事業承継とは「事業に関するすべての経営資源を現経営者から後継者となる次の経営者に引き継ぐこと」です。
単に代表者を交代するのみならず、事業にかかわる経営権から資産にいたるまでの一切を後継者へ承継することを事業承継といいます。
少子高齢化が進む現在、事業承継ができないために黒字経営であっても廃業に追い込まれる経営者が増加しています。
経営者にとって大きな痛手であるのはもちろん、日本経済にとっても大きな損失です。
事業承継の失敗は、次世代に引き継がれていくべき技術やノウハウが消滅していくことにほかなりません。
そこで本記事では、経営者が引退したあとも、社会に価値を提供し続ける企業経営に最も重要といえる「事業承継」について、詳しく解説します。
本記事のポイント |
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「事業承継について知りたい」
「自分が事業承継の当事者となったとき失敗しないようにしたい」
…という方におすすめの内容となっています。
この解説を最後までお読みいただければ、あなたは「事業承継とは何か」はもちろん、具体的に進める流れや成功させるためのコツなどが体系的に理解できます。
事業承継のメリットだけでなくマイナス面も把握できるため、失敗を回避する力が身に付き、事業承継の具体的な準備へ取りかかれるはずです。ではさっそく「事業承継」を解説します。
目次
1. 事業承継とは
まずは事業承継の基礎知識から見ていきましょう。
1-1. 事業承継とはすべての経営資源を現経営者から後継者に引き継ぐこと
事業承継とは、事業に関するすべての経営資源を現経営者から後継者となる次の経営者に引き継ぐことです。“すべての経営資源”とは、具体的に以下を指します。
▼ 事業承継で引き継ぐものの一例
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事業承継では、単に経営権を譲り渡すだけでなく、その事業に関わるあらゆる経営資源をすべて引き継ぐことになります。
事業承継とは、身近な言葉でいえば「後継者への事業引継ぎ」のことですが、2005年頃より中小企業庁が事業引継ぎのことを「事業承継」と表現するようになり、さらに事業承継の関連施策を次々と打ち出しています。
1-2. 事業承継の意義
中小企業庁があえて「事業承継」という言葉を設定し、さらに積極的な施策や発信によって支援している背景には、中小企業における後継者問題があります。
というのは、中小企業の経営者の高齢化が進み事業の継続が困難になっていく状況でありながら、少子化によって後継者が不足しているのです。
実際、全国の社長の年齢分布データを見ると、年々「70代以上(下図の緑部分)」の占める割合が増加していることがわかります。
「事業を誰かに引き継げなければ、廃業するしかない」
と悩む経営者が増加しており、なかには優れた技術やノウハウを持ちながらも黒字廃業に陥らざるを得ない経営者もいます。
しかしながら、国家の経済が持続的に成長するためには、中小企業がこれまでに培ってきた事業を次世代に引き継ぐことが欠かせません。
円滑な事業承継を実現することには、日本経済を支える意義があるのです。
1-3. 事業承継と事業継承の違い
ここでよくある質問にお答えしておきましょう。
「『事業承継(しょうけい)』と『事業継承(けいしょう)』の違いは何?」というものです。
前述のとおり、政府(中小企業庁)が公的な発信で使用しているのは「事業承継(しょうけい)」であることから、公的な用語として存在するのは事業承継(しょうけい)のみとなります。
ただ辞書的な意味としては、承継と継承は“継続して受け継ぐこと”を指す同義語ですので、「事業継承(けいしょう)」も間違いとは言い切れません。
実際、以下の中小企業庁の資料においても、“経営者が引退した後も「事業を継続する」ものを「事業承継」としている”と記載されており、承継は継続の意味として扱われています。
2)事業承継
ここでは、経営者が引退した後も「事業を継続する」ものを「事業承継」としている。「事業を継続する」とは、経営者の引退前後で生産活動が停止することなく連続して「事業」が行われている状態を指す。経営者が引退して生産活動が一時的に停止し、その後、誰かが復活させた場合は継続とはみなさない。
出典:中小企業庁「事業承継と経営資源の引継ぎの概念」
また、同じ行政でも農林水産省の資料では「経営継承マニュアル」と、事業でも承継でもなく「経営・継承」という言葉が使われており、継承と承継の違いはあいまいです。
まとめると、事業承継・事業継承のどちらでも意味としては間違いではありませんが、公的な用語としては使う場合には「事業承継(しょうけい)」がより適しているといえます。
2. 事業承継のメリット
前章では事業承継の基礎知識をお伝えしました。では、事業承継のメリットとは何でしょうか。
3つのメリットが挙げられます。
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それぞれ見てみましょう。
2-1. 事業を廃業しないで済む
1つめのメリットは「事業を廃業しないで済む」ことです。
事業承継をしなければ廃業するしかなかった事業の廃業を回避できることは、いうまでもなく事業承継の最大のメリットです。
