短期前払費用の特例とは、「要件を満たした前払費用を、即日損金(経費)にできる特例」のことです。
適用初年度は2年分の前払費用を経費化することができるため、節税対策のひとつとしてもよく挙げられます。
しかし、この特例を節税に活用することは、あまりおすすめできません。
確かに効果的ですが、初年度しか節税効果がない・資金繰りのリスクが高まる・支払い分を損失する可能性があるなどといったデメリットが多々あり、メリット同様リスクも高いためです。
とはいえメリットをうまく活かせば、緊急で利益を減らしたい経営者の方の強い味方になります。
もしものために覚えておいて、損はない節税対策の一つでしょう!
この記事を読むことで、「短期前払費用の特例」を適用する際の注意点、リスクを踏まえた活用の具体例まで分かります。
ポイントを抑えて、自社にあった適用を目指しましょう!
目次
1 「短期前払費用の特例」とは、「要件を満たした前払費用を、即日損金(経費)にできる特例」のこと
短期前払費用とは文字通り、前払いした日からサービスを受けるまでの期間が短い前払費用です。
この前払費用とは、継続的なサービスを受けるために、契約にもとづいて支払った費用のうち、事業年度内にサービスの提供をまだ受けていない部分です。例えば、家賃や保険料の前払いなどがあります。
前払費用は、原則支払った時点では費用計上できません。
支払時には資産の部に計上し、サービスの提供を受けた時に費用計上します。
ただしこの「前払費用」のうち、支払日から1年以内にサービスの提供を受けるものに限っては、支払った期に費用計上できます。
このことを認めた特例のことを「短期前払費用の特例」と言います。
例えば、地代家賃、生命保険料、リース料、サーバー費用、会費などが挙げられます。
参考:国税庁 短期前払費用として損金算入できる場合
1-1 決算間際でも、初年度は最大2年分の前払費用を一括で経費に落とせる
この特例を適用すると支出時に損金算入(費用計上)できるので、初年度は、今期分+来期分の2年分の前払費用を経費に落とせることとなります。
例)期末に翌年分を家賃(月20万円)を前払いした場合今期分240万円+翌期分240万円=480万円 |
丸々一年分を先取りできるので、今期には2年分の480万円分が地代家賃として費用計上できます。
2「 短期前払費用の特例」は節税にはおすすめできない
例のように、この特例の節税効果が高いのですが、あまりおすすめできません。というのも、初年度は良いのですが、翌年度以降も継続することを踏まえるとリスクが高いからです。
2-1 おすすめできない3つの理由
節税策の一つとして適用を考えている方はもちろんですが、どんな方も適用をする際にはリスクがあることは変わりません。
2-1-1 節税効果があるのは初年度のみ
初年度は2年分払うことになりますが、翌年度以降は毎年1年分の費用前払いするだけなので、節税効果があるのは初年度のみです。
3章で詳しく解説しますが、1度年払いにすると翌期以降も継続が必要という要件があるため、年払いから月払いに変更して、またこの特例を適用して節税効果を得るといったようなことはできません。
2-1-2 まとまった現金が流出して、資金繰りのリスクは高まる。
費用に計上するためには、実際に支払う必要があります。
すると毎年、決算時にはまとまった現金を流出してしまうことになりますので、資金繰りのリスクは高まります。
また当然ですが、決算までにその資金を毎年確保しなくてはならないのは、経営上重荷となることが考えられます。
2-1-3 前払いした相手が倒産した場合、資金が戻らない可能性がある。
前払いしていた相手先の会社が倒産した場合前払いした費用を回収できない恐れがあります。
また、例えば家賃を年払いしたとしたら、年度の途中で移転するといったこともしづらくなるなどのリスクもあります。
2-2 特例を適用する際には、資金繰りと支払先の安全性を考慮しよう!
