「SWOT分析をしたいけれど、何から始めたらよいのかわからない」
「SWOT分析をしてみたけれど、どうもピンとこない」
現状を把握して課題や戦略を見出すのに効果的な「SWOT分析」ですが、いざやろうとすると具体的なやり方がわからず、手詰まりになってしまっていませんか?
それは、「方法」はわかっているものの、「考え方」がわからないせいかもしれません。
実は、SWOT分析を正しく行うためには、SWOT分析とは何かということや方法を知るだけでは不十分なのです。
必要なのは、「どのような思考回路で分析を進めていくべきか」を理解することです。
例えば、マクドナルドを事例にSWOT分析を行うと、以下のような分析結果になります。
この記事では、上記の結果に至るまでの手順について、「何をどのようにしたのか」ということを具体的に解説します。
この具体例を知ることが、SWOT分析における考え方を理解することにつながります。
また、各業種におけるSWOT分析の例やSWOT分析を行う際に押さえておきたいポイントについても解説しています。
この記事を読むことで、SWOT分析の具体的なやり方がイメージでき、大切なポイントも理解できるため、実際に正しい方法で行うことができるようになりますよ。
効果的な戦略を見出して状況を好転させていくための第一歩として、ぜひ最後までお読みください。
【ご注意ください】 |
目次
1.【事例】マクドナルドのSWOT分析
マクドナルドを事例にSWOT分析をすると、以下のような分析結果になります。
続いてSWOTクロス分析の結果です。
実際にSWOT分析を行う際には以下の6STEPで作業を進めていくわけですが、どのような考え方を経て上記の結論に至ったのかということについて、次章から詳しく解説していきます。
2. 【STEP1】分析を行う目的を明確化する
今回のマクドナルドの事例では、SWOT分析を行う目的を「顧客を呼び戻し業績を回復させるための戦略を見出す」と設定しました。
マクドナルドは、2014年から2015年にかけて消費期限切れの鶏肉使用疑惑や異物混入事件という不祥事が相次ぎ、過去最高額の赤字を記録しました。
赤字の原因は信頼を裏切られた顧客が離れていったことなので、そこに焦点を当てた目的にしたというわけです。
実際にマクドナルドでは、今回のSWOT分析事例から導き出されたような戦略を実行し、赤字からのV字回復を成し遂げています。
このように、最初に分析を行う目的をはっきりとさせておくことが、分析の質を担保し効果的な戦略を見出すことにつながります。
SWOT分析は、経営やマーケティング戦略を策定するために、分析対象を取り巻く環境を多角的に分析するフレームワークです。
この「多角的」という部分がSWOT分析の最大の特徴であり、他のフレームワークを内包するような広さをもって全体像を把握する分析なのです。
そのため、明確な目的を定めて取り組まないと、結果が抽象的になったり、どのような結論が最適解なのか判断できなくなる可能性があります。
そうなると経営やマーケティング戦略を策定するという成果が得られないため、目的はしっかりと明文化しましょう。
3. 【STEP2】分析の要素となる情報を収集する
次に、分析の要素をなるべく多く挙げるため、使えそうな情報を集めていきます。
外部環境(機会・脅威)に関しては、社会の情勢や競合の動きなどについて情報収集します。
また内部環境(強み・弱み)に関しては、マクドナルドの商品やサービスについて、どのような特徴・傾向があるのかということを明らかにします。
3-1. 外部環境に関する情報収集方法
外部環境では、マクドナルドが「顧客を呼び戻し業績を回復させる」ことに影響を与えそうな要素について、以下2つの視点で情報収集します。
・社会の情勢(景気や世論・流行など)
・競合店の動き(売上・客層・価格帯など)
3-1-1. 社会の情勢
まずは社会情勢として、「自社に顧客が集まりやすい状況にあるのか否か」を確認します。
それには「そもそもハンバーガーが売れる時世なのか」・「自社の商品へのニーズはあるのか」ということを知る必要があるため、ニュースやインターネット・SNSを使って以下のようなことを調べてみましょう。
・景気の状況は?
