相続事例
成一さんは、昭男さんの遺品整理を行い、どのような財産があるかメモを取りました。そこに和子さんがやってきました。
成一「父さんの遺産はだいたいメモしたよ」
和子「どれどれ…現金、横浜銀行の普通預金、自宅と貸アパート、あと私が受取人になっている生命保険があるのね」
成一「今からそれぞれの財産の資料を集めて、それをもとにいくらの財産になるか評価しないといけないらしい。あと借金や未払いの料金がないかもちゃんと調べないとね」
財産調査のために必要な資料
昭男さんの財産には次のようなものがあります。
- 現金
- 横浜銀行の普通預金
- 横浜市戸塚区の自宅(土地と建物)
- 藤沢市の貸アパート(土地と建物)
- 生命保険金(受取人は和子さん)
それぞれの財産がいくら(あるいはどのくらい)あるのかは、客観的な資料で確認します。
どのような資料が必要か、財産ごとに見ていきましょう。
現金
必要書類は特にありません。
被相続人の財布や金庫等の中にある、被相続人の現金を数えます。
横浜銀行の普通預金
必要書類
- 残高証明書
- 過去5年分の取引履歴
横浜銀行に連絡して、相続開始の日(亡くなった日)の口座の残高証明書や過去5年分の取引履歴を発行してもらいます。
取引履歴を発行してもらう理由は、過去の取引内容から、相続税申告に必要な情報がないかを確認するためです。
横浜銀行の場合、和子さんや成一さんのどちらか1名の依頼があれば発行の手続きができます。
ただしこの手続きを依頼すると、昭男さんの口座取引が止まってしまうので、月額料金等の引き落とし先への連絡をあらかじめ済ませておきましょう。
残高証明書の発行に必要な書類
横浜銀行の場合、下記の書類が必要です。
- 被相続人の戸籍謄本等(死亡がわかるもの)
- 来店者が相続人であることがわかる戸籍謄本等
- 来店者の実印と印鑑証明書
- 来店者の本人確認書類(運転免許証等)
- 残高証明書の発行手数料
口座があるかどうか確認したいとき
もしキャッシュカードや利息の払込通知などから、「◯◯銀行にも口座がありそう」というときは、その銀行に対して、口座があるかどうかを照会することができます。
照会の結果、口座があることがわかれば、横浜銀行と同じように残高証明書や過去5年分の取引履歴を発行してもらいます。
横浜市戸塚区の自宅(土地と建物)
土地や建物は、路線価や面積などから評価します。
評価を正しく行うために、次の資料が必要です。
必要書類
- 固定資産評価証明書
- 登記事項証明書
- 測量図
固定資産評価証明書
固定資産評価証明書とは、市町村が土地や建物に固定資産税を課すときの基準となる評価額・課税価格を証明するものです。
戸塚区にある自宅の固定資産評価証明書は、横浜市戸塚区役所で取得できます。
交付の手数料は1枚300円です。
登記事項証明書・測量図
登記事項証明書とは不動産登記の内容が記載されたもののことで、測量図とは土地の周辺地図のことです。
横浜地方法務局戸塚出張所等で取得できます。
取得するための手数料は、登記事項証明書が1枚600円、測量図が1枚450円になります。
なお、役所や法務局では、郵送での請求も受付けています。
法務局については、オンライン請求も可能です。
オンライン請求をすると、交付手数料が若干安くなるといったメリットがあります。
あるとよい書類:固定資産税課税明細書
上記の書類を収集する前に見つけておくと役立つのが、「固定資産税課税明細書」です。
固定資産評価証明書や登記事項証明書の請求には、土地の地番や建物の家屋番号が求められます。
わからなければ自分で調べるか、法務局に照会する手間が生じますが、「固定資産税課税明細書」があれば、それにすべて記載されています。
「固定資産税課税明細書」は市区町村から毎年4月に送られてくる固定資産税の納税通知書に同封されている書類です。
遺品から見つけておくと不動産の調査がスムーズになります。
また、相続した不動産の登記を相続人の名義に変更する手続き(所有権移転登記)の際も、「固定資産税課税明細書」があれば、「固定資産評価証明書」の添付はいりません。有料の証明書の代わりになるのも嬉しい点です。
藤沢市の貸アパート(土地と建物)
必要書類
- 固定資産評価証明書
- 登記事項証明書
- 測量図
- 賃貸契約書
固定資産評価証明書
藤沢市役所で取得できます。
登記事項証明書・測量図
横浜地方法務局湘南支局等で取得できます。
固定資産税課税明細書があればスムーズに請求できます。
賃貸契約書
貸アパートならではの必要書類に、入居者との「賃貸契約書」があります。
賃貸契約書では、
- 昭男さんの死亡時に貸アパートがどのくらい賃貸されていたか
- 退去時に返済する敷金や保証金はあるか
