相続人がいない場合、その遺産はどうなるの?

相続人が1人もいない場合、亡くなった人の遺産がどうなってしまうのか不思議ですよね。
もし亡くなった人から返してもらわなければならないお金があった人などは、一体どうしたらよいのでしょうか。

今回は、相続人がいない場合の遺産の行方や、必要な人が遺産から弁済を受けるための手続きについて解説します。

相続人がいない場合、最後は国のものに

相続人が1人もいない場合、その遺産は、最終的に国のものになります。

ところがすぐに国のものになってしまうと、亡くなった人にお金を貸していた人や、遺言によって財産を受け取れるはずの人など、困る人が出てきます。
お金を貸していた人などのことを「債権者」、遺言によって財産を受け取る人のことを「受遺者」といいます。

また、相続人ではないけれど「特別縁故者」にあたる人物がいる場合、遺産の一部または全部を受け取る人としてふさわしいと認められることがあります。
こうした関係者の権利を守りながら公平に遺産を清算できるよう、持ち主のいなくなった遺産は、一時的に管理する人が必要です。

相続人がいないときの手続き

相続人がいないときの遺産の清算は、「相続財産管理人」が行います。
「相続財産管理人」は、関係者からの申し立てによって家庭裁判所が選任します。
相続財産管理人が選ばれた後は、遺産の清算手続きが始まります。

清算のおおまかな手順は、次のとおりです。

  1. 相続財産管理人の選任
  2. 選任の公告
  3. 債権者、受遺者を確認するための公告
  4. 債権者、受遺者への弁済
  5. 相続人の捜索の公告
  6. 特別縁故者への財産分与
  7. 国への帰属

遺産を請求できる権利のある人は、自身がどのタイミングで請求できるのかを押さえておくことが大切です。
それでは、各手順を詳しくみていきましょう。

相続財産管理人の選任

まずは「相続財産管理人」の選任からスタートします。
相続財産管理人を選ぶには、利害関係者が家庭裁判所に選任の申し立てを行うことが必要です。(民法第952条第1項)
選任の申し立てができる人、申し立て先の家庭裁判所は、次のとおりです。

相続財産管理人


申し立てを受けた家庭裁判所は、相続財産管理人としてふさわしい人物を選任します。
親族が選ばれることもあれば、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることもあります。

「特定遺贈を受けた人」とは

特定の財産を遺言によって受け取れる人のことです。たとえば「A銀行の預金1,000万円」のように、受け取れる財産が特定されている人を指します。

「特別縁故者」とは

法律上は、次のように定められています。

  • 亡くなった人と生計を同じくしていた者
  • 相続人の療養看護に努めた者
  • その他亡くなった人と特別の縁故があった者

たとえば、亡くなった人の内縁の夫や妻などがあてはまるケースが考えられます。

選任の公告

家庭裁判所は、相続財産管理人が選任されたことを遅滞なく公告しなければなりません。

ただし官報への公告料(約4,000円)は、申し立てをする人が負担します。

相続財産管理人に選任された人は、遺産の目録を作成するとともに、債権者や受遺者から請求があるときは、遺産の状況を報告する義務があります。

債権者、受遺者の確認のための公告

選任の公告から2か月以内に相続人がわからなければ、相続財産管理人は、債権者と受遺者を確認するために、債権者と受遺者に向けて弁済の請求を行うよう公告します。
債権者や受遺者が請求できる期間については、2か月以上に設定しなければなりません。
もし亡くなった人にお金を貸した人や、遺言によって財産を取得した人がいれば、この期間内に遺産を請求します。

債権者、受遺者への弁済

相続財産管理人は、請求のあった債権者、受遺者に必要な額を弁済します。
ここで遺産がなくなれば、以後の手続きはありません。

相続人の捜索の公告

債権者、受遺者への弁済期間が満了しても、なお相続人が本当にいないのかどうかがはっきりしない場合、家庭裁判所は相続財産管理人の申し立てによって、相続人を捜索するための公告を行います。
このとき、6か月以上の期間を定めて、相続人がいれば名乗り出るよう公告します。
この期間を経過しても相続人が現れなければ、相続人はいないことが確定し、以後、相続人としての権利を行使することはできなくなります。

