非上場株式の相続税評価額を計算する場合、評価会社の規模や業種、株式を取得する人によって評価方法が異なります。
適切な評価方法を用いないと、正しく相続税評価額を算出できませんので、非上場株式を評価する際の流れと、各手順におけるポイントを解説します。
非上場株式を評価する手順
相続財産に上場株式がある場合、取得した人ごとで評価方法が変わることはありません。
しかし非上場株式の評価額は、取得者ごとで評価方法自体が変わることもあるため、同じ株式を相続しても算出される評価額が違う可能性があります。
そのため非上場株式を評価する際は、次の手順に沿って評価方法を判定します。
非上場株式を評価する際の流れ
- 同族株主の判定
- 評価会社の規模判定
- 特定の評価会社の適否判定
- 非上場株式の評価額の計算
取得者が同族株主に該当するかを判定する
非上場株式は、株式を取得した人が会社の経営に影響のある立場にいるか否かかで、評価方法が違います。
会社経営に影響力がある人は「同族株主」、それ以外の人を「同族株主以外の株主」に区分し、株式を評価します。
同族株主の有無 | 株主の区分判定 | 評価方法 | |||
---|---|---|---|---|---|
同族株主の いる会社 | 同族株主 | 取得後の議決権割合が5%以上 | 原則的評価方法 ・類似行比準方式 ・純資産価額方式 | ||
取得後の議決権割合が5%未満 | 中心的な同族株主がいない | ||||
中心的な同族株主がいる | 中心的な同族株主 | ||||
役員等 | |||||
その他 | 特例的評価方法 ・配当還元方式 | ||||
同族株主以外の株主 | |||||
同族株主の いない会社 | 議決権割合の合計が15%以上のグループに属する株主 | 取得後の議決権割合が5%以上 | 原則的評価方法 ・類似行比準方式 ・純資産価額方式 | ||
取得後の議決権割合が5%未満 | 中心的な株主がいない | ||||
中心的な株主がいる | 役員等 | ||||
その他 | 特例的評価方法 ・配当還元方式 | ||||
議決権割合の合計が15%未満のグループに属する株主 |
同族株主の判断基準
株式を取得した人が同族株主に該当するかは、同族株主グループが保有する議決権の合計数で判定します。
同族株主は会社経営に影響のあるグループに属している株主をいい、同族株主グループに該当する人は、株主と株主の同族関係者です。
同族関係者は、法人税法施行令第4条の「同族関係者の範囲」に規定する個人または法人をいい、親族だけでなく事実婚の関係にある人も同族関係者に含まれます。
同族関係者の範囲
- 株主
- 株主の親族(配偶者6親等内の血族、3親等内の姻族)
- 株主と事実上の婚姻関係にある人
- 株主の使用人などの特殊関係者
- 同族関係者が議決権の50%超を保有する会社
同族株主・同族株主以外の株主の評価方法
非上場株式を取得した人が同族株主に該当する場合は、「原則的評価方法」により評価額を算出します。
原則的評価方法とは、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」および、双方の評価方式を併用して評価額を計算する方法です。
原則的評価方法のうちどの評価方式を用いるかは、会社の規模によって変わりますので、同族株主の場合、評価会社の規模判定も行う必要があります。
一方同族株主以外に該当する場合の評価方法は、「特例的評価方法」の「配当還元方式」です。
同族株主以外の株主は会社経営への影響力が低いため、会社の資産ではなく配当金額等から株価を算出します。
非上場株式の評価会社の規模判定
会社の規模は、従業員の人数や純資産価額、直前期の取引金額に応じて、大会社・中会社・小会社に区分します。
業種ごとに会社規模を判定する要素の基準は異なる
大会社・中会社・小会社を判定する場合、最初に業種判定を行います。
業種のカテゴリーは、「卸売業」・「小売・サービス業」・「卸売業、小売・サービス業以外」の3種類です。
評価会社がどのカテゴリーに該当するかは、「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」を参考に業種判定を行ってください。
参考:類似業種比準価額計算上の業種目及び類似業種の株価等の計算方法等について(国税庁)
会社規模の判定基準
会社規模は、以下の3つの要素により判定します。
- 従業員数
- 純資産価額
- 取引金額
従業員数は、直前期末以前1年間における従業員数をいい、純資産価額は直前期末における純資産額が基準です。
取引金額の基準は、直前期末以前1年間における取引金額をいい、業種ごとの会社規模の判定基準は次の通りです。
会社の事業規模の判定
規模区分 | 区分の内容 | 総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)および従業員数 | 直前期末以前1年間における取引金額 | |
---|---|---|---|---|
大会社 | 従業員数が70人以上の会社または右のいずれかに該当する会社 | 卸売業 | 20億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) | 30億円以上 |
小売・サービス業 | 15億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) | 20億円以上 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 15億円以上 (従業員数が35人以下の会社を除く。) | 15億円以上 | ||
中会社 | 従業員数が70人未満の会社で右のいずれかに該当する会社(大会社に該当する場合を除く。) | 卸売業 | 7,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 2億円以上30億円未満 |