廃業を回避できれば、具体的に以下の利点があります。
▼ 廃業回避の利点
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特に、自分で起業したオーナー経営者にとって、会社は我が子のように大切なものです。
自分が経営から退いてもなお、自分の作った会社が社会に価値を提供し続けられることは、事業承継の大きなメリットです。
2-2. 生活資金を確保できる
2つめのメリットは「生活資金を確保できる」ことです。
事業承継には、親族に生前贈与する方法のほか、役員・従業員や第三者に売却する方法もあります(詳しくは後ほど「5. 事業承継の方法」にて解説します)。
後継者がいないからと廃業する場合、借入金の返済なども含めると、手元に残る現金はわずかとなるケースが多いでしょう。
しかしながら、会社を売却という形で事業承継できれば、手元には売却した代金が入ります。
特に、黒字経営の優良企業であれば高く売却できる可能性が高く、生活資金を確保できる点がメリットです。
2-3. 企業体質の改善ができる
3つめのメリットは「企業体質の改善ができる」ことです。
経営者の高齢化をきっかけとして事業承継を行う企業であれば、経営者の若返りが起き、新たな視点で経営を見直すことができます。
大企業においても、新社長に若い世代を登用して企業体質を変革し、業績向上を図るケースが見られますが、これは中小企業においても同じです。
事業承継により企業体質の改善が期待できることは、大きな利点といえるでしょう。
3. 事業承継のデメリット
次に事業承継のデメリットを挙げれば、以下のとおりです。
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事業承継で期待できる大きなメリットに比較すれば、事業承継のデメリットは小さいともいえますが、事前に把握してデメリットを最小限に抑えることが大切です。
それぞれ詳しく見てみましょう。
3-1. 後継者争いが起きるリスクがある
1つめのデメリットは「後継者争いが起きるリスクがある」ことです。
複数の親族(例えばきょうだいなど)・複数の役員など、後継者候補が複数いる場合には、後継者争いが起き、それが事業承継後の経営に暗い影を落とすケースがあります。
実際、同族会社のいわゆる“お家騒動”は、世間でも話題になることが多く、見聞きした記憶があるのではないでしょうか。
近年お家騒動を起こした有名な企業としては、大塚家具やロッテホールディングスが挙げられます。
中小企業にとっても決して他人事ではなく、後継者争いが起きないように細心の注意を払って事業承継を進める必要があります。
3-2. 後継者と従業員が対立しやすい
2つめのデメリットは「後継者と従業員が対立しやすい」ことです。
どんな形で事業承継するにせよ、後継者と従業員の対立が起きることは珍しいことではありません。
例えば、同族企業で前経営者の子が突然に後継者となった場合、古参社員から認められず、反発を受けやすい傾向にあります。
あるいは、第三者に売却して事業承継を行った場合、新しい経営陣と従業員との間に溝ができ、対立構造ができることもあります。
事業承継の後継者の選び方や、事業承継の説明などのコミュニケーションを通して、従業員のモチベーションが下がらないように最大の配慮が必要です。
3-3. 負債や個人保証も引き継ぐ必要がある
3つめのデメリットは「負債や個人保証も引き継ぐ必要がある」ことです。
これは事業を承継される側の立場から見たデメリットともいえますが、事業承継で引き継がれるのはプラスの資産ばかりではありません。
事業承継では、負の資産である借入金も含めて、事業に関わるすべてを引き継ぐ必要があります。
加えて、金融機関からの借入金について社長の個人保証(連帯保証)をしている場合には、その個人保証まで引き継がなければなりません。
負債や個人保証の引継ぎは、事業承継のマイナスの側面といえるでしょう。
4. 事業承継の構成要素
さて、ここからは事業承継の中身について、より詳しく解説していきます。
まずは、事業承継で具体的に何を承継するのか、事業承継の構成要素を見ていきましょう。
事業承継の構成要素は、大きく3つに分けられます。
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4-1. 経営権
1つめの構成要素は「経営権」です。
経営権とは法的に定められた権利ではありませんが、一般的に以下を指します。
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簡単にいえば、経営者として持つ一切の権利が経営権です。
4-2. 資産
2つめの構成要素は「資産」です。資産には具体的に以下のものが含まれます。
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前述のとおり、プラスの資産だけでなく、負債(借入金)も事業承継で引き継ぐ対象となります。
加えて、機械設備や不動産などの事業用資産を現経営者が個人所有している場合には、それぞれ承継する必要があります。
4-3. 知的資産
