【図解】相続税申告書の作成方法を事例で解説 

相続税申告書の作成方法を、事例で解説します。
事例は、配偶者と子で1億円の遺産を相続したケース(みなし相続財産を含む)で、具体的には下記のように遺産分割を行ったものとします。

相続人が取得した財産の内容

相続税の申告書の種類

様式は第1表から第15表まである

相続税の申告書には第1表から第15表まで、たくさんの様式があります。
申告内容によっては、さらに別表を使うこともあります。

ただし、

  • 相続時精算課税を適用した財産がない
  • 納税猶予の特例を受ける人がいない

という一般的な相続のケースであれば、下記の中から必要な様式を選んで作成します。(★マークはどの相続でも必ず作成します)

★第1表相続税の申告書
★第2表相続税の総額の計算書
第4表相続税額の加算金額の計算書
第4表の2暦年課税分の贈与税額控除額の計算書
第5表配偶者の税額軽減額の計算書
第6表未成年者控除額・障害者控除額の計算書
第7表相次相続控除額の計算書
第8表外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書
第9表生命保険金などの明細書
第10表退職手当金などの明細書
★第11表相続税がかかる財産の明細書
第11・11の2表
の付表1
小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
第13表債務及び葬式費用の明細書
第14表純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額等の明細書
★第15表相続財産の種類別価額表

相続税申告書の様式は、国税庁のホームページに掲載されています。
「令和◯年分」として掲載されていますが、これは相続開始の時を基準とします。
(例:令和2年分→令和2年1月1日から令和2年12月31までの間に亡くなられた人の相続税の申告)

作成する様式の選び方と作成する順番

事例では、★マーク以外に下記の4つの書類が必要になります。

  • 生命保険金(みなし相続財産)がある
    →「第9表 生命保険金などの明細書」
  • 小規模宅地等の特例を適用する
    →「第11表・11の2表の付表 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」
  • 葬式費用がある
    →「第13表 債務及び葬式費用の明細書」
  • 配偶者の税額軽減を適用する
    →「第5表 配偶者の税額軽減額の計算書」

この4つの書類と、必ず作成する書類(★)との関係は以下のようになります。

相続人が取得した財産の内容

図の矢印は、矢印の先にある書類に結果を転記することを意味しています。

もし手書きでこれらを作成するなら、まずは各人が取得した財産を集約する「★第11表」を作成するための各表から始めるとスムーズです。

そのため「第9表」と「第11・11の2表の付表1」から作成を始めます。

「★第11表」を作成したあとは、「★第1表」の作成を行います。
「★第1表」を完成させるには、「第13表」、「★第2表」、「第5表」の作成が必要です。
「★第15表」は、財産を種類別にしたもので各人の課税価格まで記載する様式で、第11~14表までの書類を作成すれば、完成できるものになっています。

なお申告書を手書きで作成する場合、「★第1表」と「★第15表」は機械で読み取るため、黒ボールペンで作成するよう指定されています。

相続税の申告書の作成方法(第11表まで)

それでは具体的な数字をあてはめながら「第9表」→「第11・11の2表の付表1」→「第11表」までの作成方法を見ていきましょう。

第9表 生命保険金などの明細書

生命保険金(みなし相続財産)については下記の「第9表」を作成します。
作成するポイントとなる箇所に、色を付けています。

生命保険金などの明細書

まず右上の黄色の枠には、被相続人の氏名(例:鈴木A男)を記載します。他の表も同じです。

続いて赤色の枠ですが、左から、保険会社等の所在地と名称、受取年月日、受取金額、受取人の氏名を記載します。
受取金額には、みなし相続財産にあたる生命保険金を記載します。

みなし相続財産にあたる生命保険金かどうかは、保険料の負担者が被相続人であることがポイントになります。

被相続人の死亡によって受け取った生命保険金を、すべて記載する必要はありません。

続いて青色の枠ですが、ここでは生命保険金の非課税限度額を計算します。

生命保険金には、「法定相続人の数×500万円」を上限とする非課税の適用があります。

最後に、緑色の枠の左から、受け取った相続人の氏名、金額、適用される非課税金額、課税金額を記載し、一番下の合計欄も埋めます。

生命保険金などの明細

「★第11表」に転記する価額は、課税金額になります。

なお事例で生命保険金を取得したのは1人ですが、もし2人以上の相続人が取得した場合は、各人の受け取った金額に応じて非課税金額を配分することに注意してください。

第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書

「第11・11の2表の付表1」は、小規模宅地等の特例を適用するために作成する表です。

この計算明細書を相続税申告書に添付することが、小規模宅地等の適用要件の1つとなります。(租税特別措置法第69の4第6項)