・物価の変動は?
・人々が外食(特にファストフード)を利用する機会や頻度は?
・食における流行は?
・自社の不祥事に対する世間の反応は?
その結果、消費活動が低迷しており自社の不祥事への目も厳しいこと・健康志向や中食・内食というブームがあるということがわかりました。
【社会の情勢を知るために便利なツール】 市場調査データを確認する方法として代表的なものは「総務省統計局による調査」で、人口や物価・労働・経済など、様々な実態を表す統計データが無料で閲覧できます。 また、民間の機関による市場調査にも多くの種類があるため、「知りたいこと+調査」というキーワードで検索すれば何かしらのデータが得られるはずです。 |
3-1-2. 競合店の動き
次に、「顧客を取り合うことになりそうな競合店の動き」を確認します。
マクドナルドは、安価で種類の豊富なハンバーガーと値段の割に美味しいと評判のコーヒーを売りにしています。
そのため、以下のような店が競合店になります。
・モスバーガー(同じハンバーガーチェーンとしての競合)
・ドトール(気軽に購入できるコーヒーを販売する店としての競合)
・サイゼリヤ(安価な食事を提供する店としての競合)
これらの競合店について、客層や価格帯・売上・人気の程度などを調べてみましょう。
店舗に足を運んで調査してもよいですが、インターネット検索でも様々な情報を得られます。
今回の事例では、各競合店のホームページ・人気商品や口コミに関するサイトなどが参考になります。
結果として、売上の額ではマクドナルドに及ばないものの、各店ともそれぞれの強みを活かして顧客の支持を得ていることがわかりました。
【他社の売上を知る方法】 最近では売上や決算の状況を公開する企業が増えてきたため、ホームページを確認すれば情報を得ることができるケースも多いです。 また、知りたい相手が上場企業であれば、金融庁が運営する「EDINET」で売上を確認することが可能です。 |
3-2. 内部環境に関する情報収集方法
内部環境では、マクドナルドが「顧客を呼び戻し業績を回復させる」ことに関連しそうな自社の特徴について、以下のような内容を確認します。
・商品の種類・価格・品質
・サービスの内容
・店舗の数や立地
・経営・運営の状況
・客層
・ブランドイメージ
実際にSWOT分析を行う際には、上記について立場の違う沢山の相手からヒアリングするのが効果的です。
つまりマクドナルドの場合であれば、従業員でも役割の異なる人達や、顧客や取引先といった外部の人も含めて、様々な意見を参考にするということです。
そのための方法としては、以下のようなものがあります。
・経営会議での発問
・マネージャーや接客スタッフへのヒアリング
・お客様アンケート
・口コミから該当する意見を拾い上げる
・広告担当者から意見をもらう
4.【STEP3】外部環境(機会・脅威)の要素を挙げる
分析に使えそうな情報を集める作業が済んだら、いよいよ実際の分析を始めていきましょう。
まずは外部環境の要素を挙げていきますが、マクドナルドの場合には以下のような内容になります。
・経済・消費活動の状況
・ライフスタイル(特に食事)における流行
・食品や外食産業に対するニーズ
・自社と似たようなサービスを提供する店の動向
4-1. 機会(Opportunity)を挙げる
マクドナルドが「顧客を呼び戻し業績を回復させる」という目的でSWOT分析を行う場合には、機会として以下のような要素が挙げられます。
機会(Opportunity)
・不況による低価格志向
・個食の一般化
・付加価値の高い商品へのニーズの高まり
それぞれの要素を機会に分類した理由は、以下のようになります。
不況による低価格志向 |
低価格なハンバーガーの需要がある |
個食の一般化 |
レストランではなくファストフードが選ばれる可能性 |
付加価値の高い商品へのニーズの高まり |
付加価値の高い商品を顧客獲得の手掛かりにできる可能性 |
4-2. 脅威(Threat)を挙げる
