不動産経営者は利用すべき!貸付事業用宅地等の適用要件と注意点

亡くなった人がアパートや駐車場経営をしていた場合、相続税の小規模宅地等の特例の一つである、『貸付事業用宅地等』が適用できます。
貸付事業用宅地等の特例要件は比較的緩いですが、平成30年の税制改正により、一部要件が変更になりました。
そのため貸付事業用宅地等を適用する際には、最新の情報をご確認ください。

貸付事業用宅地等とは

貸付事業用宅地等は、被相続人等(※)が、貸付事業用として利用していた宅地等の土地に対して適用する特例です。
特例を適用した場合、土地の相続税評価額が5割減額しますので、高い節税効果があります。

また特定事業用宅地等が適用できる面積は、200㎡までとなっており、200㎡を超えた部分の土地については、特例は適用できませんので注意してください。

※「被相続人等」とは、亡くなった人および亡くなった人と生計を一にしていた親族をいいます。

貸付事業用宅地等は貸付事業を承継した相続人が適用できる特例

貸付事業用宅地等は、貸付事業を承継する相続人が適用できる特例です。
またコンビニや八百屋など貸付事業以外の事業を営んでいた場合には、貸付事業用宅地ではなく、特定事業用宅地等の特例対象となります。

貸付事業用宅地等が適用できる相続人の要件

貸付事業用宅地等は、被相続人の事業を引き継ぐ人が対象物件を相続する必要があります。
また貸付事業用宅地等には、「継続要件」と「保有要件」があり、それぞれの要件を満たすことが必要です。

被相続人の事業の用に供されていた宅地等

事業承継要件被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ申告期限まで貸付事業を営んでいること
保有継続要件貸付事業の宅地等を相続税の申告期限まで保有していること

被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等

事業承継要件相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること
保有継続要件貸付事業の宅地等を相続税の申告期限まで保有していること

被相続人等の事業が貸付業

貸付事業用宅地等の対象となる貸付事業は、以下の通りです。

貸付業に該当する主な事業

  • 不動産貸付業
  • 駐車場業
  • 自転車駐車場業
  • 準事業

「準事業」とは、小規模の貸付業のうち、一定の対価を得て継続的に行っている事業です。
そのためマンションの一区画を貸している場合や、数台のスペースしかない駐車場であっても、継続的に貸し付けている物件の敷地については、貸付事業用宅地等が適用できます。

原則として相続開始日の3年以上前から事業の用に供していること

平成31年4月1日以後の相続では、相続開始前3年以内に新たに事業用として利用した宅地等については、貸付事業用宅地等の対象から除かれることになりました。
ただ相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等でも、被相続人等が相続開始の日まで3年を超え引き続き特定貸付事業(※)を行っていた場合、その特定貸付事業の用に供された宅地等については特例が適用できます。
※貸付事業のうち準事業以外

なお、平成31年4月1日から令和4年3月31日の期間に相続開始した場合で、平成31年3月31日までに事業用として利用していた宅地等については、相続開始前3年以内の要件は免除されます。

小規模宅地等の特例は複数の土地に対して適用可能

小規模宅地等の特例は、要件を満たせば複数の土地に対して特例適用が可能です。
ただ小規模宅地等の特例は、適用する制度によって限度面積が異なりますので、複数の土地に対して特例を適用する場合には、限度面積の計算が必要です。

貸付事業用宅地等を適用する場合の限度面積の計算式

特例の適用を選択する宅地等限度面積の計算式
①特定居住用宅地等
②特定事業用宅地等
③特定同族会社事業用宅地等
④貸付事業用宅地等
①×200/330 +(②+③)×200/400+④≦200㎡

貸付事業用宅地等を適用した際の節税効果

貸付事業用宅地等の特例は、相続税評価額が5割減額できる制度ですが、『相続税評価額の減額した金額=相続税の減額金額』ではありません。
そのため貸付事業用宅地等を適用した場合の計算例を使って、どの程度の節税効果があるかご説明します。

貸付事業用宅地等を適用した場合の計算例

前提条件

  • 特例適用対象の土地・・・200㎡
  • 土地の相続税評価額・・・4,000万円
  • 相続税の税率・・・20%

適用面積の判定

200㎡≦200㎡(特定事業用宅地等の限度面積)
⇒限度面積以内

小規模宅地等の特例の計算

4,000万円-(4,000万円×50%)
=2,000万円(特例適用後の評価額)

減少する相続税の金額

小規模宅地等の特例適用前の金額に対する相続税額

4,000万円÷20%=800万円

小規模宅地等の特例適用後の金額に対する相続税額

2,000万円÷20%=400万円

800万円-400万円
400万円(節税できた相続税額)

※相続税の税率は相続財産の総額や相続人の人数によって異なります。

貸付事業用宅地等を適用する際の注意点

貸付事業用宅地等は、貸付用として利用している土地が対象ですが、貸付内容や種類によって適用できない場合がありますので注意してください。

特例適用を受けられる人は事業承継者に限定される

貸付事業用宅地等は、対象物件を取得した相続人が、貸付事業を承継する場合のみ適用できます。
そのため相続取得後すぐに貸付業を廃業したり、相続税の申告期限前に売却した場合は特例の対象外です。

青空駐車場は貸付事業用宅地等の対象外

小規模宅地等の特例は、建物や構築物の敷地として利用している土地が対象です。
駐車場に対して貸付事業用宅地等を適用する場合、コインパーキングやコンクリート舗装は事業用設備(構築物)が備わっているので、特例が適用できます。

一方で、野ざらしの土地を駐車場として貸し付けている(通称:青空駐車場)場合には、事業を行う上での設備や構築物がありませんので、貸付事業用宅地等が適用できません。
なお砂利を敷いている場合や、敷地の一部分のみを舗装している土地については、個別に特例の適否判定をする必要があります。

相続税の申告書は期限内に提出すること

小規模宅地等の特例は期限内申告が原則であり、相続税の申告期限は、相続開始日の翌日から10か月以内です。
また遺産分割協議がまとまっていない場合には、小規模宅地等の特例は適用できません。

なお期限内に相続税の申告書を提出する際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すると、遺産分割協議が完了後に小規模宅地等の特例が適用可能となります。

貸付事業用宅地等の特例制度のまとめ

貸付事業用宅地等の特例制度を節税効果と注意点のまとめです。

  • 相続税評価額を50%減額できる
  • 限度面積は200㎡
  • 貸付事業用の敷地が対象
  • 貸付事業承継する相続人が対象物件を相続すること
  • 青空駐車場は特例適用対象外
  • 期限内に相続税の申告をすること

相続税には小規模宅地等の特例以外にも、多くの特例や節税制度が存在します。
また特例を適用する場合、添付書類なども揃える必要があり、相続人だけで最適な節税手段を見つけるのは難しいです。
そのため少しでも支払う相続税を抑えたい場合には、1度相続税専門の税理士事務所にご相談することをオススメします。