小規模宅地等の特例の注意点。適用できない土地をケースごとに解説!

小規模宅地等の特例は、土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
相続税の特例の中でも節税効果は高く、相続財産に土地がある場合は必ず適用を検討すべきです。
ただ、すべての土地に対して利用できる制度ではありませんので、本記事で小規模宅地等の特例を適用できないケースについて解説します。

小規模宅地等の特例を適用する際の必須要件

小規模宅地等の特例は4種類あります。
特例を適用するためには、各制度の要件を満たす必要がありますが、共通する要件もありますのでご説明します。

小規模宅地等の特例の種類

  • 特定居住用宅地等
  • 特定事業用宅地等
  • 特定同族会社事業用宅地等
  • 貸付事業用宅地等

相続税の申告期限まで遺産分割協議を完了させること

小規模宅地等の特例は、相続税の申告期限までに、特例適用者が対象物件を取得している必要があります。
そのため特例要件に該当する場合でも、未分割の状態で小規模宅地等の特例を適用することはできません。
ただ未分割の状態でも、申告書と一緒に所定の書類を提出し、申告期限から3年以内に分割完了した場合には、分割完了後に申請することで特例適用が可能となります。

対象物件は相続税の申告期限までに保有していること

特例適用の対象となる土地は、相続税の申告期限まで保有する必要があります。
申告期限までに対象物件を売却や贈与などにより土地を手放した場合、特例は適用できません.。
また相続税の申告書を提出しても、申告期限までは保有しなければならず、申告後に土地を処分した場合は、特例を適用しない申告書(期限内であれば訂正申告書)を提出する必要があります。

特定居住用宅地等を適用できないケース

特定居住用宅地等は、被相続人が住んでいた自宅に適用できる小規模宅地等の特例であり、
330㎡までの土地の評価額を、80%減額できます。
ただ被相続人と一緒に住んでいた人向けの制度であるため、別居している相続人が特例を適用するのは難しいです。

同居親族がいる状態で別居親族が取得してはいけない

別居親族が自宅を相続する場合でも、取得する人が家なき子に該当するケースにおいては、特例を適用できる可能性もあります。
しかし被相続人と同居していた親族がいる場合は、家なき子が自宅を取得しても特例は適用できません。
したがって被相続人と一緒に住んでいた相続人が、自宅を取得し、特定居住用宅地等を適用してください。

申告期限よりも前に別物件へ転居してはいけない

特例適用要件を満たしている相続人が自宅を取得しても、相続税の申告期限より前に別物件に移り住んだ場合、特定居住用宅地等は適用できません。
そのため被相続人の自宅に継続して住む相続人が、対象物件を取得するのが望ましいです。
なお被相続人の配偶者が自宅を取得する場合の適用要件は、同居親族が取得する場合と異なります。
配偶者の特例要件は、自宅を取得することのみであるため、相続開始してから自宅に住まなくなっても特例を適用できます。

相続開始直前に被相続人が自宅に住んでいなかった

特定居住用宅地等は、相続開始直前に被相続人の住んでいた自宅が対象です。
長らく住まいとして利用していた自宅でも、被相続人が相続開始直前に住まいを移し、空き家となった自宅は、特例適用の対象外となります。
なお自宅に住まなくなった原因が、一時的な入院や老人ホームへの入居の場合には、今まで住んでいた自宅に対して、特定居住用宅地等を適用できます。
その際、相続税の申告書に一時入院のである理由や、老人ホームへの入居を証明する書類の添付する必要がありますのでご注意ください。

特定事業用宅地等を適用できないケース

特定事業用宅地等は、被相続人が事業を営んでいた場所の敷地として利用してた土地が対象です。
特例適用の限度面積は400㎡、評価額の減額割合は80%と、小規模宅地等の特例の中でも特に節税効果の高い制度ですが、事業承継する人が対象物件を取得しないと特例は適用できません。

被相続人の営んでいた事業を申告期限前に廃業してはいけない

特定事業用宅地等は、被相続人の営んでいた事業を承継することが要件です。
そのため対象物件を取得しても、被相続人の事業を廃業したり、引き継がない場合には、特例を適用できません。

被相続人の事業が不動産貸付業の場合は適用不可

特定事業用宅地等の対象となる事業は、不動産貸付以外です。
したがってアパート経営や、貸付駐車場の敷地として利用していた土地に、特定事業用宅地等は適用できません。
なお不動産貸付用の土地は、特定事業用宅地等ではなく、貸付事業用宅地等の対象となります。
貸付事業用宅地等の限度面積と減額割合は、特定事業用宅地等よりも節税効果が低いため、適用する土地の選択には注意してください。

特定同族会社事業用宅地等を適用できないケース

特定同族会社事業用宅地等は、同族会社の事業用敷地として使用している土地が対象の特例で、限度面積400㎡、減額割合80%と特定事業用宅地等と同様の節税効果があります。
しかし対象物件を取得する人が、同族法人の役員になることが前提となりますので、適用する相続人を選びます。

同族会社の役員ではないと特例は適用できない

特定同族会社事業用宅地等を適用する人は、相続税の申告期限において、同族会社の役員でなければいけません。
そのため対象物件自体の適用要件は満たしていても、同族会社の経営に携わらない相続人が取得した場合には、特例を適用できません。

同族会社の事業が不動産貸付業の場合も適用不可

特定同族会社事業用宅地等は、同族会社が不動産貸付業以外の事業を行っていることが要件です。
そのため同族会社が不動産貸付業の場合は、特例を適用できませんが、同族法人への貸し付けている土地は、貸付事業用宅地等の対象となります。

貸付事業用宅地等を適用できないケース

貸付事業用宅地等とは、貸付駐車場やアパート経営している土地を対象とした特例で、限度面積200㎡、減額割合50%と他の制度に比べると節税効果は控え目です。
また貸し付け内容によっては、特例を適用できないケースもあります。

低額貸付の土地は特例の対象外

事業規模が小さくても、相場相当の金額で貸し付けている土地は、貸付事業用宅地等の対象です。
しかし貸し付けが一時的なものや、固定資産税程度の低い金額で貸し付けている土地に特例は適用できません。
また貸付アパートのうち、被相続人が大家として住んでいる部分や、家族が無償で住んでいる部分は、貸付事業用宅地等の対象から除かれます。

一定期間空室になっている部分は特例の対象外

相続開始時点で一時的な空室や、契約がない空き駐車場は、事業用として使用する意思がある場合には、特例対象の土地とみなされます。
しかし空室状態が一定以上続いている場合には、その部分は貸付用とはみなされず、特例は適用できません。

特例を適用する際は申告と書類の提出が必要

小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告書を作成し、必要書類を揃えて税務署に提出しなければなりません。
申告漏れや必要書類に不備があると、特例を適用できない可能性もあります。
相続税の申告書作成は難しいですので、特例要件や必要書類についてご不明点がありましたら、お気軽にビジョン税理士法人へお尋ねください。