マクドナルドが「顧客を呼び戻し業績を回復させる」という目的でSWOT分析を行う場合には、脅威として以下のような要素が挙げられます。
脅威(Threat)
・競合店との競争激化
・コンビニのコーヒー販売強化
・食の安全性への疑念
・中食・中食ブーム
・健康志向の高まり
それぞれの要素を脅威に分類した理由は、以下のようになります。
競合店との競争激化 |
自社に取り込めるはずの顧客が他店に流れる |
コンビニのコーヒー販売強化 |
自社に取り込めるはずの顧客がコンビニに流れる |
食の安全性への疑念 |
不祥事のあった自社製品が敬遠される |
中食・中食ブーム |
外食する人の減少 |
健康志向の高まり |
ジャンクフードへの需要が減る |
【POINT】 分析の要素を挙げる際には、「どんなに小さなものでも漏れなく」が基本です。 実際の作業としては、思いつくものをとにかく全て書き出し、似ているものをカテゴリー化することでまとめていきましょう。 |
【外部環境の要素を把握するのに効果的なフレームワーク】 外部環境の要素が今一つ明確にならないという場合や、要素の漏れがないか気になるという場合には、以下のようなフレームワークを活用してみるのがおすすめです。 ①PEST分析 ②ファイブフォース分析 ・業界内での競争 |
5.【STEP4】内部環境(強み・弱み)の要素を挙げる
外部環境の要素を挙げる作業を終えたら、続いて内部環境の要素を挙げていきましょう。
マクドナルドの場合には、以下のような内容になります。
・商品やサービスの内容と質
・店舗や設備の状況
・経営状況
・運営の特徴
・販売実績の内訳
・顧客からの評価
5-1. 強み(Strength)を挙げる
マクドナルドが「顧客を呼び戻し業績を回復させる」という目的でSWOT分析を行う場合には、強みとして以下のような要素が挙げられます。
強み(Strength)
・ファストフード店の中で日本一を誇る店舗数と立地のよさ
・商品開発力
・低価格
・キッズ&ファミリー層の支持が厚い
・マニュアル整備による効率的な店舗運営
それぞれの要素を強みに分類した理由は、以下のようになります。
店舗数と立地のよさ |
顧客を呼び込むハード面での戦力は十分にある |
商品開発力 |
顧客を呼び戻す起爆剤となる新商品を開発することができる |
低価格 |
不況による低価格志向に応えられる |
キッズ&ファミリー層の支持 |
一定の固定客を確保できている |
効率的な店舗運営 |
店舗運営にかかる資源を最小化し、他に回せる |
5-2. 弱み(Weakness)を挙げる
マクドナルドが「顧客を呼び戻し業績を回復させる」という目的でSWOT分析を行う場合には、弱みとして以下のような要素が挙げられます。
弱み(Weakness)
・単価が低いために利幅が少ない
・低品質だというマイナスイメージ
・企業が巨大であるが故に統率が困難
それぞれの要素を弱みに分類した理由は、以下のようになります。
単価が低いために利幅が少ない |
業績回復のためには膨大な個数を売り上げる必要がある |
低品質だというマイナスイメージ |
品質への不安と相まって顧客離れを加速させる可能性 |
企業が巨大であるが故に統率が困難 |
一丸となって目標達成へ向かうことが難しい可能性 |
【POINT】 分析の要素を挙げる際には、「どんなに小さなものでも漏れなく」が基本です。 実際の作業としては、思いつくものをとにかく全て書き出し、似ているものをカテゴリー化することでまとめていきましょう。 |
【内部環境の要素を把握するのに効果的なフレームワーク】 分析対象が商品やサービスであり、内部環境の要素が適切に挙げられているか自信がないという場合には、「4P分析」というフレームワークを活用してみるのがおすすめです。 4P分析とはProduct(商品・サービス)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(販売促進)の4つの観点から自社の商品やサービスについて分析する方法であり、これによって他社とは異なる独自の強み・弱みを発見することができます。 |
