退職金を相続したときの税金について

平成30年の厚生労働省の就労条件総合調査の結果によると、退職金制度のある企業のうち、平成29年1年間における勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者(大卒・大学院卒(管理・事務・技術職))の平均退職金は、1,983万円でした。

厚生労働省HP:平成30年就労条件総合調査 結果の概要「退職給付(一時金・年金)の支給実態 」より

多くの企業に導入されている退職金制度ですが、もし家族の退職金を遺族としてご自身が相続した場合、どのように税金が課されるのでしょうか。

この記事では、被相続人の退職金を受け取った時の税金について解説します。

「死亡退職金」と「生前退職金」の違い

退職金を相続すると聞けば、多くは、被相続人が生前のうちに退職金を受け取って、そのうち使いきれなかったものを他の財産と一緒に相続するケースを思い浮かべるのではないでしょうか。

しかし残念ながら、退職金を生前に受け取ることなく亡くなってしまう方もいます。
その場合、勤め先の退職給与規程などによっては、勤め先がその遺族に、被相続人が受け取るはずだった退職金を「死亡退職金」として支給することがあります。

生前に被相続人が受け取っている「生前退職金」は、民法上の「本来の相続財産」にあたりますが、亡くなってから遺族が受け取る「死亡退職金」は、これにあたりません。
しかし一定の「死亡退職金」は、税法上の「みなし相続財産」にあたります。

「本来の相続財産」と「みなし相続財産」の考え方

相続とは、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することをいいます。(民法第896条)
このことから、本来の意味の相続財産は、被相続人が生前から持っている「被相続人の固有の財産」のことです。

たとえば生前退職金の一部を使いきれないまま亡くなった場合、その残金は、「本来の相続財産」の一部となり、当然、相続税の課税対象にもなります。

ところが死亡退職金とは、被相続人が亡くなった後に支払いが確定する財産です。
したがって、被相続人の固有の財産とはいえず、受け取った「遺族」の固有の財産として扱われます。

つまり、死亡退職金は本来の相続財産ではありません。

しかし、形式的には遺族の財産だとしても、元を正せば被相続人が長年働いたことにより支給されるお金ですから、実質的には被相続人が形成した財産になります。
そこで税法では、この経済的価値から課税の公平という観点に基づき、死後3年以内に支給額が確定した死亡退職金「みなし相続財産」として相続税の課税対象としているのです。

みなし相続財産にあたる死亡退職金とは

みなし相続財産となる死亡退職金は、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものです。
(国税庁HP:相続税法第3条第1項第2号

退職金という名称にかかわらず、功労金や、それに準じる一時金や年金、金銭でない品も死亡退職金に該当します。
3年ですから、死亡退職金のほとんどがみなし相続財産になると考えてよいでしょう。

ちなみに「死亡後3年以内」とは、死亡退職金の金額が「確定した時」が基準になります。
したがって、支給される日が3年以内である必要はないのですが、逆に金額が確定していなければ支給することだけが3年以内に決まっていても、みなし相続財産にはなりません。(相続税法基本通達3-30)

なお、生前の退職であっても、その死亡前に支給額が確定せず、死亡後3年以内に退職金の支給額が確定した場合は、みなし相続財産になります。(相続税法基本通達3-31)

遺産分割や特別受益とは別問題

「みなし相続財産」とは、相続税を計算する際に相続財産とみなして課税するという、税法独自のルールです。
よくある疑問として、みなし相続財産が遺産分割の対象になるか、特別受益にあたるのかといったものがありますが、これらはすべて民法上の相続のルールで検討する必要がありますので、税法上のみなし相続財産とは別問題として考える必要があります。
(みなし相続財産でも遺産分割の対象になることはありますし、金額等によっては特別受益にあたる可能性があります)

退職金を相続したときの税金の違い

被相続人の退職金を相続したときにかかる税金は、それが生前退職金と死亡退職金であるかどうか、また死亡退職金がみなし相続財産であるかどうかで次のように整理できます。

退職金の区分生前退職金死亡退職金
本来の相続財産みなし相続財産
(死亡後3年以内に確定)
みなし相続財産でない
(死亡後3年以内に確定しなかった)
遺族が負担する税金相続税相続税
(非課税額あり)
所得税
(一時所得)

