ミッション・ビジョン・バリューとは企業の理念や方針を構成する3つの要素で、企業を成長させていく上で非常に重要となる概念です。
それぞれの違いは以下の通りです。
ミッション・ビジョン・バリューの違い
● ミッション:企業が果たすべき不変的な使命・企業の存在理由 ● ビジョン :企業が目指すべき将来の理想の状態・ゴール ● バリュー :ミッションとビジョンを実現するために企業の構成員がとるべき思考や行動の指針 |
3つの関係性は以下の図のようになります。
ミッションは、創業者や経営層が考えている「その企業が果たすべき使命」です。
そしてそのミッションを果たすために目指す「将来の理想の状態・具体的なゴール」が、道の最後に見えるビジョンです。
さらに、そのビジョンを目指す上で企業の構成員に求められる「思考や行動の指針」がバリューとなります。
ミッション・ビジョン・バリューを設定しなくても企業活動を行うことはできますが、そうすると企業の存在理由や向かうべきゴールがはっきりしないため、社員のモチベーションや進む方向をコントロールできずにある程度のところで成長が止まってしまいます。
また社外からの評価も上がらず、売上も思うように伸びなくなってしまうことでしょう。
そこでこの記事では抽象的で少々わかりにくい「ミッション・ビジョン・バリュー」をしっかりと理解して経営活動に活かすため、以下の内容を図も交えながらわかりやすくお伝えしていきます。
● ミッション・ビジョン・バリューとは ● 経営理念・行動指針など類似の単語の意味 ● ミッション・ビジョン・バリューが必要な5つの理由 ● ミッション・ビジョン・バリューを作る4つのメリット |
さらに「実際に自分の会社のミッション・ビジョン・バリューを作りたい」「今のミッション・ビジョン・バリューをより良いものへと作り直したい」と考えている人のために、以下についても紹介します。
● 参考にしたい他社のミッション・ビジョン・バリュー6つの例 ● ミッション・ビジョン・バリューの作り方 ● ミッション・ビジョン・バリューを作る際の3つの注意点 |
この記事を最後までお読みいただくと、ミッション・ビジョン・バリューの概要や重要性をしっかりと理解することができるだけでなく、実際に自社に最適なミッション・ビジョン・バリューをスムーズに作るための方法も知ることができますよ。
どの会社も売上や利益の向上を目標に様々な努力をしていることと思いますが、良いミッション・ビジョン・バリューを持っている会社は社員が一丸となりやすく、スムーズに発展していくことができます。
ミッション・ビジョン・バリューを本質から理解して活用することで、売上や利益を効率よく伸ばすことができる会社を作っていきましょう。
目次
1.ミッション・ビジョン・バリューとは?
ミッション・ビジョン・バリューとは、もともとは著名な経営学者「ピーター・F・ドラッカー」が提唱した考え方で、アウトソーシングできないその企業の根幹を言語化したもののことを指します。企業理念を示す際にこの3つが使われることも多いです。
創業者や経営陣の想いや考え・組織構成員の行動方針などをわかりやすい言葉にして自社の従業員やステークホルダーと共有することで、スムーズな事業拡大・成長に役立てることができます。
ここでは、よく例え話として使われる「桃太郎」を例にあげて、ミッション・ビジョン・バリューそれぞれの言葉の意味を解説していきます。
1-1.ミッションとは
ミッションとは冒頭でもお伝えした通り「企業が果たすべき不変的な使命・企業の存在理由」のことをいいます。
● ミッション:企業が果たすべき不変的な使命・企業の存在理由 |
「自分の会社はなぜ存在しているのか?」「社会に対してどう貢献するのか?」をわかりやすく言葉にしたもので、短期間のうちにコロコロと変わるものではなく、基本的にはずっと変わらない企業の価値観を示します。
それでは桃太郎の場合のミッションはどのようになるでしょうか?
桃太郎のミッション(=果たすべき不変的な使命・存在理由)は、「村の平和を守る」ことです。
ここでもしかしたら、「桃太郎のミッションは”鬼を退治すること”ではないのか?」と疑問に思った人もいるかもしれません。
しかし、”鬼を退治すること”は「村の平和を守る」という「使命」のために実行すべきタスクのひとつでしかありません。
桃太郎のミッション(不変的な使命)はあくまでも村の平和を守ることで、鬼を退治することはそのために遂行すべき一時的な目的でしかありません。鬼を退治した後、もし他に村の平和を脅かすものがあらわれれば今度はその問題解決を行うことになりますので、鬼退治はミッションにはならないのです。
また、ミッション・ビジョン・バリューは、「5W1H」に例えられることもあります。「5W1H」に当てはめるとミッションはWhy。なぜやるのか?なぜ存在しているのか?ということです。
桃太郎なら、「村の平和を守りたいから鬼を退治する」「安全で平和な村を守りたいから存在している」ということになります。
このようにミッションとは「企業が果たすべき不変的な使命・存在理由」であり、「なぜそれをやるのか?その企業はなぜ存在しているのか?」の答えになるものであるともいえるでしょう。
1-2.ビジョンとは
ビジョンとは「企業が目指すべき将来の理想の状態・ゴール」のことです。
別の言い方として、将来のありたい姿・理想の姿・目的などといった表現をされることもあります。
● ビジョン:企業が目指すべき将来の理想の状態・ゴール |
将来的にどのような姿や存在になりたいのかを言語化することで、会社の未来を具体的にイメージさせることができます。
ミッションと異なるのは、ミッションが基本的にはずっと変わらないものであるのに対して、ビジョンは企業活動を進めていく中で社会や環境の変化に応じて変わる中期的な目的であるという点です。
こちらも桃太郎に例えて考えてみると、彼らのビジョンは「どんな鬼も退治できる日本一のチームになる」というものになります。
そして「5W1H」に例えるとビジョンはWhatです。どんな姿を目指すのか?なにをやるのか?ということを示すものだからです。