小規模宅地等についての課税価格の計算明細書

まず赤色の枠ですが、ここは同意書の役割を果たします。
宅地の相続人が、小規模宅地等の特例の要件を満たしていることを確認の上、特例の適用を受けることについて同意するものです。

小規模宅地の特例は、一定期間までの保有要件などを満たさなければ適用できません。
誰が相続するかによって要件も変わるので注意が必要です。

ただし事例のようにマイホームの宅地を被相続人の配偶者が相続するときは、保有要件などは特にありません。

続いて青色の枠ですが、ここが特例の計算欄になります。
まず左端に小規模宅地の種類に対応する1~4の番号を記載します。
マイホームの宅地は「特定居住用宅地等」ですので、番号は「1」です。

続いて1~8の番号順に記入を進めます。( )は事例に基づく記載例です。

  1. 特例の適用を受ける者の氏名(例:鈴木B子)
  2. 所在地番(例:自宅の地番)
  3. 取得者の持分に応ずる宅地等の面積(例:300平方メートル)
  4. 3の価額(例:3,000万円)
  5. 限度面積要件を満たす面積(例:300平方メートル)
  6. 4のうち特例の対象となる価額(例:3,000万円)
  7. 減額される金額(例:2,400万円)
  8. 課税価格に算入する金額(例:600万円)

番号5は、事前に緑色の枠(番号10と11)を埋めておく必要があります。

緑色の枠は、限度面積の判定欄です。
特例を適用できる面積は、種類によって上限があります。
事例は「特定居住用宅地等」ですので、上限は330平方メートルです。
相続したのは限度面積以下ですから、300平方メートルをすべて特例の対象とすることができます。

よって事例では、番号10と11の判定欄に、それぞれ300と記載します。
貸付事業用宅地等との併用がある場合は、計算方法が変わるため注意が必要です。

また、この宅地を2人以上で分けて相続するときは「別表」の作成も必要となります。

第11表 相続税がかかる財産の明細書

相続財産の種類ごとに作成する明細です。

相続税がかかる財産の明細書

まず赤色の枠に遺産分割の進捗状況を記載します。
すべての財産の遺産分割が終わっていれば「1」、一部終わっていないものがあれば「2」、まったく終わっていなければ「3」に◯を付け、「1」か「2」であれば分割の日を記載します。

続いて青色の枠ですが、左から種類、細目、利用区分・銘柄等、所在場所等、数量、単価、価額、遺産分割が確定した財産であればそれを取得した人の氏名とその価額を記載します。
まず同じ種類と細目のものから順に記載して「小計」を記載し、同じ種類ごとに「計」を記載します。
種類、細目、利用区分・銘柄等については、書き方が決められています。

たとえばマイホームの宅地は左から、

  • 種類:土地
  • 細目:宅地
  • 利用区分・銘柄等:自用地(居住用)

となります。

詳しくは国税庁の「相続税の申告のしかた」の「申告書第11表の取得した財産の種類、細目、利用区分、銘柄等の記載要領」等で確認できます。
※国税庁HP「相続税の申告のしかた(令和2年分用)」

所在場所等については、不動産や家具などはその所在ですが、預貯金や上場有価証券などはそれを管理している金融機関と支店名を記載します。

一番下の緑色の枠は、11表の合計表です。
11表が複数枚にわたるときは、最後の1枚にのみ記載します。
分割された財産と未分割の財産に分けて、一番下の「各人の取得財産の価額」まで記載します。(未分割の財産は、各人の法定相続分で分けます。)

相続税がかかる財産の明細書

「各人の取得財産の価額」は、「第1表」の「取得財産の価額」に転記します。

相続税の申告書の作成方法(第1表・第2表)

「第1表」の作成は、「課税価格の計算」「各人の算出税額の計算」「各人の納付税額の計算」の3つの工程に分かれます。
「課税価格の計算」では「第13表」、「各人の算出税額の計算」では「第2表」、「各人の納付税額の計算」では「第5表」の作成が必要です。
先に「第13表」から作成します。

第13表 債務及び葬式費用の明細書

相続人が被相続人の債務や葬式費用を負担するときに作成します。

債務及び葬式費用の明細書

まず上の赤色の枠が債務、真ん中の赤色の枠が葬式費用の欄です。
事例では、葬式費用200万円を長女C子が支払っていますので、真ん中の枠に、支払先、支払年月日、金額、負担する人の氏名、負担する金額を記載します。

債務及び葬式費用の明細書

最後の青色の枠は、「債務及び葬式費用の合計額」を記載する欄です。
合計と各人の負担額を記載し、「第1表」のほか、「第15表」にも転記します。

第1表 相続税の申告書

「第1表」は上から

  • 課税価格の計算
  • 各人の算出税額の計算
  • 各人の納付税額の計算

の順で記載します。

まずは様式を見てみましょう。

第1表

図の黄色の部分が「課税価格の計算」の欄、青色の部分が「各人の算出税額の計算」の欄、緑色の部分が「各人の納付税額の計算」の欄です。
そして左から、赤色の枠が全員分の合計額、その右の青色の枠が、各相続人の額となります。
「第1表(続き)」は財産を取得した人の数に応じて足していきます。
事例のように財産を取得した人が2人であれば、「第1表(続き)」が1枚必要です。

