相続税の申告書は、遺産分割協議がまとまっていない状態でも、申告期限内に提出しなければいけません。
もし申告期限を過ぎた後に申告書を提出すると、相続税以外に罰金を支払うことになります。
また未分割状態で相続税を申告する場合には、利用できない特例制度もありますので、申告する際の注意点についてご説明します。
相続税の申告期限と納税期限は相続開始から10ヶ月以内
相続税の申告期限は、被相続人(亡くなった人)の亡くなった日の翌日から10ヶ月以内です。
そのため申告期限までの間に、被相続人の財産を把握し相続税の申告書を作成することになりますが、未分割の状態でも申告期限が延長されることはありません。
また相続税の納付期限は申告期限と同日なので、申告書の提出と一緒に相続税を納める必要があります。
なお遺産分割が成立している申告の場合には物納制度を利用しての納付も可能ですが、未分割の申告では物納税度は利用できませんので、金銭で相続税を納めることになります。
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合の影響
相続税は、遺産分割がまとまっていない状態でも期限内に申告しなければなりません。
ただ未分割で申告する場合には、以下の3点に注意してください。
- 相続税の特例が適用できない
- 相続税は法定相続分の割合で算出する
- 遺産分割が成立後に相続税の申告書の再提出が必要
相続税の特例制度の一部は未分割の申告で適用することはできない
相続税には相続税評価額を減額する制度や納税猶予制度がありますが、原則として遺産分割が完了していることが要件です。
そのため、相続税の申告をする時点で未分割の場合には、一部の特例については適用できません。
未分割の状態では適用できない主な相続税の特例制度
1)配偶者控除
配偶者の取得した相続財産が1億6千万円までなら、配偶者の支払う相続税が非課税になる控除です。
数千万円の節税効果も期待できる制度なので、配偶者が相続財産を取得する場合には必ず適用すべき特例です。
2)小規模宅地等の特例
相続税の申告書を提出している人の相続財産の内訳として、土地が占める割合は全体の1/3以上です。
小規模宅地等の特例は、自宅や貸付用として使用している土地の相続税評価額が、最大80%減額になる特例制度です。
そのため小規模宅地等の特例を適用できるか否かで、納める相続税額も大きく変わってきます。
3)物納
相続税を金銭で納めることが難しい場合に、不動産などで相続税を支払う制度です。
物納申請は許可制なため全員が適用できる制度ではありませんが、未分割の場合には物納申請もできません。
4)農地の納税猶予の特例
農業を相続した人(農業相続人)が継続して農業を営む場合、農地に対する相続税が猶予される制度です。
また相続した農業相続人が亡くなった場合には、猶予されている相続税は免除されます。
相続税は法定相続分の割合で計算した金額を納める
各相続人が納める相続税額は、取得した相続財産の割合に応じた金額です。
ただ未分割の状態で相続税を申告する場合、納める相続税は法定相続割合に応じた割合を納めます。
法定相続割合とは、民法で規定されている相続財産の取得できる権利の割合です。
また配偶者の取得割合は、相続人の地位(被相続人との続柄)によって取得割合は変わります。
相続人と法定相続分の割合について
相続人 | 法定相続分の割合 |
---|---|
配偶者と子 | 配偶者・・・1/2 子・・・1/2 |
配偶者と直系尊属(両親・祖父母など) | 配偶者・・・2/3 直系尊属・・・1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者・・・3/4 兄弟姉妹・・1/4 |
※参考 相続人が配偶者と子2人の場合 | 配偶者・・・1/2 子A ・・・1/2×1/2=1/4 子B ・・・1/2×1/2=1/4 子など同じ続柄の相続人が複数いる場合には権利を等分 |
なお遺産分割により法定相続分より少ない財産を取得する予定であっても、未分割で相続税の申告をする際には、法定相続分に応じた相続税を納めなければなりません。
相続税の納付する税額計算例
- 相続税の総額が100万円
- 相続人甲、乙(被相続人の子)
1)未分割で相続税の申告をする場合
- 甲 100万円×50%(法定相続分)=50万円(相続税額)
- 乙 100万円×50%(法定相続分)=50万円(相続税額)
2)相続財産の取得割合が甲70%、乙30%だった場合
- 甲 100万円×70%=70万円(相続税額)
- 乙 100万円×30%=30万円(相続税額)
※乙が取得する相続財産の割合が30%であっても、未分割で申告する場合には法定相続分50%に応じた相続税を納めることになります。
遺産分割協議が成立したら相続税申告書の再提出が必要
未分割の申告は仮の申告であるため、実際に取得した相続財産の割合に応じた相続税を納めなければなりません。
そのため未分割の申告書を提出した後、遺産分割協議が成立しましたら、相続税の申告書の再提出が必要となります。
なお相続税の申告書の再提出期限は、遺産分割協議成立後4ヶ月以内です。
未分割で相続税の申告書を提出する際の注意点
未分割の状態で、相続税の申告書を提出する際の注意点をご説明します。
相続税申告書を期限後に提出すると罰金を支払わなければならない
相続税の申告書を期限内に提出しなかった場合、附帯税(加算税・延滞税)を支払うことになります。
加算税は申告書の提出が遅れたことに対する罰金で、申告書の提出が申告期限から1日でも過ぎた場合には加算税の対象となります。
一方延滞税は、相続税の納付が遅れたことに対して支払う罰金です。
延滞税の計算は日割り計算となっており、相続税の納付が遅れた日数分だけ支払う延滞税の金額も多くなります。
申告期限後3年以内の分割見込書を提出しないと特例制度が適用できない
相続税の特例制度の多くは、未分割の状態では適用することはできません。
ただ期限内に相続税の申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出した場合には、遺産分割成立後に申告書を再提出すれば、再提出の際に特例制度が適用できます。
なお申告期限3年以内に遺産分割がまとまらない場合には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」を提出しなければなりません。
提出期限は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までとなっているため、「申告期限後3年以内の分割見込書」と同時に、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」を提出することはできません。
まとめ
相続の遺産分割協議がまとまっていない状態でも、相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告と納税手続きが必要です。
また遺産分割協議が成立したら、すみやかに相続税の申告書を再提出しなければなりません。
未分割の状態では特例適用できない制度もありますが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、相続税の申告書を再提出する時に特例適用が可能となります。
なお相続税は、所得税などの他の税目と比べて、納める金額がとても多い税金です。
その上、節税効果の高い特例は適用要件もシビアですので、申告書を作成される前に一度ご相談されることをオススメします。
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