3つめの構成要素は「知的資産」です。
知的資産とは、貸借対照表に記載されている資産以外の無形の資産であり、企業における競争力の源泉となる強みです。
例えば、以下が知的資産として挙げられます。
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事業承継というと、単に「代表者の交代+有形資産の引継ぎ」と捉えがちですが、実際にはこの知的資産こそが、事業承継後の経営の安定・成長にとって重要といえます。
5. 事業承継の方法
次に「誰に事業を引き継ぐか」という視点から事業承継の方法を見てみましょう。大きく3つに分けられます。
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5-1. 親族内承継
1つめの方法は「親族内承継」です。
親族内承継は現経営者の子をはじめとした親族に事業を引き継ぐ方法で、以下のメリット・デメリットがあります。
▼ 親族内承継のメリット・デメリット
◎メリット
●一般的に、内外の関係者から心情的に受け入れられやすい。
●後継者を早期に決定し、後継者教育等のための長期の準備期間を確保することも可能。
●相続等により財産や株式を後継者に移転できるため、所有と経営の分離を回避できる可能性が高い。
× デメリット
●親族内に、経営の資質と意欲を併せ持つ後継者候補がいるとは限らない。
●相続人が複数いる場合、後継者の決定・経営権の集中が難しい。(後継者以外の相続人への配慮が必要)
出典:中小企業庁
後継者となる親族の例としては、現経営者の子(息子・娘)、配偶者、娘婿などが多く挙げられます。
心情的に受け入れられやすい・早期に後継者を決定しやすいなどのメリットがあるため、親族内に後継者がいるのであれば、第一の選択肢となるでしょう。
親族内承継であれば、売買ではなく生前贈与(あるいは相続)を行うのが一般的です。
しかしながら、そもそも少子化により後継者候補が減っている問題があり、親族内に後継者が見つからないケースも多々あります。
5-2. 役員・従業員などへの承継
2つめの方法は「役員・従業員などへの承継」です。
親族以外の役員や従業員などに事業を引き継ぐ方法で、以下のメリット・デメリットがあります。
▼ 役員・従業員承継のメリット・デメリット
◎メリット
●親族内だけでなく、会社の内外から広く候補者を求めることができる。
●特に社内で長期間勤務している従業員に承継する場合は、経営の一体性を保ちやすい。
× デメリット
●親族内承継の場合以上に、後継者候補が経営への強い意志を有していることが重要となるが、適任者がいないおそれがある。
●後継者候補に株式取得等の資金力が無い場合が多い。
●個人債務保証の引き継ぎ等に問題が多い。
出典:中小企業庁
親族内に後継者の適任者がいない場合には、役員・従業員などへの承継が第二選択肢となるケースが多いでしょう。
特に、現経営者と長年の苦労をともにしてきた信頼できる人物が社内にいれば、有力な後継者候補となります。
ただし、生前贈与や相続が一般的な親族内承継とは異なり、事業を売買する必要があるため、後継者候補に資金がなければ事業承継が難しくなります。
5-3. M&A(第三者への承継)
3つめの方法は「M&A(第三者への承継)」です。
M&Aは合併(merger)と買収(acquisition)を組み合わせた用語で、事業・企業の合併や買収を指します。
第三者への株式譲渡や事業譲渡によって事業承継を行う方法で、以下のメリット・デメリットがあります。
▼ M&Aのメリット・デメリット
◎メリット
●身近に後継者に適任な者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができる。
●現経営者が会社売却の利益を獲得できる。
× デメリット
●希望の条件(従業員の雇用、価格等)を満たす買い手を見つけるのが困難である。
●経営の一体性を保つのが困難である。
出典:中小企業庁
親族にも社内にも後継者が見つからない場合には、M&Aでの事業承継を目指すことになります。
具体的には、同業者や取引先が事業承継先として有力候補となります。あるいは、マッチングサービスなどを利用して、新たな後継者を探す方法もあります。
5-4. 3つの方法のまとめ
事業承継の3つの方法をご紹介しましたが、優先順位としては、
【親族内承継 > 役員・従業員などへの承継 > M&A】
の順に検討するのがおすすめです。
現状の経営の一体性をキープしつつ、内外の関係者からも受け入れられやすい順といえるためです。
ただし、親族や社内に後継者が見つからなくても決して諦めず、M&Aでの事業承継にチャレンジすることが非常に重要といえます。
なお参考データとして、商工総合研究所の平成26年度の調査でも、事業承継した後継者の割合は【親族内承継 > 役員・従業員などへの承継 > M&A】となっています。
▼ 先代経営者と後継者との関係
親族 |
息子・娘 |
56.1% |
配偶者 |
2.0% |
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娘むこ |
5.4% |
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その他 |