ここまでの経過を経て、マクドナルドのSWOT分析の結果は以下の図のようになります。
この結果から、「低価格路線へのニーズは依然として続いており、それに対応する強みは十分だといえるが、品質への信頼回復を軸とするブランドイメージの向上と競合店への対策を講じなければ、業績の回復は難しい状況にある」ということがわかります。
このように現状と課題を把握できたところで、ではどうすればよいのかという戦略を見出すためのSWOTクロス分析に進んでいきます。
6.【STEP5】クロス分析を行う
SWOT分析で得た各要因の内容をかけ合わせて、クロス分析を行っていきましょう。
各要素を見比べて、互いに影響し合う組み合わせを見出していきます。
その際には以下のように、「内部環境(強み・弱み)×外部環境(機会・脅威)」という縦軸でのかけ合わせを行います。
つまり、以下の視点で分析を行っていくということになります。
・強み×機会:強みを成長機会に活かすためにはどうすべきか
・弱み×機会:機会を活かすために弱みを補強する方法としては何があるか
・強み×脅威:脅威を切り抜けるためには強みをどのように活かすべきか
・弱み×脅威:脅威を最小化するためには弱みにどのような対策を講じるべきか
この視点に沿って、マクドナルドが「顧客を呼び戻し業績を回復させる」という目的でSWOTクロス分析を行った場合の結果は、下図のようになります。
6-1. 強み×機会:強みを成長機会に活かすためにはどうすべきか
強み×機会の組み合わせには、「商品開発力×付加価値商品へのニーズ」と「低価格×不況による低価格志向」があります。
そこで、付加価値の高い商品へのニーズという機会をものにするために、商品開発力という強みを活かしてニーズに応える新商品を開発するという戦略が見えてきます。
その新商品が顧客を呼び戻すきっかけになることを狙うというわけです。
低価格志向に全力で対応していくという方法もありますが、これは既存の戦略であり、「顧客を呼び戻し業績を回復させる」という目的に照らすと新商品の開発の方が大きな効果を生みそうなので、上記の結論になりました。
6-2. 弱み×機会:機会を活かすために弱みを補強する方法としては何があるか
弱み×機会の組み合わせには、「利幅が少ない×不況による低価格志向」があります。
継続する低価格志向という機会を活かしつつ、その中でも一定の利益を上げられるように、利幅が少ないという弱みを客の回転率を上げるという方法で補強するのが効果的だと考えられます。
そのために、中食・内食ブームにおいてニーズが高いテイクアウトやデリバリーなどの販売方法を導入し、販売機会を増やしていきます。
6-3. 強み×脅威:脅威を切り抜けるためには強みをどのように活かすべきか
強み×脅威の組み合わせには、「店舗数と立地の良さ×競合店との競争激化・コンビニのコーヒー強化」があります。
そこで、安価な食事やコーヒーを提供する競合店との競争激化という脅威を切り抜けるために、立地のよい店舗を多く構えているという強みを活かして、他と差別化できるような新しいテーマの店舗へと改修することを検討します。
その独自性と生まれ変わり感を武器に、顧客に選ばれることを目指します。
6-4. 弱み×脅威:脅威を最小化するためには弱みにどのような対策を講じるべきか
弱み×脅威の組み合わせには、「低品質なイメージ×食の安全性への疑念・健康志向の高まり」があります。
安全性への疑念や健康志向ブームという脅威を最小化するために、それに追い打ちをかける低品質なイメージという弱みへの対策を講じるのが効果的だと考えられます。
品質への安心とブランドイメージの回復を図り、これ以上の顧客離れに歯止めをかけると同時に信頼を取り戻していきます。
このような戦略を、最後のSTEPで具体的な計画に落とし込んでいくのです。
7.【STEP6】目的に応じた結論を導き出す
SWOTクロス分析が済んだら、その結果が目的と合致していることを確認し、見出した戦略から行動レベルの具体策を考えましょう。