課税価格の計算(第1表)

課税価格は、「第11表」から転記した「取得財産の価額」に下記の額を加減して、最後に1,000円未満を切り捨てます。

  • (+)相続時精算課税を適用した財産
  • (-)債務及び葬式費用(マイナスになったら0)
  • (+)相続開始前3年以内に暦年課税で贈与を受けた財産
  • 1,000円未満切り捨て

事例では、次のようになります。

第1表

各人の算出税額の計算(第1表)

各人の算出税額の計算は、次の「第2表」で「相続税の総額」を記載してから計算します。

相続税の総額の計算書

「第2表」の赤色の枠は「課税遺産総額」を計算する枠、下の青色の枠が「相続税の総額」を計算する枠です。
「相続税の総額」は、次の手順1~4で計算します。

  1. 課税価格の合計から基礎控除額(※1)を差し引いて「課税遺産総額」を計算する
  2. 課税遺産総額を法定相続分ごとに分ける
  3. 法定相続分ごとに分けた金額から相続税を計算(※2)する
  4. 手順3の相続税を合計する

(※1)3,000万円+法定相続人の数×600万円
(※2)第2表の下にある「相続税の速算表」を使用する

相続税の総額の計算書

事例の相続税の総額は、230万円になります。
「相続税の総額」を計算したら第1表に戻って、「各人の算出税額の計算」を行います。
「各人の算出税額の計算」は、相続税の総額を課税価格の割合であん分して行います。

事例の課税価格6,400万円の内訳は、

  • 妻B子:3,600万円
  • 長女C子:2,800万円

ですので、あん分割合は

  • 妻B子:0.5625(=3,600万円/6,400万円)
  • 長女C子:0.4375(=2,800万円/6,400万円)

となります。
したがって、各人の算出税額は

  • 妻B子:129万3,750円(=230万円×0.5625)
  • 長女C子:100万6,250円(=230万円×0.4375)

となります。

第1表

各人の納付税額の計算(第1表)

各人の納付税額を計算するには、まず各人の税額控除を行います。

税額控除には、

  • 贈与税額控除
  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 相次相続控除
  • 外国税額控除

があります。
控除する順番もこのとおりで、「0」になった時点で後順位の控除はしません。
今回の事例では、配偶者の税額軽減を適用します。
配偶者の税額軽減の額は、次の「第5表 配偶者の税額軽減額の計算書」で計算します。

配偶者の税額軽減額の計算書

配偶者の税額軽減の計算は、上半分の赤色の枠で行います。
青色の枠の金額が、「配偶者の税額軽減額」として、配偶者の税額から控除される金額になります。

配偶者の税額軽減といえば、配偶者が相続した財産がその相続分以下か、1億6,000万円以下であれば、配偶者に相続税がかからないというものです。

理解としてはこれでよいのですが、実際の計算式はもう少し複雑になります。

配偶者の税額軽減額の計算式は、次のとおりです。

配偶者の税額軽減額の計算式

「第5表」では、まず計算式のアとイ(分子の部分)をそれぞれ計算します。
アは、第1表のAの金額(=全員の課税価格の合計)に配偶者の法定相続分をかけた額(1億6,000万円未満のときは1億6,000万円)、イは基本的には配偶者の課税価格となります。

「基本的には」というのは、配偶者の税額軽減は未分割の財産には使えないからです。

そのため正確には「第11表」の分割済みの取得財産の額から債務・葬式費用を差し引き、相続開始前3年以内の暦年課税の贈与額を加算した額となります。

今回の事例では、アは1億6,000万円、イは3,600万円となりますので、分子は3,600万円です。
したがって、配偶者の税額軽減額は妻B子の算出税額である129万3,750円と同額になります。

第5表にある「配偶者の税額軽減の限度額」は、配偶者の算出税額から贈与税額控除を差し引いた額となります。
これは贈与税額控除が、配偶者の税額軽減の先順位の控除であるためです。

以上から、事例での各人の納付税額は、次のようになります。(納税額は100円未満を切り捨てます)

第1表

相続税の申告書の作成方法(第15表)

第15表は、相続財産の種類別価額表です。
第11表~第14表の内容に基づいて作成します。
第1表のように、左が合計額、その右が各人の価額になり、2人目以降は「第15表(続)」に掲載します。

第15表

一番下は課税価格となります。
作成したら、「第1表」の課税価格と一致することを必ず確認しましょう。