相続人に認知症患者や未成年者がいる場合は?

遺産の分割について相続人同士で協議した結果は、一般に遺産分割協議書としてまとめられ、これにもとづき相続登記などを行うことになります。
しかし、法定相続人の中に認知症や未成年の者がいる場合、正当な手続に従って遺産分割協議を行わないと、遺産分割協議そのものが無効となったり、取り消されたりする原因ともなります。

そこで、以下では、有効に遺産分割の手続を行うためのポイントを紹介したいと思います。

未成年がいる場合

未成年者が遺産分割協議などの法律行為を有効に行うためには法定代理人の同意が必要となります。
法定代理人は一般的には親ということになりますが、相続の場合にはその親も共同相続人となっている場合が多いといえます。

たとえば、夫のAさんが亡くなり、妻Bさんと未成年者の子どもCさんが相続人となっている場合、妻Bさんが子どもCさんの法定代理人として遺産分割の協議を行うと、子どもCさんには財産をまったく相続させないで、Bさんが自分で遺産を独占してしまう可能性もあります。

このような状態は「利益相反」と呼ばれ、有効に代理行為を行えないのが私法の基本ルールなのです。
特に、相続に関して利益相反が生じる場合には、未成年者のために「特別代理人」を選任しなければならないことが定められています(民法826条1項)。

この特別代理人は、親などの親権者や利害関係人が家庭裁判所に申し立てることにより選任してもらうことになります。

認知症と成年後見制度

相続人の中に認知症や精神障害があるため正常な判断能力を欠く者がいる場合にも代理人が必要となります。

民法では、認知症の人などの権利を保護するために成年後見制度が定められており、通常は「成年後見人」が財産管理や身上監護を行うことになっています。

成年後見人には、認知症になる前に本人が選任した「任意後見人」と家庭裁判所が選任した「法定後見人」がありますが、いずれの場合も司法書士や税理士などの専門家のほか、親族が成年後見人となっていることも少なくありません。

つまり、認知症の人とともに成年後見人が共同相続人となっているケースも意外と多いのです。このようなケースでは、成年後見人を監督する立場にある「後見監督人」が遺産分割に参加することが考えられます。

ただし、後見監督人が選任されていない場合には、やはり家庭裁判所で「特別代理人」を選任してもらう必要があります。

対策として遺言や信託を検討

家庭裁判所で特別代理人を選任してもらう手続には数週間の時間を要するばかりでなく、もし、申立を司法書士などの専門家に依頼するとそれなりの費用もかかります。
そのため、遺産分割協議で特別代理人が必要とならないように、あらかじめ遺言や信託を活用して対策しておくことも有用です。

遺言をうまく活用すれば、相続時のトラブルを未然に防止するだけでなく、被相続人の意思をより尊重できるというメリットもあります。
また、民事信託を設定することで、被相続人が亡くなったあとも、認知症の人が介護施設などでサービスが受けたり、未成年者が成人するまでの生活費を定期的に受け取ったりできるよう受託者に資金管理などを委託することも可能です。

以上のような対策は早めに講じておくことが大切です。対策の方法にもさまざまなバリエーションがありますので、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。