死亡退職金の非課税限度額と具体的計算方法

遺族が受け取る死亡退職金には、「みなし相続財産」として相続税の課税対象になるものがあります。
みなし相続財産にあたる死亡退職金は、一定額まで非課税で受け取ることができ、税制上非常に優遇されていますが、その限度額や、適用範囲に注意が必要です。

この記事では、死亡退職金の非課税限度額や適用できる人、計算上の注意点等を、具体例とともに解説します。

死亡退職金の非課税限度額

死亡退職金は、遺族の生活に必要な資金であると考えられることから、その全額を、相続税の課税対象としてしまうことは社会政策的な見地からふさわしくありません。
そのため、みなし相続財産にあたる死亡退職金を相続人が受け取った場合、以下の額まで非課税で受け取れることとしています。

死亡退職金の非課税限度額

500万円×法定相続人の数

もし、相続人が受け取った死亡退職金の総額が、上記の非課税限度額以下であれば、その死亡退職金はすべて非課税になります。
非課税限度額を超える死亡退職金がある場合は、超えた分だけ、本来の相続財産と合算されて相続税の課税対象となるしくみです。

法定相続人とは

法定相続人とは、民法で相続人として定められている一定の親族のことをいいます。(詳細はこちら

法定相続人となる親族とは

まず常に相続人となるのは配偶者で、その他は、子→直系尊属(親や祖父母等)→兄弟姉妹の順で、配偶者とともに相続人となります。

法廷相続人
第1順位配偶者
(常に相続人)
第2順位直系尊属
第3順位兄弟姉妹

たとえば被相続人に妻、父母、兄がいる場合、法定相続人となるのは妻と父母の計3人となります。
ただし、死亡したお子さんが居る、養子が居るといった場合、法定相続人を判定するのに注意が必要なケースもあります。
誰が法定相続人であるかは、相続において最も重要なことになるため、判定は専門家にご相談されることをおすすめします。

相続放棄をした人が居る時の法定相続人の数

上記の計算式における「法定相続人の数」には、相続放棄をした相続人が居ても、相続放棄をする「前」の法定相続人の数で判定します。
民法上、相続放棄をした人は、最初から相続人でなかったことになり、次の順位の相続人が居れば、その人が相続人になります。

たとえば、法定相続人が長男1人のケースで相続放棄をした場合、次は、被相続人の父母などが次の相続人となります。
この場合、実際には相続人の人数が変わっているのですが、死亡退職金の非課税限度額や基礎控除の計算における「法定相続人の数」は、相続放棄を行う前の状態、つまり、長男1人のままで計算します。

この考え方は税法独自のルールで、何のためのルールか一見わかりにくいのですが、たとえばわざと相続放棄をして税額を操作しようとする人が出てくるのを防いでいると考えるとわかりやすいと思います。

死亡退職金の非課税額の計算例

ここからは具体例で見ていきましょう。

 計算例1:死亡退職金を相続人1人が取得するケース

まずは、死亡退職金を1人の相続人が取得するときの非課税額です。

事例

  • 法定相続人 妻、長男、次男(計3人)
  • 妻はみなし相続財産となる死亡退職金2,000万円を取得した。

計算

非課税限度額

1,500万円(500万円×3人)

妻の課税金額

2,000万円-1,500万円=500万円

この500万円が、本来の相続財産と合算されて相続税の対象になります。(※)
(※)実際に相続税がかかるのは、合算した相続財産から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた額です。

計算例2:死亡退職金を複数人が取得するケース

たとえば、被相続人の勤め先の退職給与規程で遺族のうち誰に支給するかが明確でない場合などは、死亡退職金を相続人の遺産分割で分けることがあります。

死亡退職金の非課税限度額(複数人が相続したとき)

500万円×法定相続人の数×その相続人が取得した死亡退職金の額/すべての相続人が取得した死亡退職金の額

事例

計算例1と同じ条件で、死亡退職金の受取額を複数人で分けてみます。

  • 法定相続人 妻、長男、次男(計3人)
  • みなし相続財産となる死亡退職金を、妻が1,200万円、長男が500万円、次男が300万円(合計2,000万円)取得した。

計算

非課税限度額

1,500万円(500万円×3人)

妻の課税金額

1,200万円-(1,500万円×1,200万円/2,000万円)=300万円

長男の課税金額

500万円-(1,500万円×500万円/2,000万円)=125万円

次男の課税金額

300万円-(1,500万円×300万円/2,000万円)=75万円

相続した分に応じて非課税限度額を分けるだけなので、相続税の課税対象となるのは計算例1の500万円(※)と変わりません。
(※)計算例2の課税金額:妻300万円+長男125万円+次男75万円=500万円

計算例3:相続放棄した人が居るケース

死亡退職金に非課税が適用されるのは、死亡退職金を「相続人」が取得した場合です。
もし相続人以外が死亡退職金を受け取った場合、非課税の適用はなく、全額が相続税の課税対象となります。
相続放棄をした人は、最初から相続人でなかったことになりますので、相続放棄をした人が死亡退職金を受け取った場合、非課税の適用はありません。

事例

  • 法定相続人 妻、長男、次男(計3人)
  • 妻はみなし相続財産となる死亡退職金2,000万円を取得した
  • 妻は相続放棄をしている

計算

非課税限度額

1,500万円(500万円×3人)

妻の課税金額

2,000万円(非課税の適用なし)

この場合、2,000万円全額が、相続税の課税対象になります。
非課税限度額は、前述のとおり、相続放棄する前の人数で計算します。

ちなみに、相続放棄をした妻でも死亡退職金を受け取れるのかというと、退職給与規程などで妻が受取人となっている場合の死亡退職金は、妻の固有の財産として扱われますので、このことは問題ありません。
しかし、みなし相続財産として相続税の対象になる上、非課税の適用がないことから、次の点に注意する必要があります。

1人の相続放棄で全員の相続税が底上げされる

相続税の計算方法は、大まかにいうと、まず相続財産の総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引き、その残額から法定相続分ごとに相続税を計算して、そのトータルの税額を、実際に取得した財産の額に応じて個人に分配します。

ここで押さえておきたいポイントは、相続税は、相続財産の総額から税額が計算されることです。

上記の例では、妻が相続放棄をしたことによって、1,500万円も多く相続財産が計上されてしまい、それによって他の相続人が最終的に負担する相続税も底上げされることになります。
こうした影響も踏まえて、相続放棄の判断は、慎重に行う必要があります。