被相続人が老人ホームに入居していた場合の特定居住用宅地等の適否判定

特定居住用宅地等とは小規模宅地等の特例の一つで、被相続人(亡くなった人)の自宅の敷地に対して適用する制度です。
亡くなる直前に老人ホームの入居していた場合、以前の法律では特定居住用宅地等を適用できませんでした。

しかし法律改正により、一定の要件を満たせば老人ホームに入居している場合でも特例が適用可能になりましたので、適用要件と注意点についてご説明します。

特定居住用宅地等を適用する際の相続人の要件

特定居住用宅地等を適用する場合には、被相続人と対象物件を相続する相続人の要件がそれぞれあります。
また財産取得者の種類は3つに分類され、各取得者で適用要件は異なります。

財産取得者の種類

配偶者が特定居住用宅地を適用する場合

配偶者が特定居住用宅地を適用する場合の取得者の要件は、対象物件の相続のみです。
そのため配偶者は、被相続人が自宅の敷地として利用していた土地を相続すれば、特定居住用宅地等は適用できます。

同居親族が特定居住用宅地等を適用する場合

同居親族が特定居住用宅地等を適用する場合の要件は3つです。

同居親族が適用する場合の要件

  • 対象物件を相続
  • 相続開始時点で被相続人と同居していたこと
  • 相続税の申告期限まで引き続き居住し、所有していること

いわゆる「家なき子」が特定居住用宅地を適用する場合

家なき子が特定居住用宅地を適用する場合の要件は5つです。

同居親族が適用する場合の要件

  • 対象物件を相続
  • 相続税の申告期限まで所有していること
  • 被相続人と同居している親族がいない
  • 配偶者がいない
  • 自分または親族等の持ち家が無い

被相続人が老人ホームに住んでいる場合の要件

次に被相続人が、老人ホームに住んでいる場合の定居住用宅地等の要件をご説明します。

要介護認定または要支援認定を受けている

要介護認定または要支援認定(以後、要介護認定等)とは、介護が必要な状態や日常生活をする上で、支援が必要と認められた場合をいいます。
要介護認定等は市区町村に申請し認定してもらう制度で、認定調査員や主治医等の意見に基づき判定が行われます。

また特定居住用宅地等を適用する際に、認められている要介護認定等は以下の4種類です。

要介護認定等の種類

  • 要介護認定
  • 要支援認定
  • 基本チェックリスト
  • 障害支援の区分認定

特別養護老人ホーム等に入居していること

特定居住用宅地等を適用可能となる老人ホームは、老人福祉法等に規定する介護施設です。

老人福祉法等に規定する主な介護施設

  • 養護老人ホーム
  • 特別養護老人ホーム
  • 有料老人ホーム
  • 介護老人保健施設

なお上記の施設に入居している場合でも、必要な届出を行っていない施設は特定居住用宅地等の対象外ですのでご注意ください。

老人ホーム入居後に自宅を貸家にしてはいけない

被相続人が老人ホームに入居後、対象物件を事業用として利用した場合、特定居住用宅地等は適用できません。
また被相続人が老人ホームに入居後、生計を別にする親族が居住用として利用した場合も特例対象外です。

なお被相続人の同居親族は、被相続人が老人ホームに入居後も引き続き住んでも問題ありません。

老人ホームに入居した際の特定居住用宅地等の適否判定

被相続人が老人ホームに入居した際の特定居住用宅地等の適用について、ケースごとにご説明します。

老人ホームに入居後自宅が空き家になる場合

被相続人が老人ホームに入居後、空き家状態で相続開始した場合でも、財産取得者の相続人が特例要件を満たせば特定居住用宅地等は適用可能です。

老人ホーム入居後に自宅を貸し付けた場合

被相続人が老人ホームに入居後、自宅を貸付用として利用した場合には、特定居住用宅地等は適用できません。

被相続人と生計を一にする親族が自宅として利用した場合

被相続人の自宅を被相続人と生計を一にする親族が、自宅として利用する場合でも特定居住用宅地等は適用可能です。
なお「生計を一」とは、日常の生活資金が一緒であることをいい、別居家族でも生活費が一つの財布から工面されている場合には「生計を一」となります。

被相続人と生活を別にする親族が自宅として利用した場合

被相続人と生計を別にする親族が、老人ホーム入居後自宅として利用した場合には、特定居住用宅地等は適用できません。

老人ホームを退去して別の物件に居住した場合

特定居住用宅地等は、相続開始直前まで自宅として利用していた敷地が対象であり、自宅は1か所しか認められません。
被相続人が老人ホームに入居した後に被相続人が別の物件に移り住んだ場合、移り住んだ先の物件が亡くなる直前においての自宅とみなされます。

したがって、元々自宅として利用していた物件に対して、特定居住用宅地等は適用できません。

特定居住用宅地等を適用する場合の注意点

特定居住用宅地等を適用する場合、相続税の申告書や添付書類の提出が必要です。
また申告期限を過ぎると、特例が適用できなくなりますのでご注意ください。

相続税の申告は相続開始から10か月以内に行うこと

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です。
小規模宅地等の特例は、相続税の申告書を提出してはじめて適用が認められます。
そのため小規模宅地等の特例を適用する場合には、相続税の申告期限内に手続きを完了させる必要があります。

相続財産の遺産分割協議が完了していること

相続税の特例制度の多くは、遺産分割協議が完了していることが要件です。
小規模宅地等の特例も遺産分割協議書が成立していることが必要であり、未分割の状態で特例は適用できません。

ただし相続税の期限内申告書を提出する際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すれば、未分割の状態であっても遺産分割協議が完了した後に特例を適用できます。
なお遺産分割完了後に特例を適用する場合には、遺産分割協議成立から4か月以内に手続きが必要です。

申告書に添付する老人ホームの書類には要注意

老人ホームに入居したケースで特定居住用宅地等を適用する場合、相続税の申告書に以下の書類を添付しなければなりません。

老人ホームで別途添付が必要にある書類

  • 要介護認定等に該当することを証明する書類
  • 相続開始時点で該当する老人ホーム等に入居していることを証明する書類

小規模宅地等の特例を適用する場合は相続開始時点の法律を確認すること

相続税の法律は毎年改正が行われており、同じ特例でも昔と現在では要件が異なるケースがあります。
また相続税の申告をする際に適用する法律は、相続開始時点のもので判断します。
そのため相続開始時点の特例要件に基づき、適否判断をしなければなりません。

なお相続税専門の税理士事務所であれば、小規模宅地等の特例以外の節税制度を含めた相続税対策が可能です。
そのため小規模宅地等の特例を適用する際には、一度税理士事務所に相談してください。