桃太郎なら「鬼退治のプロフェッショナルになる」「どんな鬼も退治できるチームを目指す」ということになります。
このようにビジョンは「企業が目指すべき将来の理想の状態・ゴール」を示すものであり、「どんな姿を目指すのか?なにをやるのか?」の答えになるものです。
1-3.バリューとは
バリューとは「ミッションとビジョンを実現するために企業の構成員がとるべき思考や行動の指針」のことです。
企業の構成員、つまり従業員たちが日々意識して発揮するべき価値のことをいいます。
バリューとは |
● バリュー:ミッションとビジョンを実現するために企業の構成員がとるべき思考や行動の指針 |
先に紹介したミッションとビジョンは会社の根幹となるものであるため、最初にきちんと決めておく必要があります。しかしバリューは従業員の行動指針になるものですので、起業直後など社員が自分以外にいないようなときには作る必要はありません。
桃太郎の場合は、サル・イヌ・キジという仲間がいますので設定したほうが良いでしょう。例えば「仲間と力を合わせる」「自分の特技を活かす」というようなものが、彼らのバリューとして適していることになります。
また、「5W1H」に例えるとバリューはHowです。どのようにやるのか?ということを示すものだからです。
桃太郎たちなら「仲間と力を合わせることで鬼を倒す」「自分の特技を活かすことで強い鬼に対抗する」ということになります。
このようにバリューは「ミッションとビジョンを実現するために企業の構成員がとるべき思考や行動の指針」のことであり、「どのようにやるのか?」の答えになるものです。
2.経営理念・行動指針など類似の単語との違い
色々な企業のホームページを見ていると、企業概要などのページで「経営理念」「行動指針」「社是」「社訓」など、企業の価値観を表す様々な単語を目にすることがあると思います。
それらの言葉の意味や違いについての理解を曖昧にしておくと、いざ自分の会社の価値観を言語化しようとしたときに「ミッション・ビジョン・バリューとどう違うのかな?」「自分の会社の場合、どの単語を使えばいいんだろう」と迷ってしまうかもしれません。
そんな事態を避けるためこの章では、それぞれの単語の意味やミッション・ビジョン・バリューとの関係性について図を用いてお伝えします。
混同しやすい主な単語とその意味は以下の通りです。
企業の価値観を言語化するときによく使われる単語 |
● 企業理念:企業のあり方や存在理由・目的を示したもの。 ● 社是:企業の基本的な考え方、経営上の方針・主張。 ● 経営理念:経営活動を続けるための根本的な考え方や価値観。目標。 ● 経営方針:経営理念を実現するための具体的な方針・手段。 ● 行動指針:従業員にとってほしい行動の方向性を具体的な行動に落とし込んだもの。行動規範。 ● クレド:企業が目指す組織の姿や人間像。企業が大切にしている信条やポリシー、ありたい姿を、簡潔に記したもの。 ● 社訓:従業員の守るべき教えや教訓を定めたもの。 |
それぞれの関係性は以下の図のようなイメージです。
これらは全て、企業理念を表す際によく使用される言葉です。同じグループの単語同士の意味は非常に似ているため、ほぼ同義として使用している企業も多いです。「絶対にこうしなければならない」というルールはありませんので、自分の会社の場合に一番しっくりくる単語や組み合わせを採用すれば良いでしょう。
それぞれの単語の詳しい意味は以下で解説していきます。
2-1.企業理念
企業理念とは、企業のあり方や存在理由・目的を示したものです。
企業が活動する上で大切にしたい考えや価値観を言語化したもので、上記で示した様々な概念を組み合わせて表現されます。
ミッションをそのまま企業理念としている企業もよく見受けられます。
企業理念や自社の姿勢を社外に発信するために、以下のようなフレーズを用いる企業もあります。
企業理念を発信するときによく用いられるフレーズ |
● コーポレートスローガン:自社の考え方を表す簡潔な文言。標語。 ● コーポレートステートメント:自社の理念や姿勢を表す宣言。 ● コーポレートメッセージ:自社の理念や姿勢を主に社外へ伝えるための声明。 |
これらは一般の消費者にも自社の企業理念をわかりやすく伝えるために作られるキャッチフレーズという位置づけですので、TVコマーシャルなどで使われることも多いです。
その他、企業理念と同じような意味合いで捉えられることが多い概念として「経営理念」があります。
企業理念と経営理念の違いは、企業理念は「企業」としての考え方を示すものであるのに対して、経営理念は「経営者」の考え方や価値観であるという点です。
企業理念と経営理念の違い |
● 企業理念:「企業」の考え方や価値観。哲学的な意味合いを含む。 ● 経営理念:「経営者」の考え方や価値観。経営の方針を示すもの。 |
そのため、企業理念は一度決めたらしばらくは変更されないものですが、経営理念は経営者が変われば変更になることもあります。
2-2.社是
社是(しゃぜ)とは、企業の基本的な考え方や、経営上の方針・主張を示したもののことです。企業理念や経営理念と近い概念であるため、それらと同義として使用されることも多いです。
会社の大方針であるため、こまごまとたくさんのことを示すのではなく短い単語や箇条書きで表現されることが多いです。
例えば、セブン&アイ・ホールディングスの社是は下記の通りです。
セブン&アイ・ホールディングスの社是 |
● 私たちは、お客様に信頼される、誠実な企業でありたい。 ● 私たちは、取引先、株主、地域社会に信頼される、誠実な企業でありたい。 ● 私たちは、社員に信頼される、誠実な企業でありたい。 |
このように、箇条書きで簡潔に企業の基本的な考え方を示したものが「社是」です。
2-3.経営理念
経営理念とは、経営活動を続けるための根本的な考え方や価値観・目標のことです。
経営者が大切にしている価値観や想いを指すものですので、企業理念のところで解説した通り、経営者が交代するとそのタイミングで変更になる場合もあります。
例えばJR東海は発足30周年の節目に、会社発足時に制定した経営理念を以下のように改定しています。
JR東海の経営理念 |