ということを主に確認します。
まず、昭男さんの死亡時にどのくらい賃貸されていたかというのは、貸アパートを評価する際に必要となる「賃貸割合」を確認するためのものです。
「賃貸割合」は、賃貸できる独立部分の床面積の合計のうち、相続開始のときに実際に賃貸していた床面積で求めます。
したがって、昭男さんの死亡時に、どの部屋を賃貸していたかは重要です。
また、それぞれの賃貸契約書を見て、入居者から預かっている敷金や保証金の扱いを確認します。もし退去時にその全部や一部を返還するという契約になっていれば、預かっている敷金保証金のうち返還が必要な金額は、被相続人の債務となります。
相続税の計算時に、債務控除に計上できるということです。
賃貸契約書は、貸主・借主が1通ずつ同じものを保管しています。
入居者との賃貸契約業務を管理会社に委託している場合は、管理会社が保管していることもありますので問い合わせましょう。
管理会社がわからないときは、預金口座の取引履歴から、管理料等の名目で毎月引き落とされている料金がないか、あるいは被相続人の帳簿等を見てみましょう。
あるとよい書類:過去の確定申告書の控え
昭男さんのように不動産の賃貸業をされていた方の相続では、過去の所得税の確定申告書やそれに添付されている決算書(貸借対照表等)を見ることで、敷金の有無などを確認することもできます。
準確定申告をするためにも不可欠な書類ですので、できれば控えを見つけるようにしましょう。
見つからない場合は、相続人から税務署に閲覧申請を行うこともできます。
昭男さんの申告先は、戸塚税務署になります。
生命保険金
必要書類
- 保険証券
- 保険金入金の明細
- 保険契約の関係書類
など
保険証券・保険金入金の明細・保険契約の関係書類
保険証券とは、保険会社が発行する券です。
被保険者の氏名などの契約内容などが記載されています。
生命保険金の調査でもっとも重要なのは契約内容です。
特に、
- 保険料の負担者(通常は契約者)
- 被保険者
- 受取人
の三者がそれぞれ誰になっているかは必ず確認します。
昭男さんの保険契約では、契約者と被保険者は昭男さん、受取人は和子さんになっており、保険料は、昭男さんが全額を負担していました。
この場合、和子さんに支払われた保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。
ちなみに保険料負担者が違うと、和子さんが負担する税金も変わります。
被保険者 | 保険料負担者 | 受取人 | 課税関係 |
---|---|---|---|
昭男 | 昭男 | 和子 | 相続税(みなし相続財産) |
昭男 | 和子 | 和子 | 所得税(和子の一時所得) |
昭男 | 成一 | 和子 | 贈与税(成一から和子への贈与) |
生命保険金と遺産分割
生命保険金は、保険契約時に受取人として指定された人の物であるという考え方をします。
そのため、和子さんに支払われた保険金は、和子さんの固有の財産として扱われ、本来は相続財産にあたらない金銭です。
そのため、生命保険金について成一さんと遺産分割をする必要はありません。
しかし、相続税の計算では考え方が異なります。
和子さんが受け取った生命保険金は、昭男さんが負担した保険料が原資ですから、経済的な利益で考えると、和子さんの生命保険金は昭男さんからもらったものと同じです。
よって相続税を計算する上での相続財産には、生命保険金をみなし相続財産として含めなければなりません。
ただし、生命保険金=遺族の生活保障という性質から「500万円×法定相続人の数」まで非課税となります。(第4章、第6章参照)
債務の調査のために必要な資料
借金やローン
相続では、被相続人の負債も引き継がなければなりません。
したがって、財産の調査の際は、同時に被相続人の借金なども調べます。
借金やローンを調べるポイント
- 預金口座から返済のための引き落としがないか見る
- 遺品の中に金銭消費貸借契約書等がないか探す
- 信用情報(CIC、JICC、JBA等)の照会をする
被相続人の債務や葬式費用
亡くなった人が本来支払わなければならなかった料金を相続人が負担した場合、その金額を相続した財産の額から差し引いて相続税を計算することができます。
これを債務控除といいます。
亡くなった人の葬式費用を負担した場合も同様です。
支払ったときは、領収書等をとっておきましょう。
昭男さんの場合、和子さんが負担した以下のものが債務控除・葬式費用になります。
- 昭男さんが入院していた病院の医療費
- 葬儀代
- お寺へのお布施
- 準確定申告で納税した所得税
また、貸アパートに敷金保証金についての債務があれば、預かっている金額が債務控除の対象になります。