この土地、小規模宅地の特例使えるの?① 「特定居住用宅地等」とは。

小規模宅地等の特例は、土地の相続税評価額が最大80%減額される特例制度です。
特例対象となる土地の種類は複数ありますが、被相続人(亡くなった人)等の自宅の敷地に適用できるのが『特定居住用宅地等』です。
本記事では、特定居住用宅地等の要件の一つである「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲」(租通69の4-7)についてご説明します。

特定居住用宅地等とは

特定居住用宅地等は、相続開始の直前まで被相続人等が住まいとして利用していた土地に対して適用できる小規模宅地等の特例です。
特定居住用宅地等は、土地を取得する相続人によって要件が異なり、配偶者は取得するだけで特例が適用できます。
一方同居親族は、相続税の申告期限まで居住および所有している必要があり、同居していない親族(家なき子)については、例外的に特例が適用できるケースもあります。

被相続人「等」と宅地「等」について

特定居住用宅地等の対象となる土地は、被相続人の所有物件ですが、実際に住んでいる人は被相続人「等」、土地の種類も宅地「等」となっています。
そのため、各「等」に該当する範囲ついてご説明します。

被相続人「等」の範囲

被相続人等の範囲は、「被相続人」と「被相続人と生計を一にしていた親族」です。
「生計を一」とは、日常生活をする上での生活費を共にしている(生活の財布が一緒)ことをいいます。
たとえば転勤で単身赴任の場合や、療養により別居している場合でも、別々に住んでいる家族と同じ財布から生活費を支出している場合には、「生計を一」に該当します。

宅地「等」の範囲

小規模宅地等の特例の対象になる宅地等は、土地の所有権以外に、借地権も該当します。
借地権とは、建物を建てる目的で土地所有者に金銭を支払って取得する、土地を借りる権利です。
また借地権は不動産登記上には現れないため、地主との契約書で権利関係を確認する必要があります。

一方「宅地」とは土地の地目の一つであり、地目は9種類あります。

土地の地目

  • 宅地
  • 山林
  • 原野
  • 牧場
  • 池沼
  • 鉱泉地
  • 雑種地

小規模宅地等の特例に、土地の地目の制限はありませんが、建物を建てる際の土地の地目は宅地です。
そのため特定居住用宅地等を適用する際の宅地等の範囲は、基本的に宅地のみと考えてください。

特定居住用宅地等の対象となる土地の範囲

特定居住用宅地等の対象となる土地は、土地・建物の所有者や居住者によって適用の可否が変わります。
また親族が所有者の場合には、家賃等の支払いの有無も特例適用に影響するため、特例適用対象となる物件について、ケースごとにご説明します。

被相続人名義の土地・建物に被相続人が住んでいた場合

相続開始の直前まで、被相続人が自己所有の建物に住んでいた場合、その家屋の敷地として利用していた土地は、特定居住用宅地等の適用対象です。
なお対象物件を取得する相続人の要件は別途ありますので、ご注意ください。
(以降のケースも同様)

被相続人と生計を一にしていた親族が住まいとして利用していた場合

被相続人と生計を一にする親族が、対象物件を住まいとして利用していた場合、被相続人から無償で借りていた際は特定居住用宅地等の適用対象となります。
そのため居住していた親族が物件所有者の被相続人に対し、家賃等を支払っている際は無償ではなく有償となりますので、特例は適用できません。

被相続人の親族が所有している建物に被相続人等が住んでいた場合

土地は被相続人、建物は被相続人の親族が所有していた場合、以下の要件を満たす必要があります。

  • 建物を所有している親族は、地代を支払っていない(無償)
  • 建物に住んでいる被相続人等は、家賃を支払っていない(無償)

一般的に土地と建物所有者が異なる場合には、建物所有者は土地所有者に対して地代を支払います。
一方、建物所有者と建物を利用している人が異なる場合は、家賃を支払うのが一般的です。
しかし親族間の場合には、無償で貸している(借りている)こともあり、無償で物件を貸し借りしている際は、特定居住用宅地等の適用が可能となります。

3-4 被相続人が老人ホームに入居した場合

特定居住用宅地等は原則として、相続が開始する直前まで住まいとして利用していることが要件で、別物件に転居した際には特例は適用できません。
しかし被相続人が自宅から転居した先が老人ホームであり、入居後に相続が開始した際には特例が適用できます。
なお建物所有者が被相続人の親族であった場合には、下記の2点を満たす必要があります。

  • 建物を所有している親族は地代を支払っていない(無償)
  • 建物に住んでいる被相続人等は、家賃を支払っていない(無償)

また被相続人が老人ホームに入居後、その物件を事業用として利用したり、被相続人等以外の新たな人の住まいとして利用した際には、特定居住用宅地等は適用できません。

特定居住用宅地等の対象となるのは住まいとして利用していた部分のみ

特定居住用宅地等の対象となる土地は、住まいとして利用していた部分のみです。
たとえば店舗兼住宅など、被相続人等の居住用と事業用として建物を利用している場合には、事業用部分に特定居住用宅地等は適用できません
(事業用部分が、他の小規模宅地等の特例の要件を満たしている場合には、併用適用可能。)
なお二世帯住宅の場合、区分登記がされていない建物に居住していたケースであれば、親族が住んでいた居住スペースも特定居住用宅地等の適用対象となります。

特定居住用宅地等を適用する場合のまとめ

特定居住用宅地等を適用する際は、以下の点に注意してください。

  • 誰が相続するか
  • 対象物件に誰が住んでいたか
  • 建物は誰の名義だったか
  • 親族間で家賃等の支払いはあったか

小規模宅地等の特例は、相続税評価額が最大80%減額可能な特例です。
土地の相続税評価額は1千万円以上の価値があることは珍しく、特例が適用できるかどうかで、相続税の納税額が数百万円単位で変わることもあります。
そのため特例の要件や、申告手続きを間違えた際のリスクは大きいため、小規模宅地等の特例などの相続税の特例制度を利用する際は、一度相続税専門の税理士事務所に相談してください。