「SWOT分析をした」というだけでは何も変わりませんので、今後のプランを具体的に策定するというこのSTEPまでをしっかりと行ってください。
マクドナルドの場合には、SWOT分析で見出された以下の戦略が、分析目的である「顧客を呼び戻し業績を回復させる」ということにつながっているかどうかを確認します。
・商品開発力を活かして付加価値の高い新商品を発売する |
どの戦略も、成功すれば来客と売上の増加につながりそうなので、分析目的に見合った結果を得られたと判断できます。
そこで具体策を決めていくのですが、マクドナルドは実際に以下の具体策を講じ、過去最大の赤字からの回復を果たしました。
戦略 |
具体策 |
商品開発力を活かして付加価値の高い新商品を発売する |
「限定」「復刻」といった付加価値の高い商品を定期的に新発売 |
ニーズに即した販売方法で回転率を上げる |
マックデリバリー・テイクアウトを簡便化するモバイルオーダーシステムの導入 |
利便性の高い店舗を低価格路線とは一線を画したものに改修する |
利便性の高い場所を中心に、バリスタの淹れる高品質なコーヒーを楽しめるマックカフェを展開 |
品質・イメージともに良質であることをアピールする |
材料の原産国や加工工場を公開して品質に対する安心を提供するとともに、ブランドイメージを向上させるために有名芸能人をCMに起用 |
8.【事例集】各業種におけるSWOT分析の具体例
SWOT分析の具体的なSTEPについて理解できたところで、各業種における事例を確認してみましょう。
ご自分のケースに近いものを参考にしていただくことで、SWOT分析のやり方についてより詳細なイメージが湧くはずです。
この章では、以下の業種におけるSWOT分析の各要素とクロス分析の結果について解説します。
・製造業
・小売業
・飲食業
・医療福祉業
・個人
8-1. 製造業
製造業で「手堅い販路を確保する」ことを目的にSWOT分析を行う場合は、以下のような要素が挙げられます。
外部環境(機会・脅威)
・市場の状況
・製品に対するニーズ
・競合企業の動き
内部環境(強み・弱み)
・製品の質や価格
・製造ラインの状況
・営業販売ルート
・顧客満足度
これを踏まえた一例として、以下のような結果が得られるでしょう。
製造に時間はかかるが高品質で、細かなニーズにも対応できる製品を作っているというケースです。
その一方で、販路が限定的であることや、速くて安いことを売りにする競合がいるという状況があります。
SWOTクロス分析の結果から、以下のように考えられます。
強み×機会
高品質なモノへのニーズに応えるオーダーメイドの製品を販売する。
弱み×機会
オンライン市場へ参入することで販路を拡大する。
強み×脅威
速くて安いという競合に対しては同じ土俵に上がらず、あくまでも高品質でニーズにぴったりと合った製品を作るというブランドイメージを醸成する。
弱み×脅威
競合との競争の中でも確実に顧客を掴んでいけるよう、時間とコストがかかるという弱みを受け入れてくれるファンを増やしてリピート化を狙う。
8-2. 小売業
小売業で「来客数を増やす」ことを目的にSWOT分析を行う場合は、以下のような要素が挙げられます。
外部環境(機会・脅威)
・市場の状況
・商品に対するニーズ
・競合する店や商品の動き
内部環境(強み・弱み)
・商品の品質や価格、種類
・客層
・営業販売の状況
・ブランド力
例えば小さなスーパーを例にすると、以下のような結果が得られるでしょう。
産地直送の新鮮な野菜の販売と長年通ってくれる固定客を強みとしているケースです。
その一方で、大手スーパーや低価格志向という脅威に晒されており、総菜の販売や配達による顧客ニーズへの対応が十分ではないという状況があります。
SWOTクロス分析の結果から、以下のように考えられます。
強み×機会
健康志向に応えて有機野菜の販売をメイン事業に据える。
弱み×機会
地域住民の高齢化への対応として、高齢者向けの惣菜や配達サービスを導入する。
強み×脅威