10.1% |
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合計 |
73.6% |
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役員・従業員 |
18.4% |
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社外の第三者 |
8.1% |
出典::商工総合研究所『中小・中堅企業における事業承継の実態調査(平成26年)』
補足として、上図をご覧いただくとわかるとおり、資本金規模が大きくなるほど親族の割合が減り、社外の第三者への承継が増える傾向にあります。
資本金5千円〜1億円未満の規模の企業では、役員・従業員への承継が目立つのも特徴的です。
また、近年の少子化の影響を受け、事業承継時期が最近になるほど親族の割合が減り、社外の第三者への承継が増えています。
承継の方法・後継者を検討する際の参考データとして、ご確認ください。
6. 事業承継にかかる必要期間
事業承継にはどの程度の期間がかかるものなのでしょうか。
どんな方法で事業承継を行うかによって変わりますので、把握しておきましょう。
▼ 事業承継の期間
親族内承継(後継者が社内の場合) |
7〜10年 |
親族内承継(後継者が社外の場合) |
3〜5年 |
役員・従業員などへの承継 |
3〜5年 |
M&A(第三者への承継) |
1年以内 |
事業承継は、親族や役員・従業員を後継者とする場合には、後継者の育成期間が必要なため3年〜10年と長期間にわたって取り組む必要があります。
逆にM&Aの場合、買収相手の探索から事業承継完了までは1年以内が一般的です。
以上を踏まえて、事業承継が必要となる時期から逆算して早めに準備をスタートすることが大切です。
7. 事業承継の流れ
実際、どのように事業承継の準備を進めれば良いか、事業承継を実践する全体の流れを5ステップでご紹介します。
ステップ1:現在の経営状況を把握する |
7-1. ステップ1:現在の経営状況を把握する
1つめのステップは「現在の経営状況を把握する」です。
まずは現状を把握し、事業承継後も事業を維持・成長させていくことが可能な経営状況になっているのか、確認しなければなりません。
「事業・資産・財務」の3つのポイントを見える化し、利益を確保できる仕組みになっているか、高い競争力を持っているかなどをチェックします。
具体的には、以下の点を重点的に把握していきましょう。
7-2. ステップ2:経営体制を整備する
2つめのステップは「経営体制を整備する」です。
ステップ1で見つかった課題の解決を中心に、経営体制を見直して整備しましょう。
なぜなら、後継者候補の目に魅力的な企業として映らなければ、事業承継したいという人は現れないからです。
事業承継に向けて会社の運営体制を整え、企業価値を高めることが、会社の魅力を高める「磨き上げ」につながります。
7-3. ステップ3:承継の方法・後継者を選定する
3つめのステップは「承継の方法・後継者を選定する」です。
誰に・どのようにして事業承継するか、具体的に検討していきます。基本的には、前述のとおり【親族内承継 > 役員・従業員などへの承継 > M&A】の優先順位で検討するのがおすすめです。
方法 |
候補 |
親族内承継 |
子、配偶者、子の配偶者、その他の親族 |
役員・従業員などへの承継 |
共同創業者、役員、優秀な若手経営陣、工場長・店長など |
M&A(第三者への承継) |
取引先、同業者、その他の第三者 |
後継者を決める際のポイントは、事業を継続・成長させていける人材を「経営ビジョン・覚悟・意欲・実務能力」などの視点から選ぶことです。
なお、M&Aによる会社の売却価格を知りたい場合には、中小企業庁の「M&Aにおける会社の売却価値を試算してみましょう!」に掲載されているテンプレートで試算できます。
判断材料のひとつとして、活用しましょう。
7-4. ステップ4:事業承継計画を作成する/またはM&Aの手続きを進める
4つめのステップは「事業承継計画を作成する/またはM&Aの手続きを進める」です。
ステップ3で親族・役員・従業員などへの承継を決めた場合には事業承継計画の作成に、M&Aを決めた場合にはM&Aの手続きに進みます。
事業承継計画を作成する(親族・役員・従業員などに承継する場合)
事業承継計画では、会社の10年後を見据えて経営方針と行動計画を策定します。
具体的な事業承継計画のイメージはこちらです。
中長期的な計画を立てることで事業承継を成功させやすくなることはもちろんですが、事業承継計画には、もうひとつの意味があります。
それは、事業承継税制の特例措置を受けるために、事業承継計画が必要になるのです。
事業承継税制とは、円滑化法に基づく認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です(参考:国税庁)。
贈与や相続による事業承継を検討している場合には、ぜひ活用しましょう。詳しくは以下の記事をご覧ください。
▼ あわせて読みたいおすすめ記事
新・事業継承税制とは|概要や要件、メリット・デメリットを徹底解説!