<改定前> ● 健全な経営による世の中への貢献 ● 近代的で愛され親しまれ信頼されるサービスの提供 ● 明るくさわやかで活力のある社風の樹立 ↓ <改定後> ● 日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する |
改定前の経営理念に登場する「健全な経営」や「近代的」といった表現が、時代にそぐわなくなってきたため見直したのではないかと推測できます。
このように経営活動を続ける上での経営者の考え方を示し、時代や社会の流れに応じて必要であればアップデートしていくものが「経営理念」です。
2-4.経営方針
経営方針は、経営理念を実現するための具体的な方針や手段のことです。
経理念の場合は概念的に表現することが多いですが、経営方針の場合はもっと具体的に示されます。中期的な経営計画や戦略として「●年後に売上を●●円にする」などといった具体的な数値目標を掲げたり、研究活動の方針を定めたりすることが多いです。
例えば王子ホールディングスの場合、経営方針の中で経営戦略として「中期経営計画と経営戦略」を示し、その中で具体的な経営の数値目標を発表しています。
王子ホールディングスの経営方針 |
● 2019年度から2021年度を対象とする中期経営計画では、「国内事業の収益力アップ」「海外事業の拡充」「イノベーションの推進」「持続可能な社会への貢献」を経営戦略の基本方針とし、連結営業利益1,000億円以上を安定的に継続するグローバルな企業集団を目指します。 ● 2021年度の経営数値目標として連結営業利益1,500億円以上等を掲げ、王子グループの中長期的な企業価値向上に向けて、様々な取り組みを進めていきます。 |
これまで紹介してきた企業理念や経営理念と比べると、非常に具体的になっていると思います。
このように、経営理念を実現するための具体的な方針や手段を具体的に定めたものが「経営方針」です。
2-5.行動指針
行動指針とは、従業員にとってほしい行動の方向性を具体的な行動に落とし込んだものを指します。行動規範とも呼ばれます。
「従業員に望む具体的な行動をまとめたもの」という点で「バリュー」とよく似た概念で、同じ意味合いで使用されることも多いです。この後出てくる「クレド」「社訓」も同様です。
「社員にこんな風に行動してほしい」という想いを示すものですので、その会社ならではの個性を表現しやすいものでもあります。
例として東京ディズニーランドの運営会社であるオリエンタルランドの行動指針を紹介します。
オリエンタルランドの行動指針 |
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新しい価値の創造を目指して情熱を持ち挑戦してほしいという想いが伝わるような言葉を選び、2文字熟語の組み合わせによって端的に表しています。
このように、従業員にとってほしい行動の方向性を具体的に示したものが「行動指針」です。
2-6.クレド
クレドとは、企業が目指す組織の姿や人間像・企業が大切にしている信条やポリシー、ありたい姿などを簡潔に示したものです。
語源はラテン語の「Cred」で、信条や行動方針などと訳されますが、抽象的な概念ではなく具体的な行動レベルで示されるという特徴があります。
例えばGoogleでは「Googleが掲げる10の事実」として以下のように会社としてのポリシーを公開しています。
Googleが掲げる10の事実 |
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抽象度は低く、具体的に記載されているのがおわかりいただけると思います。
このように、より具体的に企業の目指す姿や信条・行動方針などを示したものが「クレド」です。
2-7.社訓
社訓とは、従業員の守るべき教えや教訓を定めたもののことです。
これまで出てきた「バリュー」「行動指針」「クレド」などと似た意味を持つ単語ですが、歴史のある企業で採用されていることが多い表現です。
例えば運送業界の老舗企業であるヤマトホールディングスでは、昭和6年に制定された以下の社訓を継承しています。
ヤマトホールディングスの社訓 |
● 一、ヤマトは我なり ● 一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし ● 一、思想を堅実に礼節を重んずべし |
社訓の訓には「教え」という意味が含まれているため「会社の創業者からの教え」という捉え方をすることもあります。
このように、従業員の守るべき教えや教訓を定めたものが「社訓」です。
3.ミッション・ビジョン・バリューが必要な5つの理由
ミッション・ビジョン・バリューの意味と、企業理念を制定するときによく使われる、似たような単語との違いを整理してきました。
各会社が「ミッション・ビジョン・バリュー」をはじめとした様々な表現で自社の価値観や想いを示していますが、あらためて考えると「なぜミッション・ビジョン・バリューがビジネスの現場で重要とされているんだろう?」という疑問が頭に浮かぶ人もいるかもしれません。
ミッション・ビジョン・バリューがなくても企業活動をしていくことはできます。しかしこれらがなかったり、あっても社員に浸透していないような会社の場合大きく成長していくのは難しくなります。
実際にメルカリの取締役社長兼COOである小泉氏も、メルカリに参画した際に会社のミッションやバリューがないことを課題と感じ、すぐにミッションとバリューを作り浸透させることに取り組み、その結果メルカリの生産性が確実に上がったと語っています。
出典:『THE BUSINESS DAY 02』レポ | mercan (メルカン)
このようにミッション・ビジョン・バリューは、会社の生産性や業績に大きな影響を及ぼすと考えられています。この章では、これらが必要な具体的な理由を以下の5つに分けて解説していきます。
ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由 |
● 会社としての事業判断の基準になるから ● 人事評価の基準になるから ● 会社として目指す目標が明確になるから ● 採用シーンでのミスマッチを防ぐことができるから ● 会社の発展に役立つから |
