純資産価額方式の資産の価額を評価する際のポイント

非上場株式の相続税評価額を純資産価額方式で計算する場合、評価会社の課税時期における資産の財産価値を算出しなければなりません。
財産価値の評価方法は評価通達に定められており、相続財産とは違う評価方法を用いるケースもあります。

本記事では資産の価額を計算する際、注意すべき資産の評価について解説します。

純資産価額方式での相続税評価額と帳簿価額の違い

純資産価額方式では、相続税評価額と帳簿価額により評価額を計算する必要があり、同じ財産でも算出された評価額が異なることもあります。

相続税評価額により計算した金額

相続税評価額により計算した金額は、相続税法または評価通達に定める方法によって評価した価額であり、原則は亡くなった人が所有していた相続財産を計算する際の評価方法と同じです。

ただ例外として、課税時期以前3年以内に取得した土地や家屋については、相続財産の評価方法とは別の方法で評価額を算出します。
また繰延資産などの財産価値のない資産は、帳簿価額に計上があった場合でも評価しません。

帳簿価額により計算した金額

純資産価額方式の計算において帳簿価額による金額を算出するのは、「評価差額に対する法人税等相当額」を算定するためです。
資産の帳簿価額が相続税評価額より大きい場合や、最初から評価差額がないことが明らかである場合には、「評価差額に対する法人税額等」は算出されません。

帳簿価額により計算した金額は、税務上の帳簿価額をいいます。

たとえば減価償却超過額のある減価償却資産は、課税時期における帳簿価額に減価償却超過額に相当する金額を加算するなど、税務上で修正する必要がある資産の帳簿価額は、その加算または減算後の価額によります。

また相続税評価額により算出された金額の基礎とされない繰延資産などのうち、財産価値のない資産については、評価の対象とならないため帳簿価額にも計上しません。

評価会社が所有する非上場株式の純資産価額の計算上の注意点

評価会社が非上場会社の株式を所有している場合、所有している株式についても相続税評価額を計算しなければなりません。
基本的な評価方法は、評価会社の非上場株式の計算と同じです。

しかし純資産価額方式により所有する株式を評価する場合、「評価差額に対する法人税額等相当額」は控除しませんのでご注意ください。

法人税の繰戻し還付請求権の扱い

課税時期の直前期に生じた欠損について、繰り戻しするか繰り越すかは法人によって違い、課税時期が評価会社の直前期に係る法人税の申告書の提出前である場合、繰戻しによる還付請求を行うかは未確定です。
そのため課税時期後に繰戻し手続きを選択し、還付金を得たとしても、その還付される法人税額は資産に計上しません。

一方で、課税時期が法人税の申告書の提出期限後であった場合、課税時期時点で繰戻し還付請求と欠損金を繰り越しについて、どちらを選択するかは確定しています。
したがって繰戻し還付請求を選択している場合、還付される法人税額は確定しているため、その金額を資産計上することになります。

課税時期3年以内に取得した土地・建物等

純資産価額方式で土地・建物の相続税評価額を算出する場合、路線価や固定資産税評価額を用いて計算するのが原則です。

しかし評価会社が課税時期以前3年以内に取得した土地・建物については、路線価などではなく、課税時期における「通常の取引価額」に相当する金額を評価額とします。

株式評価を計算する場合においては、路線価や固定資産税評価額だけが時価を算定する唯一の方法ではありません。
課税時期直前に取得した土地・建物であれば、実際に取得した金額(時価)が明らかになっているため、通常の取引価額を用いることとしています。

なお帳簿価額の金額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は、帳簿価額に相当する金額により評価することも可能です。

評価会社が生命保険金等を受領した場合の評価方法

評価会社が被相続人の死亡に対して生命保険金を掛けていた場合、評価会社が取得する生命保険金請求権は保険事故発生により確定します。
そのため生命保険金請求権は、純資産価額の計算上、資産として計上しなければなりません。

また計上する際の生命保険金請求権の金額は、支払いを受ける保険金額であり、相続税評価額と帳簿価額は同額とします。
生命保険金請求権に係る保険料を前払保険料として計上している場合、その前払保険料の金額は資産から除外してください。

なお被相続人への死亡退職手当金を、被相続人に対して掛けていた生命保険金を原資として支払っていた場合、死亡退職手当金は負債計上します。
そして生命保険金から退職手当金を控除した残額は、法人税等が課されることになるため、その法人税等も負債として計上できます。

前払費用の評価方法

前払費用は、提供されていない役務に対し前もって支払った対価をいい、純資産価額方式の計算において前払費用を資産として計上するかは、財産価値の有無で判断します。
たとえば得意先などへ渡すために購入した商品券や旅行券は、換金性があり財産価値を有するものです。
そのため直前期末時点で、評価会社が商品券や旅行券を所有している場合、資産として計上します。

一方で、解約返戻金がない火災保険料を数年分前払いしていた場合、途中で保険を解約したとしても受け取れる返戻金はないため、資産として計上する必要はありません。

前払地代家賃の評価方法

賃貸借契約では、地代や家賃を前月末までに支払うことが一般的で、評価会社が建物を借りていた場合は、先に家賃を支払うことになります。
翌月の途中で退去した場合、家賃を日割計算で精算し、未経過分の家賃が戻ってくることもあります。
そのような場合に発生した前払家賃の未経過相当額は、財産価値を有するとみなされるため、資産として計上しなければなりません。

評価額の算定が難しい場合は税理士に依頼すること

純資産価額方式により非上場株式を評価する場合、資産価値が相続税評価額を左右します。
資産価値を過大に評価すれば、相続税を多く納めることになりますし、過少に評価すれば税務署から指摘を受け、余計な税金(加算税・延滞税)を支払うことになりかねません。
また評価会社の業種や規模によって、所有する財産の種類や資産状況は異なるため、相続人だけで非上場株式を評価するのは難しいです。

ビジョン税理士法人は相続税専門の税理士事務所ですので、非上場株式の評価はもちろんのこと、相続に関する不明点がありましたらお気軽にご相談ください。