相続トラブルを回避するための遺言書

遺言書は相続トラブルを回避するための有効なツールとなります。
中には「うちにはトラブルになるほど多額の財産はないから大丈夫」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、金額の大小にかかわらず、相続トラブルは発生しています。

今回は、特に遺言書を作成しておいた方が良いケースについてお伝えしたいと思います。

「争続」にならないための遺言書

遺言書とは、被相続人が最後に思いを伝えるために、亡くなったあとで相続人がモメないように財産を「誰に」「どの財産を」相続させるか書面で明らかに示したものです。

相続人同士でトラブルにならないようにするには必要なものです。
遺言書がない場合には、「誰が」「どの財産を」相続するかは、相続人全員で話し合って決めなければなりません。
この話し合いを「遺産分割協議」と言います。

ときより遺産分割協議では、相続人の思惑があり、相続財産をめぐって争うケースになる場合もあります。
「相続」が「争続(争族)」となってしまします。

司法統計によると平成28年度の家庭裁判所における遺産分割事件の総数は12,188件となっており、15年前の平成13年度の事件総数9,004件と比べて約35%増加しています。

しかも、遺産総額が5,000万円以下の相続でモメたケースが多いようです。

遺産総額が5,000万円以下ですと財産が自宅と預貯金だけといケースが多く、相続人が均等に分割することが難しくトラブルが起きてしまいがちです。

このような家事事件に発展しないよう、あらかじめ被相続人の意思を明確にするとともに、「献身的に介護をしてくれた者に財産を多く相続させる」などの思いを付言しておくことも有用です。

仲良し家庭なら遺言書は、いらない?

「円満な家庭だから遺言書はいらない」という考え方も適切とはいえません。
実際に遺産分割協議が始まると意外にモメたというケースは多いものです。
たとえば、不動産や自社株など分割が困難な財産があったり、生前に子供のうちの1人だけが住宅資金の援助を受けていたりするケースもあります。
最初は、法定相続分どおり分割すれば問題ないと思っていても、実際には公平な分割が難しいケースは頻繁に生じます。

遺言書を作っておいた方が良いケース

以下では特に遺言書を作成しておいた方が良いケースを紹介しましょう。

特定の者に遺産を引き継がせたい場合

事業を営んでいる人であれば、後継者に円滑に事業を引き継いでもらう必要があります。
たとえば、個人商店であれば店舗や事業用設備などを後継者だけに配分したり、法人事業であれば自社株を後継者に集中させたりする必要が生じます。

その際には遺言を活用して、財産の種類や金額の配分などを調整するとともに、自身がどのような意図で各相続人の相続財産を決定したのかを明確にすることも有用となります。

一定の条件のもと相続や遺贈をしたい場合

単に後継者に遺産を集中させる場合だけでなく、たとえば、妻の老後の面倒を見てくれることを条件に長男に対して自宅を相続させるなど、一定の条件を付した相続や負担付贈与を行う場合にも遺言を活用することができます。
また、不動産のうち農地であれば、農業を継続してくれる人にだけ相続や遺贈を行うといったケースも考えられます。

法定相続人以外に遺産を引き継がせたい場合

内縁の妻は法定相続人にはなれませんが、実質的に婚姻状態にあって支え合って人生を歩んできたというケースや生活資金を拠出しているというケースも考えられます。
このような内縁の妻に対して一定の財産を分け与えるために遺言を活用することも想定されます。

また、妻だけで子供がいない場合、兄弟姉妹が法定相続人となる可能性があります。
兄弟姉妹は独立して生活している一方、妻の生活は夫である自分に依存しているケースでは、妻にすべての財産を分け与えたいこともあると思います。
兄弟姉妹には遺留分がありませんので、遺言に活用することで、そのような配分も実現することが可能となります。

その他には、「生前に面倒を看てくれた長男の嫁や近所の人に財産を残したい」や「公益法人に寄付したい」なども遺言を活用して相続させることが可能です。

前妻の子供がいる場合

前妻の子供がいる場合、その子供は法定相続人となります。
もし、遺言を残していなければ、現在の妻や子供が、これまで会ったことのない前妻の子供と遺産分割協議をする必要が生じます。
こうした事態を避けるため遺言を活用して円滑な財産の配分を図ることも考えられます。

推定相続人が行方不明の場合

遺産分割協議は原則として相続人の全員が参加して行う必要があります。
もし、推定相続人のうち音信不通になっている者がいる場合、遺産分割協議が思うように進まないことが考えられます。
そのため、遺言を活用して行方不明となっている推定相続人を除外した上で相続財産を配分するという方法も想定されます。

以上のように、遺言の活用により無用なトラブルを防止することが可能となります。

ただし、遺言の作成方法によっては具体性を欠いたり、相続人の遺留分を侵害することで遺留分減殺請求の原因となったりすることもあり得ます。

遺言の作成には専門家のアドバイスを求めるのが正攻法といえるでしょう。