ミッション・ビジョン・バリューの必要性を正しく理解することで、自社の経営に活かせるようにしていきましょう。
3-1.会社としての事業判断の基準になるから
ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由のひとつめは「会社としての事業判断の基準になるから」です。
会社を成長させるためには、手がけている事業を拡大させていくために日々判断を繰り返していくことになります。しかし経営者も人間ですので、その日の精神状態によって判断がブレてしまうこともあるかもしれません。
そんなときにミッション・ビジョン・バリューがきちんと決まっていれば、何かの事業判断するときに基準として用いることができるので、誤った判断で会社が間違った方向へ進んでしまうリスクを減らすことができます。
また決裁権限のない社員もミッション・ビジョン・バリューによって「こういう場合に自分の会社ならどう判断するか?」の基準が明確になっていれば、ある程度自分のところで取捨選択をすることができます。
このように会社の事業判断の基準として重要な役割を果たすため、成長していきたい会社にとってミッション・ビジョン・バリューは必要なのです。
3-2.人事評価の基準になるから
ふたつめの理由は「人事評価の基準になるから」です。
会社にとって公正な人事評価を行うことはとても重要です。全社員が納得できる評価をして有効な人材育成や最適な人員配置をすることができれば非常に良いことですが「自社は自信をもってそれができている」という会社は少ないのではないでしょうか。
しかし社員が人事評価制度に対して不満を抱いていると以下のような問題が発生してしまいます。
● 仕事へのモチベーションが上がらないため生産性が下がる ● 社員同士の関係性が悪くなる ● 離職率が高まる |
そんな「不公平にならない人事評価を行いたい」「評価をする人によって基準にバラつきが出ないようにしたい」という場合に活用できるのが、ミッション・ビジョン・バリューです。
特にバリューは社員に対して求める行動基準を定めたものですので、その基準に沿った行動をしていると会社から評価されやすいということが客観的にわかります。
会社が人事評価基準を構築する際にも、ミッション・ビジョン・バリューが定められていれば「どんな社員に高い評価をするべきか?」を判断しやすくなります。
公平で公正な人事評価制度を作る際の基準としても、ミッション・ビジョン・バリューは大いに活用できるものなのです。
3-3.会社として目指す目標が明確になるから
「会社として目指す目標が明確になるから」というのも、ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由のうちのひとつです。
会社は社長だけが正しい方向に進んでいればいいのではなく、社員ひとりひとりの向かう方向が同じでないとスムーズに成長することはできません。
しかし日々の業務に追われていると「自分はなぜこんな大変な思いをしてまで働いているんだろう」「何のために仕事をしているんだろう」という気持ちになる社員も出てくることでしょう。
そんなとき、ミッション・ビジョン・バリューがきちんと設定されていて社員にも浸透している会社であれば「会社としてこの目標に向かってみんなで頑張っているんだ」「自分がこれを達成することで会社が目標に近づくんだ」と目の前の業務を会社の目標と結びつけて考えることができるため、以下のような効果が生まれます。
● 社員が一丸となり業務推進力が高まる ● 組織として強くなり団結力が高まる ● 社員のモチベーション向上につながる |
このように、会社として目指す目標を明確にしておくためにもミッション・ビジョン・バリューは必要なのです。
3-4.採用シーンでのミスマッチを防ぐことができるから
ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由としてもうひとつ重要なのが「採用シーンでのミスマッチを防ぐことができるから」というものです。
会社の売上や利益を上げていくためには、自社の理念に共感して活躍してくれる優秀な社員をどんどん採用していくことが大切です。しかし実際は「いい人が応募してきてくれない」「採用できたとしてもすぐに辞めてしまう」という悩みを抱える会社が多いのが実情です。
その原因は、以下の2つです。
● その会社の魅力や自分に合っているかどうかがわからないと、求職者側も応募できない ● 会社についての理解が浅いまま入社すると、理想と現実にギャップが発生してしまう |
こういった問題を解決するためにもミッション・ビジョン・バリューを定めることは役立ちます。ミッション・ビジョン・バリューによって企業の使命や将来の目的、どんな社員を求めているかを明示することで「この会社は自分の考えと合っている」「この会社なら自分らしく働けそうだ」と考える人を集めることができるのです。
このように、採用シーンでのミスマッチを防ぐことができるという点も、ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由のうちのひとつです。
3-5.会社の発展に役立つから
最後の理由は「会社の発展に役立つから」です。
ワンマン社長の指示で全てを動かしているような体制の会社の場合、その社長のキャパシティ以上に会社が成長することはできません。社員は会社が何のためにどのような目的に向かっているのかわからないため、誰かの指示がないと動けなくなってしまうからです。
しかし適切にミッション・ビジョン・バリューを示せば、社長や上司が細かく口を出さなくても社員は自社の使命や将来的な目的を理解した上で、自分で考えて仕事を進めることができるようになります。
そういった環境で社員を育てていくとゆくゆくは社長と同じようなレベルで判断をすることができる社員が増えるため、会社の発展に直結することでしょう。
このように会社をどんどん発展させていくためにも、ミッション・ビジョン・バリューを作ることが必要なのです。
4.ミッション・ビジョン・バリューをつくる4つのメリット