M&Aの手続きを進める(M&Aで承継する場合)
M&Aで事業承継する場合には、M&Aの手続きを進めます。M&Aのマッチングに向けた流れは下図のとおりです。
M&Aを仲介する業者と契約を結び、事業承継先を選定して、M&Aを進めて行きます。仲介する業者を選ぶ際には、以下のポイントをチェックしてください。
▼ 仲介者などを選ぶときのチェック項目
●双方の間に立つ 「仲介」 の場合、中立性、公平性をもって双方に接することをしっかりと説明しているか。
●業務の範囲 (相手方の探索のみ行い、マッチングまで行う等、助言の範囲 (事業価値算定、交渉、スキーム立案) 等を明確、かつ、具体的に説明しているか。
●着手金や報酬の料金体系を明らかにし、支払い条件等がある場合は明確に説明を行っているか。
なお、 国のM&A支援機関として「事業引継ぎ支援センター」があります。
事業引継ぎ支援センターは全国47都道府県に設置されており、M&Aに関する窓口相談やマッチング支援などを行っています。
民間の仲介業者に依頼する場合でも、セカンドオピニオンとして事業引継ぎ支援センターにも相談しておくのがおすすめです。お近くのセンターは事業引継ぎ支援センター一覧からご確認ください。
7-5. ステップ5:事業承継を実行する
5つめのステップは「事業承継を実行する」です。
ステップ4で策定した事業継承計画、あるいはマッチングによって選定した事業承継の相手との条件に沿って、資産の移転や経営権の移譲を進めていきます。
実際にはさまざまな専門家の支援が必要になりますので、早めに専門家に相談しながら進めましょう。
8. 事業承継を成功させるコツ
事業承継を成功させるためには、どんなポイントを押さえておけば良いのでしょうか。ここでは3つのコツをご紹介します。
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8-1. 準備に着手する段階で早期に税理士に相談する
1つめのコツは「準備に着手する段階で早期に税理士に相談する」ことです。
というのも、事業承継で大きな失敗・後悔が起きやすいのは、税金面といえます。
例えば、贈与・相続により承継する場合には、資産状況によっては多額の贈与税・相続税が発生することがあります。
後継者に贈与税・相続税を納税する資金力がない場合には、あらかじめ税負担が軽くなる事業承継の方法を、税理士と相談しなければなりません。
さらに、事業承継を円滑にする税務上の特例は多岐にわたります。
適用できる特例を把握し、最新の税制改正も反映して、最適な事業承継のやり方を検討するためには、事業承継の準備に取りかかる前の段階で税理士に相談し、税理士と一緒に準備を進めていくようにしましょう。
横浜近郊であれば、当事務所にお気軽にご連絡ください。こちらのメールフォームからご相談を受け付けています。
8-2. 年単位の長い時間をかけて準備に取り組む
2つめのコツは「年単位の長い時間をかけて準備に取り組む」ことです。
後継者の育成機関を含めれば、事業承継には5年〜10年の期間がかかるのが通常です。
つい先送りされがちな事業承継の準備ですが、どんな経営者でも、必ず引退のときは来ます。
引退が想定される年齢の10年前までには、事業承継に着手しておきましょう。
まったく手つかずの状態で放置していると、後継者を確保できない・経営者の急な病気など、不本意な形で廃業に追い込まれるケースもあります。
経営者として有終の美を飾るためにも、事業承継には年単位の時間をかけて取り組みましょう。
8-3. 経営理念や想いの承継に注力する
3つめのコツは「経営理念や想いの承継に注力する」ことです。
事業承継というと、どうしても法的・税務的な手続きや経営権・資産の承継に重点が置かれがちです。
もちろん重要なポイントには違いありませんが、一方で経営者の持つ理念や想いを後継者にしっかり引き継ぐことを忘れてはなりません。
事業承継の成功を、ただ承継の手続きを完了させることではなく、“承継したあとの事業が成長し続けること”と定義するなら、理念や想いこそ事業承継の成功には欠かせません。
表面上の承継ではなく、理念や想いという本質ごと継承することができれば、あなたの企業は後継者のもとでより大きく成長していくはずです。
9. 事業承継の注意点
最後に、事業承継の注意点を2つ、お伝えします。
9-1. 事業承継にはお金がかかる
1つめの共通点は「事業承継にはお金がかかる」です。
事業承継前には会社の磨き上げのための投資資金、承継時には相続税や贈与税の納税資金、承継後には経営改善や経営革新を図るための投資資金──といった具合に、事業承継で必要になるお金はさまざまです。