これらのリスクを踏まえつつも、短期前払費用の特例を活かすには以下のような活用がおすすめです。
・節税として使う場合は、イレギュラーに利益が出て、その年だけ特別に利益を抑えたい時などに使う。
・来年度以降も継続して安全な資金繰りが可能か、税理士などに相談しながら適用する。
・倒産の安全性が高い相手を選ぶ
一度適用すると長期的な付き合いになるので、始める前に税理士等に相談しながら無理がない範囲で進めると良いでしょう。
3 適用に必要な4つの要件
短期前払費用の特例の要件は、規定から読み解く必要があります。
「法人税基本通達2-2-14」
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
またその他の通達から、以下の4つの要件が読み解きました。
ご参考ください。
① 前払費用の要件を満たしていること ② 継続適用であること ③ 支払日から1年以内に役務の提供を受けるものであること ④ 費用の内容が等質・等量であること |
3−1 前払費用の要件を満たしていること
まず前払費用の要件をしっかり抑えておくことが重要です。
3-1-1 契約にもとづいたものであること
前払費用は契約にもとづいて支払わなければなりません。
月払い契約だったものを任意に年払いに変更して支払っても適用されないのです。
例えば家賃を適用するためには、大家さんに交渉し契約書を年払いに変更した上で、支払う必要があります。
3-1-2 継続した役務の提供であること
税法上における「役務の提供」とは、「サービスの提供に対して対価を得るもの」のことです。
なので例えば新聞のような「物品や資産の提供に対して対価を得るもの」の定期購入を年間払いにして前払いしても、前払費用として費用計上することはできません。
参考:国税庁 役務の提供
3-1-3 サービスの提供を受けておらず、実際に支払っていること
当たり前のことですが、サービスの提供を受けた後に支払ったものに対して、前払費用として計上することはできません。
また単に経理上経費として計上しているだけでなく、帳簿上だけでなく現実的にお金を支払わなくてはなりません。未払金処理をして後払いすることはできないのです。
3−2 継続適用であること
一度年払いに変更したら来期以降も継続しなくてはなりません。
月払いから年払いに変えることは可能ですが、年払いから月払いに変えることはできないのです。
というのも、年払いから月払いに変更すると、利益操作のために経理処理を操作していると見なされてしまうためです。
3−3 支払日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
例えば、3月から翌年の5月までの15か月分の家賃を支払う、とったような1年以上先に役務の提供を受けるものに前払いしても、適用されません。
あるいは、4月から翌年の3月までの家賃の支払を2月に支払う、とったような支払日から1年以上先に役務の提供を受けるものに対する支払も適用されません。
毎月、サービスの提供を受けるものは、決算月に支払う必要があるということです。
これらの例の場合は、短期前払費用ではなく、ただの前払費用として処理することになります。
3−4 費用の内容が等質・等量の役務であること
毎月決まった内容のサービスが、決まった分だけ提供されるサービスでなくてはなりません。
家賃や保険料は適用されますが、税理士の顧問料や看板などの広告代が適用されないのはそのためです。
というのも税理士の顧問料は一定ですが、月によってサービスの内容やその量は異なるため当てはまりませんし、広告も同様にどれくらいの人にどのように見られているのか毎月その効果が異なる場合は、等質・等量のサービスと言えないからです。
4 おすすめ度別!適用の 具体例
「短期前払費用の特例」の要件を満たした前払費用は、多々あります。
しかし、来年度以降も無理なく継続していくためには、短期前払費用のリスクを考慮した上で活用可能なものを選ばなければなりません。
そこで、リスクを踏まえたうえで、おすすめ度別に具体例をご紹介します。
4-1 【おすすめ度1】土地や家賃の賃料
どんな企業も支払っている賃料はよく例に挙げられますが、賃料を年払いにするのは避けた方が良いでしょう。可能ではありますが、前払した会社が倒産する可能性や資金繰りを考えるとおすすめできません。
4-2 【おすすめ度2】生命保険料や火災保険料など保険料
種類にもよりますが賃料に比べたらリスクが低く、節税をしながら貯蓄をするといった要素もあります。
ただしリスクが少ないわけではないので、適用には注意が必要です。
4-3 【おすすめ度3】経営セーフティ共済
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)とは、取引先が倒産した際に、必要となる事業資金を担保や保証なしで速やかに借入ができる共済制度です。また取引先が倒産しなくても借入できる「一時貸付金」制度もあります。
短期前払費用を適用には、経営セーフティ共済が最もおすすめです!
というのも、積立額は月5000円から最大20万円まで選べ、途中で増額や減額することができるので無理のなく継続適用できるからです。また掛金は損金に算入できるので節税効果も期待できます。
何より経営セーフティ共済は、国の機関の一つである中小機構が運営しているため安全性が高いという強みがあります。
申込み手続きや詳しい説明は、金融機関、商工会・商工会議所などででうけることができます。
参考:中小機構|経営セーフティ共済
5【注意】知っておきたい!過去、否認されてしまった例
短前払費用の特例の要件は多々あり、当てはまっているのかどうか判断するのは難しいかと思います。
そこで、否認されてしまう例を見て該当していないか確認してみてください。
5−1 売上と利益に対して、占める割合が大きすぎた
短期前払費用の額が最終利益の10倍強であることや、金額自体が多額であったことで過去に認められなかったケースがあります。
金額が多額であることお明確な基準はありませんが、
過去の判例等でいえば、月額300万円×5ヶ月分=1500万円の短期前払費用を認めた国税不服審判所裁決もあれば、販管費全体の5%にあたる短期前払費用が認められなかった東京地裁判決もあります。(その後最高裁で上告棄却、納税者敗訴決定)
業績と短期前払費用の割合には、注意が必要です。
5−2 事業の収益と直接関係する費用だった
借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められません。
例えば、社宅の家賃は事業の収益と関係のある費用に当たります。
同じ家賃であっても、社宅の家賃については費用(支払賃料)と収益(社宅負担分)を対応させる必要があるためです。
5−3 支払った日から一年以上超えたものまで支払ってしまった
例えば3月決算の法人が、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払った場合です。
これは役務の提供時期(4月から翌年3月)が、支払時(毎年2月末)から1年を超えるため特例には適用されません。
支払日から1年以内に役務の提供をうける必要があるため、毎月のサービス提供をうける役務の場合は決算月に支払わなければなりません。
まとめ
「短期前払費用の特例」を適用する際には、以下4つの要件を満たす必要があります。
① 前払費用の要件を満たしていること
② 継続適用であること
③ 支払日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
④ 費用の内容が等質・等量であること
短期前払費用の特例は初年度のみ節税対策を得られますが、翌年度以降にはありません。
また1年分の支払額はそれなりに大きい支払になりますので、活用する際に資金繰りにご注意ください。
適用の際にはキャッシュフローの確認を含め、税理士に相談することをおすすめします。
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