ミッション・ビジョン・バリューの必要性を理解できたら、メリットについてもあらためて整理しておきましょう。
実際にミッション・ビジョン・バリューを作るという段になったら他の経営陣や社員と協力して作ることになりますが、そのときにどんなメリットがあるのかをしっかりと説明できれば、すんなりと協力を得ることができるからです。
そこでこの章ではミッション・ビジョン・バリューを作るメリットを以下の4つにわけて解説していきます。
早速ひとつずつ見ていきましょう。
4-1.意思決定しやすくなる
ミッション・ビジョン・バリューを作るメリットのひとつめは「意思決定しやすくなる」という点です。
企業活動の中では日々話し合いや議論をもとに、様々な判断が繰り返されます。
そんなとき、ミッション・ビジョン・バリューによってその会社の考え方や目的などが明確になっていると「うちの会社はこういう方針だからこうしたほうがいいよね」「こんな判断をしたらうちの会社らしくないよね」という判断を行いやすくなります。
逆にミッション・ビジョン・バリューがなければ、単に権力が強いだけの人の意見が通ってしまったり、会議の参加者によって事業の方向性が変わったりしてしまう可能性もあります。
実際にメルカリの小泉氏も、ミッションやバリューが社員に浸透したことでどのような効果がみられたかという質問に対して、以下のように答えています。
”会社の生産性は確実に上がったと思います。なぜなら、仕事上の判断軸がバリューのなかに必ずあるから。事業や制度など、バリューに基づいて考えているので、1つの筋が通るんですよ。「この判断はGo Boldではないな」という会話が、日常的に飛び交いますしね。社員が何かに迷ったり、つまずいたりしたときに、この言葉たちがフックになり、助けてくれる。そんな効果があるように思います。” |
このようにミッション・ビジョン・バリューには、社員たちが自社の進むべき方向に沿った意思決定をするのを手助けできるというメリットがあるのです。
4-2.離職率の低下につながる
ミッション・ビジョン・バリューを作ることで得られるふたつめのメリットは「離職率の低下につながる」という点です。
採用するのにもコストがかかりますので、経営者としては今働いてくれている社員にはできるだけ辞めずに働き続けてほしいですよね。
しかし会社に対する不満があれば、社員は「会社を辞めたい」と考えるようになってしまいます。そんな状況に陥るのを防ぐためには以下を実現することが有効です。
● 社員同士の結束力を強める ● 社員のモチベーションを上げる ● 共通の目的意識を共有する |
このような方法でやりがいを刺激すると社員は自発的に仕事に取り組むようになり、仕事や会社への不満も減らすことができるでしょう。
そのために有効なのが、会社の想いを込めたミッション・ビジョン・バリューをしっかり設定しておくことです。それに共感して前向きに働く社員が増えれば、共通の目的に向かって団結しようという社内の空気を作ることができます。
このように社員のモチベーションや結束力を高めることで「離職率の低下につながる」という点も、ミッション・ビジョン・バリューを作ることで得られるメリットのひとつになります。
4-3.自社に合う人材を採用しやすくなる
ミッション・ビジョン・バリューを作ることには「自社に合う人材を採用しやすくなる」というメリットもあります。
せっかく新たな人を採用したとしても、自社の考えや想いに共感できない人や他の社員とモチベーションに大きく差があるような人では、入社後の活躍は見込めなくなります。
特に大企業と違って中小企業の場合は社員数も少ないため、ひとりひとりの影響力が大きいという特徴があります。会社の方針に合わない人がたったひとりいるだけでも日々の業務に悪影響を及ぼしてしまい、組織の崩壊を招く可能性があるのです。
そんな事態を防ぐためには、最初から自社に合う人材を採用することが何よりも大切です。
そのために役立つのが、ミッション・ビジョン・バリューで会社の考え方や方針、社員に求める具体的な行動を明示しておくことなのです。そうすることによって、自社の理念に共感する人材を集めることができます。
このようにミッション・ビジョン・バリューには、自社に合う人材を採用しやすくなるというメリットがあることも知っておきましょう。
4-4.対外的なイメージアップにつながる
実際に今働いている社員だけでなく、自社の顧客や株主等に対するイメージアップに役立つという点もミッション・ビジョン・バリューの持つメリットのうちのひとつです。
顧客が商品やサービスを選ぶときには、品質や価格などはもちろん重要ですが、それだけでなく「その企業がどんな想いでそのビジネスを行っているのか」という点も重視されています。
実際に消費者庁の「平成30年版消費者白書」によると「商品やサービスを選ぶときに意識すること」という項目で「経営方針や理念、社会貢献活動」を「意識する」と答えた人(※)は58.3%いました。
(※常に意識する、よく意識する、たまに意識すると回答した人の合計)
また投資家の立場としても、何のためにその事業をしているのかが曖昧な企業よりも、きちんとミッション・ビジョン・バリューを作って事業拡大を行っている会社のほうが安心して投資することができます。
このように社外に対して企業の考え方や目的を発信することでイメージアップにつながるという点も、ミッション・ビジョン・バリューを作るメリットとして大切なポイントになります。
5.参考にしたい他社のミッション・ビジョン・バリュー6つの例
ミッション・ビジョン・バリューの必要性とメリットを理解できたところで、早速自社でも作っていきたいと考えた人もいるのではないでしょうか。
しかし、何もないところから突然考えをまとめるのは難しいものです。そんなときにおすすめなのが、他社の例を参考にしてミッション・ビジョン・バリューのイメージをつかむという方法です。
そこでこの章では、実際に有名企業で使用されているミッション・ビジョン・バリューの例を紹介していきます。
5-1.日立
日立グループのミッション・ビジョン・バリューは以下の通りです。