小売・サービス業 | 4,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 6,000万円以上20億円未満 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 8,000万円以上15億円未満 | ||
小会社 | 従業員数が70人未満の会社で右のいずれにも該当する会社 | 卸売業 | 7,000万円未満または従業員数が5人以下 | 2億円未満 |
小売・サービス業 | 4,000万円未満または従業員数が5人以下 | 6,000万円未満 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円未満または従業員数が5人以下 | 8,000万円未満 |
会社規模ごとの評価方式
大会社・中会社・小会社に適用する評価方式は、原則と例外があります。
会社規模ごとの評価方式
会社規模 | 原則の評価方法 | 例外の評価方法 |
---|---|---|
大会社 | 類似業種比準方式 | 純資産価額方式 |
中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 | 純資産価額方式 |
小会社 | 純資産価額方式 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
大会社に該当する非上場株式の評価の原則は、類似業種比準方式です。
類似業種比準方式は、純資産価額方式よりも1株あたりの評価額は低くなることが多いですが、納税者の選択により純資産価額方式で株価を算出することも可能です。
中会社に該当する非上場株式は、原則類似業種比準方式と純資産価額方式を併用して評価額を算出します。
併用する際の類似業種比準方式と純資産価額方式の比率は、中会社の規模によって変わります。
また大会社と同様、納税者の選択により純資産価額方式で株価を算出することも可能です。
小会社の評価額の計算は、原則純資産価額方式を用いて評価しますが、納税者の選択により、純資産価額方式と類似業種比準方式の併用方式により株価を算出することも可能です。
特定評価会社に該当するかの判定
評価会社が特定価会社に該当した場合、指定された評価方法により株価を算出しなければなりません。
特定評価会社とは、不動産など特定の資産の保有割合が高い会社や、課税時期において開業前や休業中など、通常の経営活動を行っていない会社です。
特定評価会社は6種類に分類され、該当した種類に応じて評価方法が決まっています。
たとえば同族株主等以外の株主であれば、配当還元方式を用いて評価額を算出するのが原則です。
しかし特定評価会社に該当した場合、配当還元方式により評価額を計算できないケースもありますのでご注意ください。
特定評価会社の種類と取得者別の評価方法
特定評価会社の種類 | 同族株主等が株式を取得 | 同族株主等以外の株主が株式を取得 |
---|---|---|
比準要素数1の会社 | 原則:純資産価額方式 例外:併用方式 | 配当還元方式 |
株式等保有特定会社 | 原則:純資産価額方式 例外:S1+S2方式 | 配当還元方式 |
土地保有特定会社 | 純資産価額方式 | 配当還元方式 |
開業後3年未満の会社 | 純資産価額方式 | 配当還元方式 |
開業前・休業中の会社 | 純資産価額方式 | 純資産価額方式 |
清算中の会社 | 原則:見込分配金 例外:純資産価額方式 | 原則:見込分配金 例外:純資産価額方式 |
非上場株式の評価方法
取得者の種類や会社規模の判定を行いましたら、該当する評価方法により非上場株式の評価額を計算します。
非上場株式の評価方法の種類
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
類似業種比準方式による評価方法
類似業種比準方式は、評価対象の会社と類似業種の「配当金額」・「利益金額」・「純資産価額」・「株価」を比準させ、1株あたりの株価を算出します。
類似業種の業種目別株価等は、国税庁のホームページで公表されており、課税時期ごとで株価や配当金額の数字は異なります。
そのため課税時期における、類似業種の株価等を当てはめて計算してください。
純資産価額方式による評価方法
純資産価額方式は、課税時期の評価会社の資産から1株あたりの株価を算出します。
評価会社の資産が多ければ株価は高くなる一方、負債の比率が高い評価会社の株価は低くなります。
また純資産価額方式では、課税時期における評価会社の資産の相続税評価額を算出しなければなりません。
会社が土地を保有している場合、通常の相続税と同様に路線価などを用いて相続税評価額を計算します。
なお大会社・中会社に該当する場合でも、純資産価額方式による評価額が最も低い場合には、純資産価額方式の金額を相続税評価額とすることも可能です。
配当還元方式による評価方法
配当還元方式は、評価会社から受け取る配当金に基づき、1株あたりの評価額を算出します。
類似業種比準方式や純資産価額方式よりも、評価額の計算は比較的容易です。
なお配当還元方式で計算した評価額よりも、原則的評価方法で計算した評価額の方が低い場合、原則的評価方法により算出した評価額を用いることも可能です。
非上場株式の評価手順のまとめ
非上場株式の相続税評価額を算出する場合、最初に取得者が同族株主に該当するかを確認してください。
同族株主に該当する場合は、評価会社の規模に応じて大会社・中会社・小会社の判定を行い、原則的評価方式により評価額を計算します。
同族株主以外の株主は、特例的評価方法(配当還元方式)により評価額を算出することになるため、同族株主に該当するかで計算方法は変わります。
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