小規模宅地等の特例に関する「相続開始前3年要件」について

小規模宅地等の特例のうち、特定事業用宅地等は80%、貸付事業用宅地等50%の相続税評価額を減額できる制度です。
各制度には特例を適用する際の要件がありますが、昨今の税制改正により、相続開始前3年以内に新に事業用として利用した土地は、特例適用の対象外とする要件が追加されました。
本記事では、「相続開始前3年以内」の要件および、例外規定について解説します。

小規模宅地等の特例に「相続開始前3年以内」の要件が追加された経緯

土地の相続税評価額は、数百万円から数千万円になることも珍しくありません。
預金が少ない相続の場合、不動産を処分しないと相続税が納められないケースがあり、不動産を売るために事業を廃止せざるを得ないケースもあります。

小規模宅地等の特例は、そのような相続税の支払いのための事業廃止を防ぐために創設された特例です。

節税効果が絶大であるが故に、ルールの抜け道を利用するケースが目立ち始めました。
たとえば相続開始直前において、相続財産の現金を不動産に変更し、貸付用として利用すれば、貸付事業用宅地等の制度を利用する、などです。

そのため国税庁は、本来の目的通りに小規模宅地等の特例を利用してもらうため、節税目的のためだけに事業用として、利用している土地を特例から除外することとしました。
その除外規定が、これからご説明する「相続開始前3年以内」の要件です。

特定事業用宅地等の相続開始前3年以内の要件

特定事業用宅地等とは、被相続人等が事業用の敷地として利用していた土地が対象となる特例です。
被相続人等の事業を承継した相続人が適用できる制度であり、400㎡までの土地の相続税評価額が80%減額できます。

相続開始前3年以内の要件とは

特定事業用宅地等を適用する場合、相続開始前3年以内に新たに事業用として利用した土地は特例の対象外となります。
そのため相続開始直前に被相続人が始めた事業を承継しても、特定事業用宅地等は適用できません。
なお相続開始前3年以内の要件は、平成31年4月1日以後に発生した相続から対象となります。
したがって平成31年3月31日以前に発生した相続の場合、相続開始前3年以内の要件はありません。

3 貸付事業用宅地等の相続開始前3年内の要件

貸付事業用宅地等とは、アパートなど貸付事業用として利用していた土地に対して適用できる特例です。
被相続人から貸付業を承継した相続人が適用できる制度であり、200㎡までの土地の相続税評価額が50%減額できます。

相続開始3年以内の貸付要件とは

相続開始前3年以内に、新たに貸付事業用として利用した土地は、貸付事業用宅地等の対象外となります。
そのため空き家の敷地や、未利用の土地を相続開始直前に貸付用として使っていた場合でも、貸付事業用宅地等は適用できません。

相続開始前3年以内の要件の経過措置

相続開始前3年以内の要件は、平成30年度および平成31年度の税制改正により追加されたため、経過措置が設けられています。
経過措置の期間内に事業用として利用していた場合には、相続開始前3年内の要件を満たす必要はありません。
なお特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等では、経過措置の期間が異なりますので、ご注意ください。

特定事業用宅地等の経過措置

平成31年4月1日から令和4年3月31日までの相続により取得した宅地等のうち、平成31年3月31日までに事業用として利用していた土地については、相続開始前3年以内の事業用の土地に該当しないもの(要件の除外)とします。

貸付事業用宅地等の経過措置

平成30年4月1日から令和3年3月31日までの相続により取得した宅地等のうち、平成30年3月31日までに貸付事業用として利用していた土地については、相続開始前3年以内の貸付用の土地に該当しないもの(要件の除外)とします。

相続開始前3年以内の要件のまとめ

小規模宅地等の特例を適用する場合、相続開始前3年以内の要件を判断する際には、以下の点に注意してください。

相続開始前3年以内の要件のポイント

  • 特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等が対象
  • 相続開始前3年以内に新たに始めた事業は原則特例の対象外
  • 例外規定や経過措置が存在する

小規模宅地等の特例は、相続税の中でも節税効果が高いため、可能な限り利用したい制度です。
ただ小規模宅地等の特例は、相続開始前3年内の要件以外の適用要件の確認や、添付書類を揃える必要があります。
そのため確実に特例を適用する場合には、相続税専門の税理士事務所に相談することをオススメします。