● ミッション 優れた自主技術・製品の開発を通じて、社会に貢献する ● ビジョン 日立は、社会が直面する課題にイノベーションで応えます。優れたチームワークとグローバル市場での豊富な経験によって、活気あふれる世界をめざします ● バリュー 和・誠・開拓者精神 |
日立では、創業者である小平氏の信念がそのままミッション(企業理念)として継承されています。このようにミッションには創業者の想いが色濃く反映されることも多いです。
5-2.ソフトバンク・テクノロジー
ソフトバンク・テクノロジーのミッション・ビジョン・バリューは以下の通りです。
● ミッション – 存在意義 – 「情報革命で人々を幸せに」 ~技術の力で、未来をつくる~ ● ビジョン – 目指す姿 – 多様な働き方と挑める環境で先進技術と創造性を磨き、社会に新しい価値を提供し続ける ● バリュー – 価値観・行動指針 – 「成長」「信頼」「価値」×「たのしむ」「つくる」「つなぐ」 |
同社では、ソフトバンクグループ全体のミッション(情報革命で人々を幸せに)をもとに、社員全員で新しくビジョンとバリューを策定したそうです。社員が当事者意識を持って参画できるというのは理想的な作り方だといえるでしょう。
5-3.トヨタ
トヨタ自動車のミッション・ビジョン・バリューは以下の通りです。
● ミッション わたしたちは、幸せを量産する。 ● ビジョン 可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。 ● バリュー トヨタウェイ:ソフトとハードを融合し、パートナーとともにトヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す。 |
バリューは上記だけですと少々具体性に欠けているように感じるかもしれませんが、社員に求める行動指針についてはこれとは別に「トヨタウェイ2020/トヨタ行動指針」で具体的な内容について言及されています。
5-4.楽天
楽天グループのミッション・ビジョン・バリューは以下の通りです。
● ミッション イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする ● ビジョン グローバル イノベーション カンパニー ● バリュー 楽天主義 ①ブランドコンセプト 大義名分 -Empowerment- 品性高潔 –気高く誇りを持つ– 用意周到 –プロフェッショナル– 信念不抜 -GET THINGS DONE- 一致団結 –チームとして成功を掴む– ②成功のコンセプト 常に改善、常に前進 Professionalismの徹底 仮説→実行→検証→仕組化 顧客満足の最大化 スピード!!スピード!!スピード!! |
「イノベーション」や「改善」「スピード」といった言葉選びから、アントレプレナーシップ(起業家精神)を重視しているという楽天の方針が伝わってくるミッション・ビジョン・バリューです。
5-5.リクルート
リクルートホールディングスのミッション・ビジョン・バリューは以下の通りです。
● ミッション [ 果たす役割 ] まだ、ここにない、出会い。 より速く、シンプルに、もっと近くに。 ● ビジョン [ 目指す世界観 ] Follow Your Heart ● バリューズ [ 大切にする価値観 ] 新しい価値の創造 個の尊重 社会への貢献 |
ミッションの「まだ、ここにない、出会い。」というフレーズは、CMなどでもよく耳にするため聞いたことがあるという人もいるのではないでしょうか。ミッションを対外的なPRにも活用して成功している事例です。
5-6.ソニー
ソニーは、ミッション・ビジョン・バリューの形式ではなく、「Purpose(存在意義)」「Values(価値観)」の2つを設定しています。
● Purpose(存在意義) クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。 ● Values(価値観) 夢と好奇心:夢と好奇心から、未来を拓く。 多様性:多様な人、異なる視点がより良いものをつくる。 高潔さと誠実さ:倫理的で責任ある行動により、ソニーブランドへの信頼に応える。 持続可能性:規律ある事業活動で、ステークホルダーへの責任を果たす。 |
Purposeは「存在意義」とされているので、ミッションに近いものだと考えて良いでしょう。このように、ミッション・ビジョン・バリューの一部だけを採用するという方法でも問題ないのです。
6.ミッション・ビジョン・バリューの作り方
他社のミッション・ビジョン・バリューを確認することで、実際のイメージを掴むことができたのではないでしょうか。次に、早速自社で作る際の手順も確認しておきましょう。
ミッション・ビジョン・バリューは、ただ作ればいいというものではなく社員に浸透させるところまでが成否を分けるポイントです。そのため後々浸透させやすい環境を作るという観点では、策定段階から社員と協力して一緒に作り上げるという過程をとることも非常に重要になります。
ミッション・ビジョン・バリューを作るときの大まかな流れは以下のようになります。
具体的な手順については次で詳しくお伝えしていきます。
6-1.ミッションを決める
最初に手をつけるのはミッションです。ミッションはビジョンとバリューの元になる最も重要な価値観であるため、一番最初に決めます。
そしてミッションは企業の考え方の根幹となるものでもあるため、その会社へのコミットが強い創業者や経営層で議論して全員の納得のいくものを作るようにするのが良いでしょう。
決めるときの流れは以下の通りです。
(1)「ミッション」の定義(企業が果たすべき使命)を共有する
まずは「ミッション」の言葉の意味について全員で確認します。議論に参加している人の間で認識に齟齬があると見当違いの方向へ議論が進んでしまうこともあるため最初にきちんと定義を共有しておきます。
(2)「ミッション」に込めたい価値観を書き出してまとめる
次に「ミッション」に込めたい価値観を書き出してまとめるという工程に入ります。
特に決まった方法があるわけではありませんが、発想の幅を広げるためには以下のようなブレインストーミング形式で検討を進めるのが良いでしょう。