特別縁故者への財産分与

上記の期間中に相続人が現れなかった場合、特別縁故者は、家庭裁判所に財産分与の申し立てを行うことができます。

申し立てができるのは、相続人を捜索するための公告期間の満了から3か月以内です。

ただし特別縁故者に遺産が分与されるかどうかは、家庭裁判所の判断となります。
もし「相続人はいないけれど、財産を遺したい人がいる」という方は、遺言書を作成し、受遺者として遺産を取得してもらう方法を検討しましょう。

国への帰属

清算後、残った財産は国のものになります。

相続人がいない場合とはどんなケース?

家族がいないケース

相続人になれるのは、配偶者、子、親、兄弟姉妹です。
そのため、

  • 未婚の方
  • お子さんがいない方
  • 相続人となる家族が既に亡くなっている方

などは、相続人がいません。

相続人が相続放棄をしているケース

相続人全員が相続放棄をしたときも、相続人がいない状態になります。

相続放棄は、相続人が家庭裁判所に申し立てることによって行われます。
もちろん、相続人の1人が相続放棄をしても次の相続順位の人がいる場合は、相続人がいない状態にはなりません。
しかし、次の人もまた相続放棄をし、全員が相続放棄をしてしまうと、最終的に相続人は0人になってしまいます。
相続人に多額の借金があるなど、相続した遺産をもっても返済できないような負債がある場合に、こういったケースが考えられます。

相続人の相続欠格・廃除などがあるケース

相続人としてふさわしくない一定の言動がある場合は、相続欠格や廃除によって相続人ではなくなります。

本当に相続人はいない?代襲相続に注意!

相続人がいないと決めつける前に、「代襲相続」の可能性がないかを考えなければなりません。
代襲相続とは、一定の相続人が

  • 既に死亡している
  • 相続欠格
  • 廃除

によって相続人ではなくなったとき、その「子供」が親の相続人としての地位を受け継ぐことをいいます。

そのため相続人がいないように見えても、実はその相続人に代襲相続人となる「子供」がいるときは、相続人がいないケースにはなりません。
この場合は、通常の相続手続きとなります。

代襲相続が発生するのは「子」と「兄弟姉妹」のみ

代襲相続が発生するのは、相続人のうち「子」と「兄弟姉妹」のみです。

ただし、代襲相続人となる「子供」の範囲に違いがあります。
まず「子」の代襲相続では、その子供(=亡くなった人の「孫」)がまず代襲相続人となります。
そして、その子供(=亡くなった人の「孫」)も死亡等によって相続人になれないときは、そのまた子供(=亡くなった人の「ひ孫」)というように、代襲相続が続きます。

これに対して「兄弟姉妹」の代襲相続は一代限りです。
したがって、その子供(=亡くなった人の「甥」や「姪」)までが、代襲相続人になります。

「親」が既に亡くなっている場合

代襲相続は若い世代が相続人になることをいいますので、亡くなった人の「親」に代襲相続はありません。
ただし、「親」が既に亡くなっている場合も、相続人がいないと決めつけるには注意が必要です。
法律上は、「直系尊属」として相続人になる者は、亡くなった人に最も親等が近い者と定められています。
そのため、もし父母ともに亡くなっている場合は、次に親等の近い直系尊属が相続人となります。
たとえば、亡くなった人に配偶者や子がおらず、父母が既に死亡していて、祖父母が健在という状態であれば、祖父母が相続人になるということです。

まとめ

相続人がいない場合の遺産についてポイントをまとめると、次のようになります。

  • 家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらうこと
  • 遺産は、債権者・受遺者の請求によって弁済されること
  • 残余財産が生じれば、特別縁故者の請求によって分与されることもあること
  • 相続人がいないと判断する際、代襲そうぞくにも注意すること