。
相続では、この「改製原戸籍」も収集しなければなりません。
なぜならコンピュータ化された新しい戸籍には、古い戸籍で除籍された人の情報が出てこないからです。
改製原戸籍も同じ役所に請求すれば謄本を発行してもらえます。
読み方は「かいせいげんこせき」ですが、戸籍をよく扱う職業の人たちは「かいせいはらこせき」、「はらこせき」と呼んでいます。

戸籍がつながっていることの確認方法

従前戸籍を取得したら、まずその戸籍の被相続人の「身分事項」に記載されている除籍に関する日付を確認します。(婚姻日など)
これが新しい戸籍の「戸籍事項」に記載されている「編成日」や「転籍日」と一致すれば、2つの戸籍が連続していることを確認できます。
改製原戸籍の場合は縦書きで、1枚目の最初に「◯年◯月◯日編成」のように編成日等が記載されています。

こうして、空白の期間を作らないよう日付を繋ぎながら、一連の戸籍謄本の収集を続けます。
出生時の戸籍は、被相続人が生まれて初めて入った戸籍になります。
したがって、戸籍の編成日や転籍日よりも被相続人の出生日のほうが後になっている被相続人の従前戸籍にたどりつけばゴールとなります。

戸籍謄本から法定相続人を確定する方法

子は認知・養子縁組にも注意

出生から死亡までの戸籍を集めたら、被相続人の子を確認します。

被相続人を父母とする子が被相続人の戸籍に載っている場合はもちろんですが、戸籍に載っていなくても被相続人が認知した子や養子縁組した子がいないか見ておきましょう。

認知や養子縁組があれば、被相続人の「身分事項」に、その日付や子の氏名が記載されます。
被相続人に子がいない場合は直系尊属、いなければ兄弟姉妹を戸籍謄本から確認する必要があります。

各相続人の現在の戸籍謄本も確認する

判明した人物が法定相続人であることを確定するには、各相続人の現在の戸籍謄本も必要です。
法定相続人になれるのは、相続のときに生存している人物であることが前提ですので、法定相続人自身の現状も確認する必要があります。
先ほどのサンプルの戸籍で考えてみましょう。

戸籍謄本

まずB子は配偶者として法定相続人であることが確定します。
被相続人の死亡時の戸籍は、B子の現在の戸籍でもあるため、新たに戸籍謄本を取得する必要はありません。
これに対して長女C子は、平成26年8月に婚姻し、被相続人の戸籍から除籍しています。
したがってC子は現在の戸籍謄本を取得する必要があります。

代襲相続人を調査するとき

法定相続人が代襲相続の要件に該当する場合は、その人物に代襲相続人がいるかどうかを調査します。
たとえばサンプルの例でC子が被相続人よりも先に亡くなっているケースでは、C子の子を全員把握しなければなりません。
よってこの場合はC子についても出生から死亡までのすべての戸籍謄本を確認する必要があります。

なお被相続人の子の代襲相続には「再代襲」があります。

「再代襲」とは子が亡くなっていれば孫、孫も亡くなっていればひ孫…というように代襲を繰り返すことです。(兄弟姉妹は一代のみ)

相続のときに胎児として存在していれば相続権は認められます。(民法第886条第1項)

戸籍謄本を役所から集める方法

戸籍謄本は、本籍地を管轄する役所が管理しています。
関係者からの請求であれば交付してもらうことができます。

交付してもらうのは「全部事項証明書」

さきほど改製原戸籍について触れましたが、戸籍がコンピュータ処理できるようになった後に役所が発行する戸籍謄本は「全部事項証明書」に変わっています。

「一部事項証明書」(これまでの戸籍抄本にあたるもの)も発行できますが、相続手続きに必要なのは「全部事項証明書」です。

戸籍謄本(全部事項証明書)を請求できる人

戸籍謄本(全部事項証明書)を請求できる人は、次のいずれかにあてはまる人です。

  • 被相続人と同じ戸籍に記載されている人
  • 被相続人の配偶者、直系血族(子や孫、父母や祖父母など)
  • 正当な理由がある人
  • 上記の代理人

請求は窓口か郵送

戸籍謄本を請求する方法には、窓口請求と郵送請求があります。
いずれも請求できる人にあてはまることがわかる身分証明書を示すか、あるいはコピーを同封する必要があります。
また「正当な理由がある人」についてはその理由を明らかにする疎明資料も必要です。
必要書類や請求の手続きは、各自治体のホームページを確認してください。

戸籍謄本(全部事項証明書)は何枚必要?

金融機関などで相続の手続きをするには、法定相続人を確認するための書類として、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と各相続人の戸籍謄本の提出を求められます。
返還してもらえる場合もありますが、さまざまな手続きを限られた時間で行うにあたって書類の使いまわしは非効率です

そのため、提出先の数に合わせて戸籍謄本を大量に取得する人もいます。
提出先が多いときは、先に法定相続情報証明制度の利用を検討しましょう。

この制度は、登記所(法務局)に法定相続人を確定させるためのすべての戸籍謄本と「法定相続情報一覧図」を提出して、登記官がそれを認証し、以後は、その認証文が付された一覧図の写しを戸籍謄本の代わりに各機関に提出できるようになるというものです。

写しの交付は無料なので、戸籍謄本を何通も取得するコストを削減できます。

法定相続人の確定はなるべく早く済ませよう

法定相続人を確定させることは、相続手続きのスタートラインです。
早めに行うことでその後の手続きをスムーズに進めることができます。
自分で請求することが難しい場合や戸籍謄本から法定相続人を読み解くことが不安なときは、士業等の専門家に依頼して代理人として取得してもらう方法が効率的です。
必要書類と委任状を渡せば、戸籍の収集を漏れなく行うことができますし、法定相続人の確定まで済ませることができます。