品揃えが多く安価な大手スーパーという競合に対しては同じ土俵に上がらず、少量・希少といった得意客のニーズにぴったりと合う商品の提供を目指す。
弱み×脅威
競合との競争の中でも確実に顧客を掴んでいけるよう、ITリテラシーが低いという弱みを補強してSNS集客で健康志向のファンを増やすことを狙う。
8-3. 飲食業
飲食業で「売上を伸ばす」ことを目的にSWOT分析を行う場合は、以下のような要素が挙げられます。
外部環境(機会・脅威)
・市場の状況
・食に対する社会情勢
・顧客候補
・競合店の動き
内部環境(強み・弱み)
・立地
・メニューの質や価格
・営業の仕方(日時やサービスタイムなど)
・客層
・知名度
・ホスピタリティ
これを踏まえた一例として、以下のような結果が得られるでしょう。
駅に近い店舗で低価格・豊富なメニューを提供し、アイドルタイムにも休まず営業するという使い勝手のよさを強みとしているケースです。
その一方で、立地上多数の競合店に囲まれ、リピーターの獲得に苦慮しているという状況があります。
SWOTクロス分析の結果から、以下のように考えられます。
強み×機会
新しく建設される近隣マンションという大きな顧客候補に対して強みをアピールし、認知度を上げていく。
弱み×機会
顧客候補に対して、テイクアウトサービスを開始する・スタッフ教育やクーポン配布などによってホスピタリティを強化することで、リピーターが少ないという弱みを克服する。
強み×脅威
数多い競合店に対しては、他店では営業を休止するケースが多いアイドルタイムにおいて、限定メニューなどの付加価値を提供して差別化を図る。
弱み×脅威
競合との競争や原材料価格の高騰という状況の中でも安定的に経営していけるように、看板メニューを開発してそれ以外は廃止するという方法で弱みを補強し、ファンを掴むと同時にコストを抑える。
8-4. 医療福祉業
医療福祉業で「利用者の満足度を上げる」ことを目的にSWOT分析を行う場合は、以下のような要素が挙げられます。
外部環境(機会・脅威)
・対象者の特徴
・医療福祉へのニーズ
・法改正
・競合施設の動き
内部環境(強み・弱み)
・施設の機能
・スタッフの質
・運営状況
・知名度
例えば病院を例にすると、以下のような結果が得られるでしょう。
専門性の高いスタッフを備えた地域の拠点病院であり、在宅ケアの推進においても重要な機能を担うことを強みとしているケースです。
その一方で、病床が有効活用できず、スタッフの定着率が低いという中で、競合病院とどう渡り合っていくかという状況にあります。
SWOTクロス分析の結果から、以下のように考えられます。
強み×機会
健診ニーズの高まりに応え、がんへの知識と経験が豊富だという強みを活かして健診・人間ドックを拡充していく。
弱み×機会
高齢社会・地域包括ケアの推進への対応として、現状うまく稼働していない病床を地域包括ケア病床へ転換する。
強み×脅威
競合病院との競争に対しては介護施設との連携を強化することで病院から在宅までの道筋を一本化できるという差別化を図る。
弱み×脅威
口減少と競合病院との競争の中でも患者満足度の高い医療を提供できるよう、優秀な人材を雇用し定着率を上げるためのプランを実行する。
8-5. 個人
SWOT分析では、分析対象を個人にすることもできます。
例えば「自分に合う就職先を選ぶ」ことを目的に自己分析する場合、以下のような要素が挙げられます。
外部環境(機会・脅威)
・就活市場の動向
・社会情勢
・労働環境
内部環境(強み・弱み)
・考え方
・行動様式
・知識・経験・スキル
これを踏まえた一例として、以下のような結果が得られるでしょう。
アグレッシブな性質とプログラミングのスキルを持っているという強み、個人主義で協調性に乏しいという弱みを持っているケースです。
従来式の安定感のある働き方に陰りが見え、不安定ながらも自由な働き方が勢力を増してきている中で、どのような企業に就職すべきかという状況にあります。
SWOTクロス分析の結果から、以下のように考えられます。
強み×機会
