小規模宅地等の特例は法定相続人以外の人でも適用できるのか

相続税の計算で使用する特例や控除は、基本的に相続人を対象としており、相続人以外の人が財産を取得した際は、適用対象から外れることが多いです。
しかし小規模宅地等の特例は、相続人以外の人が土地を取得した場合でも特例を適用できるケースがありますので、要件などについて解説します。

法定相続人以外の人が小規模宅地等の特例を適用する際の前提条件

小規模宅地等の特例には4種類の制度が存在し、種類によって適用要件は異なります。
ただ4種類に共通する要件もありますので、最初にご説明します。

4種類の小規模宅地等の特例

  • 特定居住用宅地等
  • 特定事業用宅地等
  • 特定同族会社事業用宅地等
  • 貸付事業用宅地等

小規模宅地等の特例を適用できるのは被相続人の親族

小規模宅地等の特例を適用できるのは、法定相続人ではなく、被相続人(亡くなった人)の親族です。
そのため法定相続人ではない人でも、取得者が被相続人の親族であれば特例を適用することは可能です。
また親族とは、民法第725条(親族の範囲)に規定されている人をいいます。

親族の範囲

  • 配偶者
  • 6親等以内の血族
  • 3親等以内の姻族(姻族とは婚姻により親戚となった人)

たとえば被相続人の従兄弟(いとこ)は、4親等の血族に該当するため、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。
一方、配偶者の従兄弟は4親等の姻族と、被相続人の親族には該当しませんので、特例は適用できません。
また法律上の婚姻関係にない内縁関係者についても、親族には該当しませんので、ご注意ください。
(内縁関係者自身の身分が、親族に該当する場合を除く)

法定相続人以外は相続により財産を取得できない

相続により被相続人の財産を取得できるのは、法定相続人に限られます。
そのため被相続人が遺言により財産を遺贈しない限り、法定相続人以外の人が財産を取得することはできません。
また財産を取得した人が、配偶者および一親等の血族(孫養子を除く)以外の場合には、算出した相続税額に2割上乗せした金額を支払うことになります。

特定居住用宅地等を適用できる法定相続人以外の親族の要件

特定居住用宅地等とは、被相続人等が住んでいた自宅の敷地が対象となる特例です。
330㎡までの土地の相続税評価額を80%減額できますので、一般的な広さの自宅であれば、敷地すべてに対して適用可能です。

配偶者を除く親族が取得した際の特例の適用要件は同じ

特定居住用宅地等を適用できる人は、原則被相続人と同居していた親族で、配偶者を除く法定相続人と、それ以外の親族で適用要件が変わることはありません。
また自宅を取得した人は、相続税の申告期限まで自宅を保有し、引き続き居住している必要があります。
そのため申告期限前に自宅から住処を移したり、自宅を売却した際は特例を適用できません。
(配偶者が取得した場合には、継続所有・居住の要件はありません)
なお別居親族が被相続人の自宅を取得した場合でも、被相続人と同居親族がいないケースに限り、特定居住用宅地等を適用できる可能性があります。
ただその場合には、取得する人および配偶者などの所有する自宅に住んでいないこと(通称:家なき子)が要件となりますので、所有物件に住んでいる場合には特例を適用できません。

特定事業用宅地等を適用できる法定相続人以外の親族の要件

特定事業用宅地等とは、被相続人等が不動産事業以外の事業を営んでいる場合で、その事業用の敷地として利用している際に適用できる特例です。
400㎡までの土地の相続税評価額を80%減額可能であり、小規模宅地等の特例の中でも節税効果の高い制度の一つです。

法定相続人と法定相続人以外で特例の適用要件に違いはない

特定事業用宅地等を適用できるのは、被相続人の事業を承継し申告期限まで事業を継続している親族です。
そのため法定相続人以外の人が土地を取得し、事業承継した場合でも特例適用はできます。
また特定事業用宅地等は、被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族が、事業用として利用していた土地も対象です。
こちらも相続人ではなく、親族が対象となっていますので、相続開始後も引き続き事業を営んでいれば、特例を適用できます。

特定同族会社事業用宅地等を適用できる法定相続人以外の親族の要件

特定同族会社事業用宅地等とは、被相続人の同族会社である法人(不動産事業を除く)が、事業用の敷地として利用していた土地に対して適用できる特例です。
適用面積は400㎡、相続税評価額の減額割合は80%と、特定事業用宅地等と同じ節税効果のある制度です。

同族会社の役員である親族であれば特例は適用可能

特定同族会社事業用宅地等を適用できるのは、相続税の申告期限において土地を使用している同族法人の役員となっている親族です。
そのため他の小規模宅地等の特例と同様、取得した人が法定相続人であるかは関係ありません。
財産を取得した人は、相続税の申告期限までに土地を保有している必要もありますので、申告期限前に土地を処分すると特例の対象外となります。
また特例適用の対象となる同族会社は、被相続人と親族等で過半数の株数を保有している会社です。
親族等の『等』には、親族と特別な関係を持つ者も含まれ、関係法人も特別関係者に該当します。

特別関係者の範囲

  1. 被相続人と事実上婚姻関係と同様の事情にある人
  2. 被相続人の使用人
  3. 被相続人から金銭などによって生計を維持している人
  4. ①~③と生計を一にする親族
  5. 被相続人と親族および①~④で過半数超の株式を保有する法人
  6. 被相続人と⑤で過半数の株式を保有する法人

貸付事業用宅地等を適用できる法定相続人以外の親族の要件

貸付事業用宅地等とは、被相続人等が不動産事業の敷地として土地に対し適用する特例です。
限度面積は200㎡、相続税評価額の減額割合は50%と、他の小規模宅地等の特例と比較すると節税効果は控えめです。

法定相続人と法定相続人以外で特例の適用要件に違いはない

貸付事業用宅地等を適用できるのは、被相続人の貸付事業を承継し相続税の申告期限まで事業を営む親族であり、取得者が法定相続人以外でも特例を適用できます。
また被相続人と生計を一にしていた、被相続人の親族の事業用の敷地も土地も貸付事業用宅地等の対象となりますが、こちらも相続開始前から不動産事業を営んでいたことが要件となります。

法定相続人以外が小規模宅地等の特例を適用する場合のまとめ

小規模宅地等の特例は、適用要件を満たせば、誰が特例を適用しても同じ節税効果を受けられます。
そのため遺贈などにより、法定相続人以外の人が土地を取得した場合でも、特例を適用できる可能性は残され
います。
また小規模宅地等の特例以外にも、節税できる制度はありますので、適用できる特例制度を知りたい場合には、ビジョン税理士法人にお尋ねください。