ブレインストーミングの進め方 |
● 参加者はそれぞれ付箋などに自分のアイディアを書き出す |
ブレインストーミングで注意したい点は、他の人の意見を否定しないということです。否定や批判は萎縮を招き、優れたアイディアが生まれにくくなってしまうためです。
また、ミッションを考えるときのポイントは「会社として果たすべき使命を主観的に語る」ことです。あなたが創業者なら「なぜ起業したのか」「何を果たしたいという情熱があるのか」「社会でどんな風に評価されたいのか」を考えると、ミッションにつながるヒントが出てくるでしょう。
(3)「ミッション」を端的な言葉で表現する
最後に、ミッションとして採用したい価値観をまとめて端的な言葉で表現しましょう。
ミッションは、長文で説明するものではなくキャッチコピーのように簡潔に示すほうが伝わりやすいので、冗長な表現にならないように言葉を組み立てるようにしましょう。
例えばトヨタのミッションは「わたしたちは、幸せを量産する。」です。短い文章ですが、「幸せを量産」というフレーズが、トヨタの事業内容である自動車のイメージと重なり、ポジティブさとトヨタらしさをどちらも感じさせるものになっています。
このように、短い文章でも聞いた人の心に残るような言葉で表現できると良いでしょう。
6-2.ビジョンを決める
ミッションが決まったら、次にビジョンを考えていきます。こちらも経営に責任を持つ人たち全員が腹落ちする内容になるように、経営層で集まって話し合うことをおすすめします。
決める手順はミッション同様以下の通りです。
(1)「ビジョン」の定義(企業が目指す将来の状態)を共有
まずはミッション同様、参加している経営層全員が共通の認識を持つことができるようにビジョンの定義について確認します。
(2)「ビジョン」を表現できそうな言葉を書き出してまとめる
次に、早速ビジョンについて考えていきます。やり方はミッション同様、ブレインストーミングで自由にアイディアを出すのが良いでしょう。
ビジョンには、以下の2つのパターンがあります。
ビジョンの2つのパターン |
● 企業が将来行うべき活動や社会に貢献している内容を示すもの 例)日立のビジョン「日立は、社会が直面する課題にイノベーションで応えます。優れたチームワークとグローバル市場での豊富な経験によって、活気あふれる世界をめざします」 ● 企業の未来像を示すもの 例)楽天のビジョン「グローバル イノベーション カンパニー」 |
どちらが良いということはありませんが、ひとつめのパターンの場合ミッション(使命)と近い内容になってしまうことも考えられますので、内容が重複しないように気をつけると良いでしょう。
それを踏まえて「このミッションを果たす企業としてふさわしい姿はどのようなものか?」「わが社の理想の未来像は?」「将来どのように社会貢献するのか?」などをポイントにしてビジョンを考えてみましょう。
(3)「ビジョン」をわかりやすい言葉で表現する
最後に、出てきたアイディアをまとめてわかりやすい言葉で表現し直します。WEBサイトや会社案内のパンフレットなどに掲載することもあるため、語呂の良さや語感の美しさも大切です。
ただし最も重要なのはわかりやすさです。業界外の人が聞いても意味が伝わるような表現にすることを心がけましょう。
6-3.バリューを決める
最後に、ミッションとビジョンを達成するための価値観や行動指針であるバリューを決めます。バリューだけは、経営層だけでなく現場の社員も一緒に作ると良いでしょう。
なぜならバリューは社員に日々求められる行動指針なので、上層部からのトップダウン形式で決めると社員の反発を招きやすく浸透しにくいためです。
社員たち自らが決めるボトムアップ形式にすることで社員の中にも「自分たちが決めたものだ」という意識が根付き、実際の行動にも反映されやすくなります。
決める手順は、ミッション・ビジョン同様以下の通りです。
(1)「バリュー」の定義(社員の思考や行動の指針)を共有
定義の共有は、ミッション・ビジョンのときと同じように関わる人全員が同じ認識を持てるように一番最初に確認しましょう。
(2)「バリュー」に適する行動や価値観を書き出してまとめる
バリューを決める際も、ブレインストーミング形式でアイディア出しをすると良いでしょう。バリューとは「ミッションとビジョンを実現するために社員がとるべき思考や行動の指針」です。
そのため「どうしたらミッションとビジョンを実現できるか?」「この目標を達成するためには日々どのような行動をとるべきか?」「この会社の社員として望ましいのはどんな人か?」という点を考えてみるとアイディアが生まれやすくなるでしょう。
(3)「バリュー」を理解しやすい言葉で表現する
バリューを構成する要素が出てきたら、それらを全社員が理解できるような言葉で表します。
どんなに素晴らしい内容のバリューができたとしても、意味が伝わらなければ役に立ちません。特にバリューは行動レベルで全社員に浸透させる必要があるものですので、覚えやすく実行しやすい表現を選ぶようにしましょう。
7.ミッション・ビジョン・バリューを作る際の3つの注意点
実際にミッション・ビジョン・バリューを作る際の流れと具体的な手順を詳しく解説してきました。ただしミッション・ビジョン・バリューは、作る際に気をつけなければならないポイントがあります。この注意点を知らないままだと、せっかく苦労をして策定したのに経営の改善につながらなかった…などという残念な結果を招いてしまうかもしれません。
ミッション・ビジョン・バリューを活用して会社をしっかりと成長させていくためにも、注意点をきちんと把握しておきましょう。
7-1.経営にかかわる人間全員で合意する
まず注意したい点は、ミッション・ビジョン・バリューを社長がひとりで決めるのは避けるということです。
もちろん、個人事業主やひとり社長の会社であれば、経営に関わるのは自分しかいませんのでひとりで決めても問題はありません。しかし自分の他にも経営に関わる人がいる組織の場合は、必ず経営に関与する人間全員で合意するようにしましょう。