実際に必要になる金額は事業によって異なりますので、事前に金額を試算し、必要な額を資金調達しておくことが大切です。
9-2. 不明な点は各分野の専門家の支援を受けて解決する
2つめの共通点は「不明な点は専門家の支援を受けて解決する」です。
ここまでご覧いただくとわかるとおり、事業承継の範囲は多岐にわたるため、不明点を自力で解決するのは困難です。
各分野の専門家のサポートを受けながら事業継承を実践していきましょう。具体的な相談先としては、以下をご覧ください。
▼ 支援機関のご案内
●事業引継ぎ支援センター
後継者不在の中小企業の事業引継ぎを支援するため、平成23年度に設置された事業引継ぎの専門の支援機関です。
全国の事業引継ぎ支援センターでは、事業承継に関する幅広いご相談への対応やM&Aのマッチング支援を行っています。
【連絡先】
事業引継ぎ支援センター一覧 http://shoukei.smrj.go.jp/
●中小企業再生支援協議会
事業再生を目指す中小企業を支援するための専門機関です。 財務上の問題解決、事業の収益性向上など事業再生に係るご相談への対応、再生計画の策定サポートなど事業再生支援を行っています。
【連絡先】
中小企業再生支援協議会一覧
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/leaflet/-2015/05saiseialLpdf
●中小企業基盤整備機構(中小機構)
経済産業省所管の独立行政法人で、国の中小企業施策の総合的な実施機関です。
【連絡先】
中小企業基盤整備機構TEL:03-3433-8811 http://www.smrj.go.jp/index.html
●よろず支援拠点
中小企業・小規模事業者の経営に関するご相談に対して専門的な見地からアドバイスを行う 「ワンストップ相談窓口] として、平成26年度に全国の都道府県に設置されました。
【連絡先】
よろず支援拠点一覧 http://www.smrj.go.jP/yorozu/087939.html
●中小企業庁、経済産業局
中小企業庁、経済産業局は、地域の支援機関や自治体等と連携しながら、事業承継支援施策の普及・啓発等をはじめ、中小企業・個人事業主の事業承継の円滑化のための総合的な施策を進めています。
【連絡先】
中小企業庁 TEL:03-3501-1511 (代) http://www.chusho.meti.go.jp/
経済産業局 http://www.meti.go.jp/intro/data/a240001j.html
●商工会議所・商工会
経営指導員が巡回指導等を通じて中小企業・個人事業主の経営サポートを実施しています。
【連絡先】
全国の商工会議所 http://Www5.cin.or.jp/ccilist
日本商工会議所 TEL:03-3283-7917 http://www.jcci.or.jp/
都道府県商工会連合会 http://www.shokokai.or.jP/?page_id=1754
全国商工会連合会 TEL:03-6268-0088 http://www.shokokai.or.jp/
●金融機関
金融機関は、中小企業に日常的に接して経営状況を把握しており、中小企業に対してきめ細やかな経営支援等を実施します。
セミナー等による情報提供、事業承継に係る専門家の紹介、M&Aマッチングの実施、資金需要への対応などを行います。
●税理士
税理士は、中小企業、個人事業主の税務支援などを通じて、日常的に関わりが深い税金の専門家です。 相続税に関する助言や株価の評価、生前贈与のやり方や種類株式の発行に関する助言、中小企業会計要領・中小企業会計指針の導入支援等、事業承継に関係する幅広いサポートが受けられます。
全国に15の税理士会があります。
【連絡先】
日本税理士会連合会 TEL:03-5435-0931 (代) http://www.nichizeiren.or.jp
●弁護士
弁護士は、民法や会社法、税法など法律のスペシャリストです。 経営者の代理人として、人金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・交渉や調整を行います。
M&Aでは、法律面全般の検討課題の洗い出し、それらを踏まえたスキーム全体の設計、契約書をはじめとする各種書面作成といった支援を行います。
身近に相談できる弁護士がいない方は、中小企業に関する相談受付窓口の 「ひまわりほっとダイヤル」 にお電話ください。
最寄りの弁護士会の弁護士を紹介いたします。 相談料は原則初回30分無料(一部地域を除く)です。