相続税は死亡退職金(みなし相続財産)の方が低い

生前退職金と死亡退職金(みなし相続財産)にはいずれも相続税がかかりますが、死亡退職金(みなし相続財産)は一定額まで非課税で受け取ることができる分、生前退職金よりも税負担は低くなるというメリットがあります。
死亡退職金(みなし相続財産)の非課税限度額は、「500万円×法定相続人の数」です。
死亡退職金の非課税額や、誰にいくらまで適用できるかといった具体的な計算例は、こちらの記事で解説しています。

なお、この違いを利用して、会社経営者の方は、役員退職金の支給時期で相続税を節税するといった方法が理論上は可能となります。
しかしこればかりは、ご自身がどのように老後を過ごされるかを中心に考えるべきことですから、あくまで理論上の話です。

みなし相続財産でない死亡退職金は所得税の対象に

死亡退職金であっても、みなし相続財産にならない死亡退職金(死亡後3年以内に支給額が確定しなかったもの)は、相続税の対象ではなく、遺族の個人所得として「所得税」の対象になります。

通常、退職金を受け取ったときは「退職所得」という所得区分に該当し、税負担がかなり抑えられるようになっていますが、死亡退職金はこの扱いになりません。
死亡退職金のうち、みなし相続財産にあたらないものは、「一時所得」に該当し、「退職所得」よりも税負担は重くなります。

では相続税と所得税はどちらの税負担が重いのかというと、一概に比べられないのですが、
相続税には高い基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)と、死亡退職金(みなし相続財産)の非課税額(500万円×法定相続人の数)があるため、多くのケースでは所得税の税負担の方が重くなると考えられます。
支給額が確定するまでに3年を超えるケースは稀だと思いますが、たとえば死亡退職金の額について、被相続人の勤め先との交渉や裁判を考えているケースでは、支給額の確定時期に留意する必要があります。

弔慰金とは

被相続人の勤め先から遺族に「弔慰金(ちょういきん)」というものが渡されることがあります。
弔慰金とは、弔いの気持ちで遺族に渡す金品のことですので、退職金とは異なります。

弔慰金は原則、非課税

通常、弔慰金や花綸代、葬祭料、香典といったものは、会社から遺族であれば所得税、個人から遺族であれば贈与税の対象になるかどうかを考えるものとなります。
いずれも社会通念上相当な金額のものについては非課税となりますので、高額でないものは気にする必要はありません。

ただし、受け取った金額が通常考えられるものより高額で、それが被相続人の勤め先からのものであれば「これは実質、死亡退職金ではないのか?」と考えなければなりません。

弔慰金のうち死亡退職金にあたるもの

もし、弔慰金などのうち実質、死亡退職金と認められるものがあれば、その金額は、死亡退職金としてみなし相続財産になります。
しかし実際には、よほど特殊な事情がない限り、弔慰金などとして渡された金銭を区別することは難しいでしょう。
その場合、弔慰金などとして受け取った金額が、以下の金額を超えれば、その超える部分を死亡退職金として扱うルールになっています。

被相続人の死亡が業務上の死亡であるとき

被相続人の死亡当時の普通給与の3年分に相当する額

被相続人の死亡が業務上の死亡でないとき

被相続人の死亡当時の普通給与の半年分に相当する額

普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。

仮に普通給与が50万円であれば、

  • 業務上の死亡の場合は1,800万円まで
  • 業務上の死亡でない場合は300万円まで

は非課税で受け取ることができ、超える部分があれば、死亡退職金としてみなし相続財産の計算に含めることになります。

退職金を相続したときの税金について まとめ

退職金を相続したときの税金は、それが生前退職金か死亡退職金かで、相続税の対象になる金額が変わります。
退職金はとにかく額の大きい財産ですので、税金の計算に誤りがないよう注意が必要です。
特に一定額以上の退職金については、会社から税務署への「法定調書」の提出義務があるため、税務署は誰にいくら支払われたかをほぼ把握しています。

退職金に関する相続税の扱いはご覧のとおり特殊ですので、誤りのないよう、相続専門の税理士にぜひご相談ください。