好奇心とチャレンジ精神を活かして新しい事業を展開する企業、かつプログラミングという個人スキルを評価してくれる企業を選ぶ。
弱み×機会
リモートワークの普及と副業の解禁をしている企業を選び、個人作業を多くすることで、協調性に乏しいという弱みを補強する。
強み×脅威
不安定な雇用状況という脅威に対しては、好奇心を活かしてスキルアップできる企業を選んで転職に備える。
弱み×脅威
飽き性という弱みを突かれるようなルーティンワークを繰り返す仕事は選ばないことで、不安定な雇用状況の中でも勤続することを目指す。
9. SWOT分析の質を上げるコツ
最後に、SWOT分析の質を上げるためのコツについて確認しておきましょう。
SWOT分析をより効果的に行うためには、以下のような点に配慮することをおすすめします。
それぞれの内容について、解説していきます。
9-1. 幅広い立場のメンバーを集める
SWOT分析を行うメンバーを決める際には、年齢や役割・部門の違う人を複数選ぶようにしましょう。
幅広い立場のメンバーを集めることによって、分析の客観性を確保し多様な戦略を見出すことが可能になります。
なぜなら、同じ立場のメンバーだけで議論すると、情報の解釈が単調になったり、アイデアに偏りが出る可能性があるからです。
一方で、物事の捉え方や考え方が違う複数のメンバーで議論すると、広い視野で多角的に分析を進められます。
9-2. メンバー間で議論の方向性を共通認識する
SWOT分析を行うにあたっては、何を目的にしているのかをメンバー間で共通認識し、議論の最中も方向性にブレがないかを適宜確認しながら進めましょう。
SWOT分析では多くの情報を扱うため、議論が進むにつれて混乱が生じたり、立場の違うメンバー同士の解釈が一致しないという現象が起こり得ます。
そのまま分析を進めてしまうと、本来の目的に対して的外れな結果になってしまう可能性もあるため、メンバー全員が議論の方向性を見失わないようにするということが大切なのです。
9-3.「強み×機会」を分析の軸にする
SWOTクロス分析では4つの側面から戦略を見出しますが、最も効果的なのは「強み×機会」だということを認識しておきましょう。
機会に対して既に手中にある強みを振るうということは、目的達成という観点からみて最強かつ最速の戦略なのです。
そのため、「強み×機会」を分析の軸として、それとの関係性を意識しながら他の戦略を検討すると、効果的でバランスのよい結果が得られます。
9-4. SWOTのテンプレートにはまらなかったアイデアもメモしておく
これは分析の質を高めるというよりも効果的な戦略を実行するという点で大切なことなのですが、SWOT分析の4つの側面にうまく分類できずテンプレート上には書かれなかったアイデアも、メモで残しておきましょう。
これは、SWOT分析が全てではないという視点も持ち合わせておいてほしいということです。
SWOT分析はとても有効なフレームワークですが、全ての要素を4つの側面のどこかに分類する必要があり、グレーが許されないという欠点もあります。
そのため、SWOT分析の結果以外は意味がないと思ってしまうと、議論の最中に生まれた素晴らしいアイデアが、枠にはまらなかったという理由で亡きものになってしまうかもしれないのです。
「これは使えるかも」ということは、SWOT分析とは別にまとめておくことをおすすめします。
10. まとめ
この記事では、SWOT分析を成功させるための6ステップについて、マクドナルドの事例を用いて具体的に解説しました。
以下の結論に至った手順について、何をどのようにしたのかということを解説しています。
また、以下の業種におけるSWOT分析の事例をご紹介しました。
・製造業
・小売業
・飲食業
・医療福祉業
・個人
そして、SWOT分析の質を上げるためのコツとして、以下の内容についても解説しました。
SWOT分析は、現状を把握して課題や戦略を見出すのにとても効果的なフレームワークです。
この記事を参考にすることでやり方の具体的なイメージを掴み、ぜひ有効活用していきましょう。