なぜなら、ミッション・ビジョン・バリューはその後の企業経営の方針に大きく関わってくるものだからです。自分の知らないところで作られた方針や目標に対して人は全力投球できるでしょうか。当事者意識を持つことができず、他人事になってしまう人が多いのではないかと思います。
しかし逆に、自分が関与して決めた目標であれば人は責任をもって取り組むことができます。そのため、経営層全員の参画(バリューの場合は経営層と現場の社員の参画)が重要だというポイントを忘れないようにしましょう。
7-2.急いで決めようとしない
ミッション・ビジョン・バリューは、短期間で手軽に決めるようなものではありません。そのため「1時間の会議でとりあえず決めてしまおう」というような意識は持たないようにしましょう。
もちろん無意味に長い期間を費やす必要はありませんが、多くの会社ではワークショップ形式をとり、数か月間かけて議論を重ねて作り上げています。実際にソフトバンク・テクノロジーでは、社員全員で9か月もの時間をかけてビジョンとバリューを策定したそうです。
他の業務も忙しい中、こういった直接利益を生まない活動に時間と人を費やすのはもったいないと感じる人もいるかもしれません。しかしドラッカーは「ミッション・ビジョン・バリューは決してアウトソーシングできない企業の根幹」であると言っています。
経営層と社員が一緒にじっくりと考えて納得のいくものを作り上げることが大切なのです。
7-3.作るだけで終わりではなく浸透させないと意味がない
ミッション・ビジョン・バリューは、社員や社会に浸透してこそ意味を持ちます。そのため、作るだけで満足してしまうことがないようにしましょう。
メルカリでは、自然と社員に浸透させるために次のような工夫をしたそうです。
ミッションとバリューを浸透させるためにメルカリが行った工夫 |
● ミッションとバリューを経営陣一人ひとりに担ってもらうことで経営層自らが体言したり口に出す環境を作った ● バリューのひとつである「Go Bold」とプリントしたTシャツを作ったり、会議室の名前をバリューの言葉(「All」や「One」)にしたりすることで、社員の日常に自然となじむ工夫をした |
その他、以下のような方法も一般的によく実施されているものです。
ミッション・ビジョン・バリューを浸透させる工夫 |
● 毎日社員が見る社内イントラに掲示する ● 全社会議や社内行事などで社長がミッション・ビジョン・バリューの背景や思想を語り発信する ● バリューを体現できている社員を表彰するなどして皆の前で評価する ● CMで自社のミッションやバリューを流すことで社会に浸透させる |
ミッション・ビジョン・バリューは、会社のホームページやパンフレットに掲載するだけでは浸透しません。日常的に社員や消費者が自然と触れ合えるような環境を作るようにしていきましょう。
また、
「この機会に会社のコアを固めて自分の理想とする会社を目指したい」
「ミッションを実現するための具体的な計画を立てたい」
こんな考えをお持ちの場合は「経営計画書」を作ることをおすすめします。
経営計画書とは、社員が安心して働ける良い会社作りを実現するための会社の設計図であると共に、会社組織をマネジメントするための道具です。
経営計画書を活用すると、成り行き任せの経営から脱却することができて会社にお金が残るようになります。利益も出るようになり、さらには「働く人々が幸せになる」会社を目指すことができます。
経営計画書の作成と活用方法のポイントを知りたい方はこちらの記事もご覧下さい。
→ 高収益な良い会社を作るための経営計画書の作り方【テンプレート付き】
8.まとめ
ミッション・ビジョン・バリューについて解説してきました。ミッション・ビジョン・バリューとは企業の理念や方針を構成する3つの要素で、それぞれの違いは以下の通りです。
ミッション・ビジョン・バリューの違い |
● ミッション:企業が果たすべき不変的な使命・企業の存在理由 ● ビジョン :企業が目指すべき将来の理想の状態・ゴール ● バリュー :ミッションとビジョンを実現するために企業の構成員がとるべき思考や行動の指針 |
また、経営理念・行動指針など類似の単語の意味は以下の通りでした。
企業の価値観を言語化するときによく使われる単語 |
● 企業理念:企業のあり方や存在理由・目的を示したもの。 ● 社是:企業の基本的な考え方、経営上の方針・主張。 ● 経営理念:経営活動を続けるための根本的な考え方や価値観。目標。 ● 経営方針:経営理念を実現するための具体的な方針・手段。 ● 行動指針:従業員にとってほしい行動の方向性を具体的な行動に落とし込んだもの。行動規範。 ● クレド:企業が目指す組織の姿や人間像。企業が大切にしている信条やポリシー、ありたい姿を、簡潔に記したもの。 ● 社訓:従業員の守るべき教えや教訓を定めたもの。 |
ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由とそのメリットについても紹介しました。
ミッション・ビジョン・バリューが必要な5つの理由 |
● 会社としての事業判断の基準になるから ● 人事評価の基準になるから ● 会社として目指す目標が明確になるから ● 採用シーンでのミスマッチを防ぐことができるから ● 会社の発展に役立つから |
ミッション・ビジョン・バリューを作る4つのメリット |
● 意思決定しやすくなる ● 離職率の低下につながる ● 自社に合う人材を採用しやすくなる ● 対外的なイメージアップにつながる |
そして実際にミッション・ビジョン・バリューを作るときの参考にしたい他社の事例も紹介し、さらに具体的に自社で作る場合のおすすめの手順についても解説しました。
最後にはミッション・ビジョン・バリューを作る際の注意点についてもご紹介しました。
ミッション・ビジョン・バリューを作る際の3つの注意点 |
● 経営にかかわる人間全員で合意する ● 急いで決めようとしない ● 作るだけで終わりではなく浸透させないと意味がない |
この記事を最後までお読みいただいたことで、ミッション・ビジョン・バリューの概要と重要性・スムーズな作り方をしっかりご理解いただけたのではないでしょうか。
ミッション・ビジョン・バリューを活用することで、会社の発展につなげていきましょう。