【連絡先】
日本弁護士連合会 TEL:03-3580-9841 (代) http://www.nichibenren.or.jp
【中小企業に関する相談受付窓口】
ひまわりほっとダイヤル TEL:0570-001-240 http://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/
●公認会計士
公認会計士は、 監査および会計の専門家として、財務書類の監査証明業務のほか、財務に関する調査や相談に応じています。
経営の見える化、磨き上げといったプレ承継のサポートをはじめ、株式評価、M&Aでの売却価格試算、経営者の個人保証の解除、中小企業会計要領や中小会計指針など会計制度の導入に係る支援が受けられます。
【連絡先】
日本公認会計士協会 自主規制・業務本部 中小事務所・租税・経営グループ
TEL:03-3515-1160 http://www.hp.jicpa.or.jp-・=¥-」v23
●中小企業診断士
中小企業診断士は、中小企業支援法に基づき、中小企業のホームドクターとして、様々な経営課題への対応や経営診断等を行います。
事業承継診断やプレ承継支援、事業承継計画の策定支援、後継者教育支援、磨き上げ支援、ポスト承継支援のほか、M&A等に関わるサポートなども行います。
【連絡先】
中小企業診断協会 TEL:03-3563-0851 (代) http://www.j-smeca.jp
●全国中小企業団体中央会
全国中小企業団体中央会は、会員数2万7.000を超える同業種組合です。
事業承継に関するセミナーの開催等を通じて、経営者への情報提供、後継者がいない中小企業への支援機関の紹介などを行っています。
【連絡先】
全国中小企業団体中央会 TEL:03-3523-4901 (代) http://www.chuokai.or.jp/
●経営革新等支援機関認定
中小企業等経営強化法に基づき、専門性の高い中小企業支援を行うために認定された支援機関です。 税理士・弁護士、金融機関、商工会・商工会議所、民間企業などがその担い手となっています。
税務、財務、資金に関する支援を中心に、経営の見える化、磨きエ上げなどをサポートします。
【連絡先】
経営革新等支援機関認定一覧 http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/kyoku/ichiran.htm
10. まとめ
事業承継とは、すべての経営資源を現経営者から後継者に引き継ぐことです。
経営権から資産まで、事業に関する一切を承継することを事業承継と呼びます。
少子高齢化が進む昨今、円滑な事業承継によって、後継者さえいれば廃業せずに済む事業を継続させていくことは、日本経済を支える意義にもつながります。
事業承継のメリットとして以下が挙げられます。
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事業承継のデメリットとして以下が挙げられます。
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事業承継で引き継ぐ対象となる構成要素は次のとおりです。
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事業承継の方法には3つの方法があります。
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事業承継にかかる必要期間は、M&Aなら1年以内、それ以外の方法では3年〜10年です。
事業承継の流れは以下のとおりです。
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事業承継を成功させるためのコツはこちらです。
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事業承継においては以下の2つの点に注意してください。
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もし将来的に少しでも事業承継を考えているのであれば、ぜひ今から準備を始めましょう。
事業承継の準備の着手に、早すぎるということはありません。
まずは「7. 事業承継の流れ」でご紹介した流れに沿って、現在の経営状況の把握から進めていきましょう。
経営状況の把握をどこから着手して良いかわからない場合には「ビジョン式「月次決算書」 」がおすすめです。詳しくは、以下のページをご覧ください。